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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第9章 新たなるライバル編
155/207

第155話「羽柴寧々VS伊達美波」後編

 対東京キングダム戦。スコアは3対0とレジスタンスが3点リードのまま九回裏に突入。

 キングダム最後の攻撃だが、ネネは先頭バッターの代打松村を三振に仕留め、まずはワンアウトを取った。

 このままあとふたつアウトを取れば、ネネはプロ入り後、初の完封勝利だ。


「ネネのヤロー、調子が良いじゃんか。こりゃあ、今日は俺の出番は無さそうだな」

 ブルペンでは、抑えの島津がそう言いながらモニターを見ていた。

「そうだな……だがまだ分からないぞ、あの伊達美波が出てないからな」

 すると一緒にモニターを見ていた三好が口を挟んだ。


(伊達美波か……)

 島津は伊達の初打席で、アウトローの渾身のストレートをツーベースヒットにされたことを思い出した。

(アイツもネネと一緒で規格外のヤツだ。アイツとネネが激突したなら、果たして、どっちが勝つのか……)

「いずれにせよ、この試合、予断を許さない。俺たちも肩を温めよう」

 三好がそう言うと島津は頷いた。


 一方、マウンド上のネネは一番バッターの牧村をカウント1-2と追い込んでいた。

(いけえ!)

 高めのストレートを牧村は強振するが、バットはボールの下を叩き、打球はフラフラとライトに上がった。

 そのフライをライト斎藤が捕球してツーアウト。ドーム内からはため息が漏れる。


「ツーアウトォ!」

 遂に念願の初完封まであとひとり。ネネは笑顔で振り返り内野陣に声を掛けた。

 次のバッターは二番の東だったが、ここでキングダム鬼塚監督がベンチから出て審判に代打を告げた。


 ……まさか、もしかして?

 観客たちが期待する中、ドームにアナウンスが響いた。


「東京キングダム、代打のお知らせです。東に代わりまして……」

 場内は一瞬、静まり返る。

「……伊達美波、背番号24」

 その名前がコールされると、キングダムドーム観客席から大声援が巻き起こった。


「待ってましたあ──!」

「伊達──! 伊達──!」

 そして、伊達の登場曲である「アヴリル・ラヴィーン」の「ガールフレンド」が流れ、物干し竿バットを構えた伊達が現れると、更に地鳴りのような歓声がドームを包んだ。


「で……出てきましたよ! 伊達美波! 遂に……遂に女性プロ野球選手同士の初対決ですね!」

「そうですね! これはまさに歴史に残る対戦ですよ!」

 史上初の女子プロ野球選手同士の戦いの舞台が整い、実況も興奮を隠しきれない。ドームにカメラマンのシャッター音とフラッシュが響き渡った。


(出たな……伊達美波……)

 北条はブンブンとバットを振る伊達を見つめると、ネネにサインを送った。

(大丈夫だ。事前の打ち合わせ通りいくぞ)

 マウンドのネネは頷いた。


 大歓声の中、鮮やかな金髪をなびかせ、伊達は左バッターボックスに入るとトレードマークの長尺バットを構えた。

 そこにいつもニコニコしている伊達はいなかった。獲物を狙う肉食獣のような眼でネネを睨みつけていた。


(思ってたより、ベースから離れて立つんだな……)

 北条は伊達の立ち位置を再確認した。伊達は通常の選手よりベースから離れて立っていた。

(日本とアメリカのピッチャーの違い。それと、長尺バットの欠点をよく知った上での対応だな……)


 そう、ネネと北条の伊達対策のひとつに「内角攻め」があった。

 伊達の長尺バットは長い。それゆえに外のボールには強いが、内のボールには弱いという欠点がある。

 またアメリカでは外角のストライクゾーンを広く取る傾向があり、内角攻めには慣れていないため、内角を積極的に攻めていこうという作戦であった。しかし、今の伊達のこの立ち位置だと内角球は逆に絶好球になってしまう。


(それなら作戦変更だな……)

 北条のサインを出し直した。


 歓声とカメラのフラッシュが焚かれる中、マウンドのネネとバッターボックスの伊達は対峙した。

 やがてネネは大きく息を吐き出すと大きく振り、伊達はタイミングを合わせて右足を上げた。


(いけえ!)

