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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第1章 プロ野球入団編
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第15話「サバイバルゲーム」①

 新しい年が明けた。1月1日が誕生日のネネは18歳になった。

 そして1月15日の早朝、ネネは新幹線で一路、大阪に向かっていた。昨年に通達された育成選手同士の紅白戦に参加するためだ。


 新幹線に揺られながら、ネネは思いを馳せていた。

(メールが来て以来、杉山コーチや水間さんたちが作った練習メニューをやり遂げる日々を送った。少なくとも、あの日、織田勇次郎と対戦した時よりも自分は成長しているはずだ。今日どんな試合が行われるか分からないが、きっと大丈夫。コーチたちから指示された強化メニューはすべてやり尽くした)


 新幹線が新大阪駅に着くと、そこから地下鉄に乗り換えて「ドーム駅前」に向かった。

 駅に着き、一番出口を出ると、目の前に巨大な白亜の建物が現れる。

 その建物こそが、大阪レジスタンスの本拠地である『レジスタンスドーム』だ。


 レジスタンスは以前、甲子園を本拠地にしていたが、今はこのレジスタンスドームを本拠地としている。

 収容人数は五万人。十年前に完成したこのドームは、オフシーズンには各種コンサートやイベント等に使われることもある。


 ネネは球団から指示のあったドーム関係者の入り口に向かった。入り口前にはかなりの人がいた。招集されているのは、恐らく全員育成選手だろう。

 屈強な男達の中では小柄なネネの姿は逆によく目立つ。皆がネネをジロジロと見つめた。好奇心半分、敵意半分の目つきだった。


 集合時間の11時になると、球団職員の案内で全員ドームの内部に案内され、各自ユニフォームに着替えた後、道具を持ってグラウンドに集まるよう指示された。

 ネネは女性なので別に更衣室が用意されていた。ユニフォームに着替えると、ベンチを通ってグラウンドへ出た。


 ベンチを出たネネの眼前に広がっていたのは圧巻の風景だった。

 ドーム内は暖房が完備されており暖かく、眩いライト光線がグラウンドを明るく照らしていた。足元にはまるで本物の芝のような緑の人工芝が輝いている。

 ネネはしゃがみ込んでグラウンドの芝に手を触れた。最新テクノロジーを駆使したという人工芝は、まるで本物の芝のようにフカフカしていた。

(噂通りだわ、本当にすごい設備……)

 レジスタンスドームは十二球団屈指の設備を備えているが、肝心のレジスタンスが不甲斐ない成績であることから、レジスタンスのマスコットの猫に掛けて『猫に小判ドーム』と揶揄されていたのだ。

(でも、まさか今日このドームで試合ができるなんて……)

 ネネはブルっと武者震いをした。またネネだけでなく他の育成選手たちもグラウンドの立派さに感嘆していたが「全員集合!」という号令に皆、顔色が変わった。


 一目散に号令をかけた人物の元に走ると、そこにはユニフォームを着た二軍監督がいた。

「よく集まってくれた育成選手の諸君! 今日は告知通り、このドームで紅白戦を行ってもらう!」

 紅白戦……すなわち、育成選手同士での試合だ。全員の顔に緊張が走った。

「試合の概要等は、これから監督が説明をする」

 すると、ユニフォームを着た今川監督がぬっと現れて皆の前に立った。


「今季からレジスタンスの監督を務める今川だ。まあ、みんな楽にして聞いてくれ」

 今までチンピラみたいな格好しか見ていなかったから、今川監督のユニフォーム姿がやけに新鮮に見えた。

「先程、指示があったように、今日はここで育成選手同士の紅白戦を行ってもらう。そして、見どころのあるヤツは、今日この場で支配下登録選手にすることを約束する」

「ええ!?」

 集まった育成選手たちから驚きの声が上がった。本来であれば、実績を積むか監督の目に留まらないとなれない支配下登録選手に、活躍次第では今日すぐになれるというのだ。育成選手たちにとって、こんな夢のようなチャンスはない。ネネも一気にテンションが上がった。

(上手くいけば、今日にでも支配下登録選手になれるかもしれない。これは願ってもないチャンスだ……)


「その代わり、負けたチームの選手は、全員解雇にする!」

 しかし、今川監督が次に発した突然の解雇発言に、色めきあっていた選手たちから一気に笑顔が消えた。


(え? ええ!? 嘘でしょ? 今日いきなり試合をさせられて、負けたら解雇ってこと?)

