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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第8章 奪われたライジングストレート編
139/207

第139話「猫の首に鈴を付けろ」②

 オールスター明け、四日間の休みを経てペナントレースが再開する。

 レジスタンスは7月26日からの金曜日から、ホームにて首位神宮ファルコンズと三連戦を戦う。


 セリーグの順位は現在、首位が神宮ファルコンズ。大阪レジスタンスはゲーム差3で二位、三位は2ゲーム差で東京キングダムだ。

 ここで三連勝すれば一気に首位に並ぶが、三連敗すればゲーム差は6になり、下手したら三位転落もあり得る大事な首位攻防戦だ。


 NPBは各リーグの一位から三位が戦うクライマックスシリーズを採用しているが、近年、セリーグでは優勝チームを尊重し、隔年ごとにクライマックスシリーズを開催している。今年はクライマックスシリーズがない年になるので、優勝しなければ二位も三位も同じである。

 そのため、優勝を狙うレジスタンスはファルコンズに対し、必勝ローテを組んだ。

 第1戦、前田、現在9勝5敗

 第2戦、ネネ、現在6勝1敗5セーブ

 第3戦、大谷、現在5勝1敗


 この若手を中心としたローテでファルコンズを叩く。

 まず第1戦はチームの勝ち頭、前田が先発する。試合前のミーティングでは今川監督の熱いゲキも飛び、チーム内の気合いも充分だ。

 ネネは第2戦の先発のため、初戦はベンチ入りせずに由紀と一緒に戦況を見守ることとなった。


 試合前、ネネがドーム内の廊下を歩いていると、ファルコンズの児嶋と再開した。

「児嶋さーん!」

「ああ、羽柴さん」

 児嶋が笑顔で手を振る。

「田村監督は大丈夫ですか?」

 ファルコンズの田村監督は持病の心臓の調子が悪く、今回の試合には同行していないという。

「うん、大丈夫だよ」

「良かったー」

 ネネはホッとする。


 ふたりは、しばし談笑した後、それぞれのベンチに戻り、午後六時、レジスタンス対ファルコンズの試合が始まった


 ネネは私服に着替えて、由紀と一緒にスタンドから試合を観戦した。

 初回、ファルコンズ打線をレジスタンス先発、前田が三振凡退に抑える。対するファルコンズの先発はオールスターにも選ばれた細川だ。

 細川は上背はないが、豪快なピッチングフォームで強烈なストレートを投げ込んでくる。細川の前に、一番毛利、二番蜂須賀は連続三振だ。


「ファルコンズは、今季ピッチャーがいいのよね。やっぱり児嶋さんのリードがいいのかしら?」

 由紀が感心する。

「はい。ピッチャーの調子を見極めて、その日の一番良い球種を有効に使ってます。流石、児嶋さんです」

 ネネはグラウンドをじっと見ている。

「あら……敵なのにベタ褒めね。ネネはああいう知的な男が好みなのかな?」

 由紀がからかうと、ネネは黙りこみ、うつむいた。


(あれ……?)

 ネネの予想外の反応に由紀は驚いた。

「ねえ、ネネ……オールスターのときに児嶋選手と何か関係とか持ったりしてないよね……?」

「な、何もないけど、連絡先は交換しちゃった……」

「え?」

「敵チームだから、あんまりこういうのは良くないよね……」

「ま、まあ……皆、交換してるし、いいんじゃない? ネネから教えたの?」

「ううん……児嶋さんからお願いされて……」

「え? まさか交際とか申し込まれたじゃないでしょうね!? それはダメよネネ! 流石に相手は敵チームなんだから!」

「そ、そんなんじゃないよ! ただ……相手からはオールスター以降、連絡は来るけど……」

「ちょっと! スマホを貸しなさい!」

「う、うん……」

 由紀はネネのスマホをチェックした。ネネも抵抗しないということは多分、色恋沙汰はないと思うが……と信じながら。


 ネネのスマホには、確かにオールスター以降、毎日のように児嶋からLINEが来ていた。

 しかし、内容は野球に関することばかりで、恋愛要素を含んだやり取りは見当たらない。


「由紀さん……も、もういい?」

 ネネが恥ずかしそうに手を伸ばしている。由紀がチェックした限りでは特に問題はなく、ネネもサラッと返信してる。

(……分からん、あの児嶋って男、一体何を企んでんの?)


「ワアアアア!」

 由紀がネネにスマホを返すと同時にドームに歓声が響き渡った。三番明智がツーベースヒットを打ったのだ。


「やったあ! 明智さん、すご──い!」

 ネネが拍手をした。

「夜遊びは激しいけど、頼りになるわね」

 由紀も笑いながら拍手をする。


 ツーアウト二塁、先制のチャンスにこの男に打席が回ってきた。

「四番サード、織田勇次郎、背番号31」

 登場曲「ヴァンヘイレン」の「JUMP」が流れ、ドーム内に「織田」コールが響き渡った。


「先制のチャンスだね、織田くん」

 勇次郎がバッターボックスに入ると、キャッチャーの児嶋が話しかけてきた。勇次郎は少し会釈すると、児嶋を無視してピッチャーと対峙した。


 初球、スライダーが飛んできた。勇次郎はフルスイングするが、ボールは三塁側スタンドに入りファールとなる。


(チッ……打ち損じたか)

 勇次郎が足元を慣らすと、児嶋が再び話しかけてきた。

「ネネちゃんにもスライダーを教えたけど、ここまでキレはなかったなあ」


(……ネネちゃん? 馴れ馴れしいな。てか、この人、こんなに喋る人だっけ?)

 勇次郎は無視してピッチャーを見るが、児嶋は構わず話し続けてくる。

「まあ、でも仕方ないか。女の子だから手も指も小さいし」


(何!?)

 勇次郎が児嶋の話に気を取られた隙に、ズバン! とストレートが内角に決まった。ツーストライクだ。

(……しまった、絶好球なのに……集中、集中だ。気にするな)


 勇次郎はピッチャーに集中するが、児嶋はささやきを止めない。

「ネネちゃんの手は柔らかかったなあ……いや、手だけじゃない。唇も柔らかかったよ」

(な……!?)

 勇次郎は一瞬、思考が止まった。


 ズバン!

(し、しまった!)

「ストライク! バッターアウト!」

 ストレートがど真ん中に決まった。見逃しの三振だ。


 勇次郎は児嶋を睨みつけた。しかし児嶋は「気になる? この続きは二打席目で話してあげるよ」と笑いながら言い、ボールを審判に返すとベンチに戻っていった。


 勇次郎は悔しさのあまり、その場に立ち尽くしていた。





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