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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第9章 新たなるライバル編
153/207

第153話「羽柴寧々VS伊達美波」前編

 八月に入り、ペナントレースは混沌していた。首位を走っていたファルコンズがジリジリと後退していたからだ。

 それはファルコンズの頭脳、児嶋がデッドボールを受けて負傷離脱したことが大きかった。また田畑監督も持病のため入院。ふたりの要を失ったファルコンズは苦戦を強いられていた。


 一方、対照的なのはレジスタンスとキングダム。両チームとも各球団に勝ち越して、二位と三位をキープしている。

 涼しいドームを主戦場としていることから、例年キングダムは真夏に強い。

 レジスタンスも同じくドームを主戦場にしているが、毎年、この時期は選手が息切れを起こし、最下位が指定席になるのだが、今年は違った。それには三つの理由があった。


 まずひとつ目は春のキャンプでみっちり鍛えあげられたことで、各選手の基礎能力の底上げができ夏バテしない体力がついたこと。


 そしてふたつ目はコーチ陣の活躍。

 杉山ピッチングコーチはかたくなにローテを守り、投手陣に無理をさせない。これで、投手陣は疲れもなく安定した成績を残していた。

 また打撃面では岩田バッティングコーチが、各バッターのモチベーションを上げ、打線の奮起を促していた。


 三つ目はネネと勇次郎の活躍だった。

 ネネはここまで8勝5セーブで防御率は2.25。

 勇次郎は打率は三割を超え、ホームランは20本、打点も70と四番に相応しい成績だ。

 このふたりに引っ張られて、他の選手たちも数字を伸ばしていた。


 レジスタンスが好調なのは、この三つが大きな要因なのだが、これらすべてが機能しているのは今川監督の手腕に他ならない。

 新人監督である今川が、長年低迷していたレジスタンスを優勝争いできるまで引き上げたことをマスコミは絶賛していた。


 そんなレジスタンスは首位ファルコンズに1ゲーム差まで迫り、キングダムドームで三位キングダムとの決戦を迎えることになった。


 この時点での順位は

 一位、神宮ファルコンズ

 二位、大阪レジスタンス 首位と1ゲーム差

 三位、東京キングダム 首位と3ゲーム差

 首位から三位までが3ゲーム差以内という接戦だった。


 そして、8月16日の金曜日、お盆休みも後半に入る中、レジスタンスは東京のキングダムドームに乗り込んだ。

 この三連戦に勝てば、ファルコンズ次第では何十年振りかの首位に立つ。ただ三連敗すれば三位転落もあり得る大事な試合だ。


 その大事な初戦、ネネは先発を任され、キングダムドームではこの決戦をあおっていた。

 キングダムのマスコットは犬の「キングくん」、レジスタンスは猫の「レジーくん」と「コゼットちゃん」。

 そのマスコットが横向きで向かい合い「DOG VS CAT」の文字が踊るポスターがドーム周辺に貼られた。そして、もう一枚貼られていたのは……。


 ネネと伊達美波が映っている「羽柴寧々VS伊達美波」の文字が踊るポスターだった。


 ここまで伊達はスタメンはないが、代打で起用され、10打数5安打、打率は驚異の五割をマーク。また打点も2つ挙げていて、そろそろスタメンか? とマスコミは騒いでいた。

 となると、もしかしたら今日、史上初となる女性プロ野球選手同士の初の戦いが見られるかもしれない……。

 ファンの期待度は最高潮になり、初戦のチケットは完売。試合前にキングダムドームは否応なしに盛り上がっていた。


 そして迎えた試合当日、ビジターであるレジスタンスの練習が終わり、軽く汗をかいたネネがベンチ裏通路に出ると女性の声が響いた。


「キャ──! ネネー! 久しぶり──!」

 伊達美波だった。伊達はネネに駆け寄りギュッと抱きついてきたが、ネネは冷たい目で伊達を睨んだ。

「あ、あれ? どうしたのネネ……そんな怖い顔して……怒ってるの?」

「あ……当たり前でしょ。人をマングースみたいだとか言って……」


 以前、レジスタンスドームで伊達にマングースみたいだと言われたネネは後でスマホでマングースの姿を見て、ずっこけた。

(な、何この動物……私、コレに似てるってか!?)

 それが伊達に怒っている理由だった。


「違うよ──、ネネ─、『のだめ』に出てくる着ぐるみの方だよ─」

「……でも、結局、小動物系じゃない」

 ネネは再び伊達を睨む。

「そんなこと、ないない! ネネが可愛いのは本当だよ!」

 伊達は全然悪びれずにニコニコして、ネネにスリスリしてくる。

(全く、この娘は……)

 伊達の無邪気な姿はどうにも憎めなくて、ネネは苦笑いした。


「な、何やってんだ? お前?」

 すると、伊達に抱きつかれているネネの姿を見て、たまたま通りかかった勇次郎が驚いた声を上げた。


「あ……勇次郎」

「わあ! 織田勇次郎だ!」

 勇次郎の姿を見た伊達はネネから離れると、今度は嬉しそうに勇次郎の腕にしがみついた。


「な……!?」

「ちょ、ちょっと……! 何してんのよ、美波!」

 あまりに破天荒な行動にネネと勇次郎は思わず声を上げた。


「レジスタンスのゴールデンルーキー織田勇次郎。歳も近いし同じバッターとして気になってたんだよね──! キミとも一度お話ししてみたかったんだ!」

 伊達は嬉しそうにニコニコ笑いながら、勇次郎の腕に自分の胸を押し当てたが、勇次郎は明らかに不快な表情をした。


「あの……離してもらえますか?」

「あら? 案外、照れ屋さんなのね」

 伊達は不機嫌そうな顔で身体を離した。

「敵と遊んでるのもいいけど、今日は先発なんだから、もっと気合いを入れろよ」

 勇次郎はネネにそう言うと、足早に去って行った。


「何あれ? こんな美女が腕を組んでるのに、露骨にあんな嫌な顔をして……ルックスはいいけど、中身は無愛想の塊みたいな男ね……」

 伊達は口を尖らせ、不満気な顔をした。

「はは……そうだね、アイツはいつもあんな感じだから」

 ネネがそう言うと、伊達はクルッとネネに振り返った。

「あれ? 何か動揺してない? もしかして、ネネ、あの無愛想な男のことが好きだとか!?」

「え!? そ、そんなことないよ!」

 ネネは全力で否定する。

「あら? ジョークだったのに本気だった?」

 伊達はクスクスと笑った。

「ちょ、ちょっとお……」

 ネネはガクッとした。

(本当に自由人だなあ……この人)


「あ、それよりネネ、今日は先発なんだよね?」

「う、うん……」

「あ──あ、スタメンならネネと勝負できるのになあ」

 伊達はつまらなさそうに呟いた。


「おいネネ、行くぞ」

 すると、今度は北条に声をかけられてネネは振り向いた。

「あ……はい。じゃあね、美波、私、ブルペンに行くから……」

「うん、じゃーね──、ネネー!」


 伊達は足取り軽やかに自陣ベンチへ戻って行った。その背中の背番号24を見ながら北条は口を開いた。

「……アレが噂の伊達美波か? 今日はスタメンじゃないみたいだな」

「はい……」

ネネと北条はブルペンに歩く

「まあいいさ、伊達美波対策は練ってある。もし出てくるなら、打ち合わせ通りいくぞ」


 ネネは大きく頷くと、自陣ベンチに戻る伊達の後ろ姿を見つめた。





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