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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第8章 奪われたライジングストレート編
142/207

第142話「猫の首に鈴を付けろ」⑤

 午後二時、対ファルコンズ戦がプレイボール。まずは後攻のレジスタンスナインが守備に付く。


「大阪レジスタンス、先発投手を務めるのは……唸る剛腕『ライジングキャット』、羽柴──寧々──!」

 場内にアナウンスが流れ、登場曲「Sweet Emotion」のメロディに乗ってネネがマウンドに向かう。

「頼むで──! 羽柴──!」

 スタンドからは大歓声だ。

 

 ネネはマウンドの土を慣らしながら、サードの守備に付く勇次郎を見た。勇次郎は何事も無かったかのようにボール回しをしている。

(……全く、勘違いでネックレスを引きちぎっておきながら、少しは謝ろうって気はないのかしら?)

 ネネは呆れてため息をついた。


 投球練習が終わると、審判の手が上がり、試合開始になる。先攻のファルコンズは一番バッターの岡本が右打席に入る。

(ウチの明智と同じタイプだ。気をつけろよ)

 北条がサインを出す。ネネは頷いて、第一球を投じた。


 外角にズバンとストレートが決まり、ワンストライク。スピードガンは142キロを計測している。

 拍手が起こるスタンドをバックに、ネネは北条からボールを受け取った。


 その後、ネネは安定したピッチングを見せる。

 一番、岡本をドロップでセカンドゴロ。

 二番、メジャー帰りの梅田をサードゴロ。

 三番、ベーブこと西田をライトフライに打ち取った。


「よし! いいぞネネ!」

 北条に褒められてネネはベンチに戻る。三者凡退の完璧な立ち上がりだ。

 

 一回の裏はレジスタンスの攻撃。ファルコンズの先発はサウスポーの板倉。右の細川、左の板倉と言われ、ファルコンズが誇るダブルエースのひとりだ。

 この三連戦、ファルコンズもエースを立て、一気にレジスタンスを突き放そうと目論んでいた。


 板倉はサウスポーから繰り出される快速球を内角に集めて、強力レジスタンス打線を三者凡退に仕留める。

「今日も児嶋のリードは冴えてるな……絶対に先取点を許すなよ!」

「はい!」

 北条に檄を飛ばされ、ネネは元気よく二回の表のマウンドに駆け出していく。


「神宮ファルコンズ、四番キャッチャー、児嶋」

 この回はファルコンズの頭脳、児嶋からだ。


「どうも」

 打席に入る前に児嶋が北条に頭を下げた。

(ここまで、ホームラン数はわずか5本だが、コイツはデータで打つタイプからか、得点圏打率が異常に高い。ランナーはいないが気を抜くなよ)

 北条は慎重にサインを出した。


 一球目、外角にドロップが決まり、ストライク。

 二球目はストレートが高めに浮きボール。カウントは1-1、ネネは少し力んでるみたいだ。


 三球目、北条はアウトローにストレートのサインを出すがネネは首を振る。

 そして、逆にネネからサインを出した。それは外角へのスライダーだった。

(まあ、手を出してくれれば儲け物か……)

 北条は渋々、了解した。


(児嶋さん、見てください……これが教えてもらったスライダーです!)

 ネネはストレートと同じ感覚で球を弾いた。


(アウトローから微妙に変化して外に逃げる見せ球だ……振らないだろう)

 北条はそう予想した。しかし、意外なことにそのスライダーに児嶋は手を出した。

「ストライク!」

 バットは空を切った。カウントは1-2に変わる。


(は、はあ? 選球眼が良い児嶋が手を出すとは……? バッターから見ると効果的なのか? このスライダー?)

 北条は戸惑いながら返球する。


(やった! 空振りを取った! やっぱりこのスライダーは通用するよ!)

 対照的にネネはニコニコしながらボールを受け取った。カウントは1-2だ。


(……しかしまあ、児嶋がボール球を振ってくれたのはラッキーだった。これで、高めのストレートで勝負できる)

 北条はサインを出し、ネネは頷く。


 ネネは大きく振りかぶり、いつもと同じ感覚でボールを弾く。

(いけえ!)

 指先から弾丸のようなライジングストレートが内角高めに飛んだ。


(よし! ここから伸びる!)

 北条がキャッチングしようとした、その時だった。

 カキン!

 児嶋のバットがネネのストレートを捉えた。


(な、何い!?)

 意外な一撃に北条はマスクを脱ぎ捨て打球の行方を追った。打球はセンター方向に高く舞い上がり、スタンドからは悲鳴が聞こえる。

 しかし、深く守っていたことが幸いした。センター毛利がフェンスにつきながらキャッチした。センターフライでワンアウトだ。


 北条は胸を撫で下ろしながらセンター方向を見た。

(渾身の球だったが、まさかあそこまで運ばれるとは……?)

 次いでバックスクリーンの球速を見るが、スピードガンは142キロを計測していた。

(たまたまか……142キロ出てるしな)

 北条は首を振りマスクを被り直した。


 その後、ネネは続く五番と六番をセンターフライ、ショートゴロに打ち取り、二回表のマウンドを降りた。

 そして、二回裏のレジスタンスの攻撃は四番の勇次郎に回る。


「どうも織田くん、ネネちゃんの首の鈴は気がついた?」

 勇次郎が打席に入ると、児嶋が話しかけてきた。

「呪いのネックレスなら、処分しましたよ」

 勇次郎は児嶋の方を見ずに答えた。

「あら? もったいない。結構高いんだよ」

「デマを流したり、結構セコイことするんですね? ファルコンズは」


 ズバン! 一球目、板倉のスライダーが内角に飛ぶがボール。

「ふふ……苦労したんだよ、猫の首に鈴を付けるのは」

 児嶋はピッチャーに返球しながらささやいた。


 二球目、内角の角度の付いたストレート。サウスポー特有の右打者の内角を突くクロスファイヤーだ。

 しかし、その球を勇次郎は完璧に打ち返した。


 カキーン!

 快音を残し、打球は左中間を真っ二つ。勇次郎は悠々と二塁まで進んだ。

「ワアアアア!」

 スタンドからは大歓声、ノーアウト二塁、先制のチャンスだ。


(ふーん、昨日引っかかった『ささやき』はもう通用しないか。やっぱり並のバッターじゃないな、コイツ……)

 児嶋は二塁ベース上で肘当てを外す勇次郎を見つめた。

(まあでも、ここまでだよ。羽柴寧々の終わりは着実に近づいている。その後でお前はゆっくり料理すればいい……)

 そして、不敵な笑みを浮かべた。




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