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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第8章 奪われたライジングストレート編
141/207

第141話「猫の首に鈴を付けろ」④

 試合開始一時間前、ミーティングも終わり、選手たちはリフレッシュルームで自分なりに集中力を高めていた。


 部屋には簡単な軽食が用意されていて、勇次郎が軽食を取りにサンドイッチコーナーの前に行くと、そこにネネがいた。

 しかし、昨日の暴言のこともあり、勇次郎は気まずく、無言でサンドイッチを取った。その時、勇次郎はふとネネの首元を見て、先程の児嶋の言葉を思い出した。


『羽柴さんの首には大きな鈴が付いてるよ』


(児嶋さんのあの言葉は何だったんだろう?)

「なあ……」

 勇次郎はネネに話しかけた。

「な、何……?」

「お前……首に何か着けてないか?」

「首に? これのこと?」

 ネネはユニフォームの下からネックレスを出した。それは疲労回復やパフォーマンス向上に効果があるといわれ、多くの選手がしているスポーツネックレスだった。

「それ……いつからしてるんだ?」

「え? オールスターの時からだよ。児嶋さんからもらったの。効果あるよって……」


(また児嶋かよ……)

 勇次郎はうんざりしたが、すぐに児嶋のある言葉を思い出した。

(首に……鈴……!?)

 勇次郎はネネに詰め寄ると、ネックレスを掴んだ。

(コレか……!?)


「ちょ、ちょっと!? 何すんのよ!」

 ガシャン!

 突然の勇次郎の奇行にネネは驚いて、手に持っていたトレイを落としてしまい、皆の視線が集まった。


(コレが鈴の正体か……!)

「な、何なのよ!? いきなり! やめてよ!」

「……外せ」

「は、はあ!?」

「今すぐこのネックレスを外せ! コレは児嶋のワナだ!」

 そう言うと、勇次郎はネネからネックレスを引きちぎろうとして、思い切り力をいれた。

「い……痛い! や、やめてよ──!」


 部屋にネネの声が響き渡り、すぐさま北条が勇次郎を羽交い締めにした。また騒ぎを聞きつけた斎藤と黒田もふたりに駆け寄った。


「げ……ゲホゲホ……」

 ネネは首を押さえながらしゃがみ込んだ。ネックレスは無惨にも引きちぎられていた。

「ネネ! 大丈夫!?」

 騒ぎを聞きつけた毛利がネネの元に駆け寄り、ネネを気遣った。

「う、うん……」

 ネネは怯えた表情で勇次郎を見た。勇次郎の手には引きちぎられたネックレスがあった。


「何、考えてんだ、テメエ?」

 黒田は羽交締めにされている勇次郎を怒りの形相で睨んだ。

「……ちょっとこいや」

 勇次郎は北条と斎藤、黒田に首根っこを掴まれ別室に連れて行かれた。


 ロッカールームに連れ込まれた勇次郎は三人の前で正座をさせられた。

「……何であんなことをした?」

 北条が詰め寄る。斎藤と黒田は睨んでいる。

「こ……このネックレスが児嶋さんの策略だからです」

 勇次郎はネネから引きちぎったネックレスを見せた。

「は……はあ?」

 あまりに突飛な回答に三人の頭から上っていた血の気が引いた。

「さっき……児嶋さんから言われたんです『羽柴の首に鈴を付けた。今日も勝つのはファルコンズだ』って……」

 斎藤はそのネックレスを手に取って見た。

「鈴じゃないぞ。それに特に変わったネックレスじゃないと思うが……」

「い、いや……普通のネックレスじゃないですよ、それ! きっと何か……そう! 力を奪うような呪いのネックレスですよ!」


 ガン!

 勇次郎の頭に黒田のゲンコツが落ちた。

「お……落ち着けバカ! そんなネックレス、あるわけないだろう!」

「い……痛て……」

 勇次郎は頭を押さえている。

「全く……お前はガキか? 何が呪いのネックレスだ!」

 北条は笑いをこらえている。いつもは冷静な斎藤も同じだ。


 こうして、後々までネタにされる「呪いのネックレス事件」は幕を閉じた。


 そして、試合開始10分前、ブルペンで北条から事の顛末を聞いたネネは呆れながらも、勇次郎の不可解な行動の理由が分かりホッとしていた。

「……で、勇次郎は大丈夫なんですか?」

「ああ、今は明智や蜂須賀から散々からかわれてるよ」

 北条はガハハと笑った。

「あの……北条さん……」

「何だ?」

「勇次郎……児嶋さんがデータを集めてるって聞いてから、もの凄くナーバスになってるんです。私が児嶋さんと話してるから、あんなに疑心暗鬼になるんですかね……?」


(ふーむ……)

 北条は少し考えた。

「よし、分かった! 勇次郎と児嶋の件は俺が何とかする! それよりもお前はピッチングに専念しろ!」

「は、はい!」


 その頃、ファルコンズベンチでは児嶋と岡本が話し込んでいた。

「大丈夫でしたか? 織田との話は?」

「うん、大丈夫、大丈夫。それよりも今日の戦術、間違いないように頼むな」

「はい、それは大丈夫です。一宮コーチも了承してますから」

「ありがとう」

「でも意外でしたね?」

「何が?」

「あの野球能力年齢テストですよ……織田の野球年齢の件」

「ああ、あれか」


 実は野球能力年齢テストを織田勇次郎でも試してみたのだ。すると、勇次郎の野球年齢は三十代……つまりバッティング技術は完成され、これ以上、伸び代がないと判断されたのだ。


「どうりでルーキーながら活躍してるわけですね。でも悲惨ですね。まだ19歳なのにもう伸び代がないってのは」

 岡本は笑いながら話しかけたが、児嶋は何か考え事をしているようでうわの空だった。

「……? 児嶋さん?」

「あ……ああ、悪い。そうだな。織田勇次郎、恐るるに足らず、だ」


 笑顔を見せた児嶋だったが、実は内心、恐れていた。

 それは、昨日ふと戯れで第1戦の勇次郎のデータを打ち込んだ所、とんでもない映像が出たからだった。

 AIが判定した現時点の織田勇次郎の野球年齢は「赤ん坊」の映像だった。

 成長が大人から子供になることなんて有り得ない。AIの判定は絶対だ。

 児嶋は焦った。そして、再度勇次郎のデータを打ち込んだところ、驚愕する事実が判明した。

 それは織田勇次郎の野球年齢は「変化」するということだった。

 つまり織田勇次郎は場面や状況に応じてバッティング能力が上がる……データでは計算できない『無類の勝負強さを発揮するバッター』ということが分かったのだ。


(危険だ……羽柴寧々だけじゃない。織田勇次郎も化け物だ。このふたりは絶対に叩き潰す……)


 児嶋はスコアボードの時計を見た。時間は試合開始の二時を示そうとしていた。




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