 ネネは渾身の力でストレートを投じた。

 ズバン!

 142キロのストレートがアウトローいっぱいに決まり、伊達のバットは一瞬、動きかけたが途中で止まった。

「ストラ─イク!」

 まずはネネがワンストライクを奪った。


(よし、次はここだ……)

 北条が内角低めにミットを構える。ネネは頷いて再びストレートを投げた。ボールは要求通り内角低めに飛んでいく。


 左バッターボックスに立つ伊達の膝下……インローにストレートが飛び、ベース手前でホップする……と同時に伊達の長尺バットが火を吹いた。

 ガキン!

 すくい上げたようなスイング。ボールはバックネット裏に突き刺さる。ファールだ。


 伊達をツーストライクまで追い込んだネネはボールを受け取ると、はやる気持ちを落ち着かせるように大きく息を吐いた。


(よし、これでツーアウト……しかし、初見でよく当てたな、ネネのホップするストレートを……)

 北条は何気に感心していた。初見でネネのストレートを当てる選手など、そうそういないからだ。


 追い込まれた伊達は一旦、打席を外すと素振りを繰り返した。長いバットに負けず伊達はバットを振り切っている。


(いいスイングをしてるが、これで追い込んだ。作戦通りいくぞ)

 北条がサインを出すとネネは頷いた。


 ふたりが決めた追い込んだ後の伊達美波対策。それは変化球だった。

 過去の伊達のデータを見ると、ひとつの法則が浮かび上がる。それはストレートには滅法強いが、変化球は強くないということだ。特に外角の落ちる球に弱い。

(コイツはアメリカで揉まれてるから、基本的な攻め方は外国人と同じだ。内角を意識させて、外の変化球で仕留める……ということで、勝負球はここアウトロー。それもボールからストライクゾーンに落ちてくるドロップだ)


 伊達が打席に入るのを見て、ネネはゆっくりと振りかぶった。伊達は右足を上げて、一本足になるとタイミングを取った。


(いけえ!)

 ネネはウイニングショット『懸河のドロップ』を投じた。

 コースは外角の高め。ストライクゾーンを外れている。ストレートを予想していた伊達のバットはタイミングがズレて動きが止まった。


(よし! 狙い通り!)

 北条はほくそ笑んだ。やがて強烈なスピンがかかったボールは外角高めからブレーキが効いて、鋭くストライクゾーンに落ちてきた。

 北条が外角ギリギリの球をキャッチしようとした。その時だった──。


 ドン! 伊達は右足を強く地面に叩きつけると、長尺バットを一気に振り抜いた。

 カキーン!

 次いで、快音が響く。

 ネネは思わず打球の行方を見ると、打球は鋭い当たりでショートの頭上にライナーで飛んでいた。


「クッ……!」

 ショート明智がジャンプ一番、キャッチを試みるも、打球は伸びて明智が差し出したミットの上を抜けると、レフトとセンターの間で弾んだ。


(ば、バカな!? 初見でネネのドロップを打つとは……)

 北条は思わず、マスクを脱ぎ捨てた。


「や……やったあ──! 美波──!」

 キングダムベンチでは成瀬が手を叩いて大喜びをしている。

 一方で一塁ベース上を駆け抜けた伊達がヘルメットを脱いで、金色の髪をバサッとかき上げていた。

 センター前ヒット。

 史上初の女性プロ野球選手同士の戦いは、伊達美波に軍配が上がった。


「伊達! 伊達!」

 ドーム全体から伊達コールが巻き起こり、伊達は声援に応えるように片手を上げてニッコリと笑った。



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