 ネネも言葉を失った。一方的に試合をする、と集められて、負けたチームは解雇だというのだ。驚かないほうがおかしい。


「そもそもなあ、前フロントの方針かもしれんが、育成選手28人は多すぎる」

 今川監督がそう発言する。

 育成選手とは練習生のような扱いで、上限はなく何人でも契約できるため、青田刈りのつもりでレジスタンスは十二球団最多の育成選手を保有していたのだ。

「俺の考えでは、そうだな……育成選手は十人以下にしたいな」

 今川監督は顎髭を触りながら言った。


(じゅ……十人以下? ちょっと待ってよ! ここにいる半分以上の選手を解雇するってこと!?)

 ネネは開いた口が塞がらなかった。


「何か質問あれば、受け付けるぜ」

 今川監督がそう言うと、すぐさま前方の選手が質問した。

「き、今日の合格選手は何人の予定ですか?」

「決めてねえなあ」

 今川監督は顎髭を触りながら続ける。

「但し、こういうパターンもあり得る。合格者ゼロ、ここにいる28人全員解雇っていうパターンもな」

 今川監督はニヤリと笑い『全員解雇』と言う言葉に、皆、動揺を隠せなかった。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

 後方にいた少し小柄な選手が発言した。

「自分は今年育成選手として契約したばかりです。自分も解雇の対象になるんですか?」


(私と同じだ……)

 自分と同じ境遇の選手の発言にネネは聞き耳を立てた。

「当り前じゃん。そんなの関係ねえよ、負けたらクビよ、クビ」

 だが、今川監督は少しも考える素振りを見せずに即答した。

(え……? じゃあ、せっかくプロ野球選手になれたと思ったのに、今日いきなり解雇になる可能性もあるってこと!?)

 ネネは青ざめた。


「さ、最後にもうひとついいですか?」

 その新人選手が更に質問した。

「なぜ今日、このレジスタンスドームで紅白戦なんですか? 二軍グラウンドではなくて……」

 今川監督は間髪入れずに答える。

「お前らのベストパフォーマンスを見たいからだ。あんな寒い屋外のグラウンドでは実力も発揮できないだろう。そしてもうひとつ……今日、解雇になる選手の思い出作りだよ。最後にレジスタンスドームで試合をしたっていうな……さあ、もういいだろう、各自健闘してくれ!」

 そう言うと今川監督は去っていき、残された選手たちは、あまりの急激な展開に呆然と立ち尽くしていた。


「まさか、いきなり解雇はないだろう」と言う声が聞こえてきたが、ネネはそんなことは微塵も考えていなかった。

(織田勇次郎をレジスタンスに入団させるために、女の自分を引っ張り出し、指名権譲渡制度まで持ち出した男だ。本気だ……あの監督なら、育成選手を全員解雇とかいう暴挙もやりかねない……)


「では、これからチーム分けを行う。AとBで分けるから名前を呼ばれたら、Aチームは一塁側ベンチへ、Bチームは三塁側に移動するように」

 皆の動揺をよそに二軍監督が名前を呼びだした。


「羽柴寧々、Aチーム!」

 ネネの名前が最後の方に呼ばれ、ネネはAチームのベンチである一塁側に歩いていった。

 育成選手全員の組み分けが終わり、28人いた選手たちは、ちょうど半分に分かれた。それぞれのチームの監督は二軍のコーチが務めるらしい。

 スターティングメンバーを決める間、各自、身体を温めるように指示があったので、皆、グラブとボールを持ってキャッチボールを始めだした。


(私も肩を温めなきゃ……)

 周囲を見渡し、キャッチボールの相手を探すが、皆、ネネと目を合わさずに次々とペアを作っていく。

(どうしよう……)

 相手が見つからず困っていると、ひとりの眼鏡をかけた男が話しかけてきた。

「ねえ、良かったら僕と組まない?」

「は、はい!」

 キャッチボールの相手ができたことにネネはホッと胸を撫で下ろした。


 そして、ネネがキャッチボールを始める頃……。

 バックネット裏には、今川監督、杉山投手コーチ、そして今季から打撃コーチを務める岩田打撃コーチの三人が座っていた。


「監督、本当に新人の育成選手も解雇するんですか? 監督が自らテストした、あの羽柴寧々も?」

 岩田コーチが今川監督に問いかけた。岩田は今季から就任した熱血漢のコーチだ。

「当然、当然、せっかく記者会見もしたけど、チームが負けたらクビよ」

 今川監督は缶コーヒーを手に、笑いながら答えた。

「厳しいですね、監督は」

 杉山コーチが苦笑いする。

「そうか? これくらいの課題、アイツなら難なくクリアしてみせるだろう。なあ、勇次郎ちゃんよ」


 今川監督が首を後ろに向けた。すると、そこにはなぜか織田勇次郎の姿があった。


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