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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第7章 夢のオールスターゲーム編
137/207

第137話「夢の球宴、閉幕」

 九回裏、夢の球宴も大詰め。オールパシフィックの攻撃はツーアウトランナーなしとなる。

 ここで迎えるバッターは福岡アスレチックスの四番DHストロベリー。本日、3打数3安打、内1本は先制のホームランを放っている。


 ネネは何気にストロベリーとは初対決で、実況は「黒豹VS女豹」と伝えている。ストロベリーが左バッターボックスに入り、バットを構えると、その圧倒的な威圧感がネネを襲った。


(ツーアウトを取ったけど、決め球はすべてスライダー。悪くはないけど、ストレートで勝負したいなあ……)

 ネネが立浪のサインを確認すると、初球はまたスライダーのサインだった。

(ま、また……!?)

 ネネは流石にうんざりしてサインに首を振った。


 ネネが首を振るのを見た立浪は、再度、スライダーのサインを出す。但し、先程のバッターと同じでボールになる見せ球のスライダーだ。

 だが、ネネはこのサインにも首を振った。


(何じゃコイツ……同じチームなら、しごうたるぞ……)

 立浪も強情なので、三度スライダーのサインを出すが、ネネは頑として首を縦に振らない。


「タイム!」

 立浪がタイムをかけてマウンドへ駆け寄った。ネネは明らかに不機嫌な顔をしている。

「おい、お前、一体何様のつもりじゃ? ワシのサインに三回もクビを振りよって……」

 立浪が怒りながらネネに詰め寄る。

「だ……だって、さっきからスライダーのサインばかりじゃないですか? 私はストレートで勝負がしたいんです!」

 ネネも負けじと言い返す。

「な……えーかげんにせーよ!」

 立浪も怒り、一食触発となる。


「どないした? タツ?」

 騒ぎを聞きつけて、ファーストを守る広島エンゼルスの金田がマウンドに駆け寄った。

 そして、気がつけば内野陣……広島エンゼルスのセカンド服部、Tレックスのショート火野、サードの勇次郎も集まってきた。


「おい、織田! 同じチームやろうが!? コイツ、何とかせえ!」

 立浪が今度は勇次郎を叱った。ネネはフンとした顔でそっぽを向いている。


「……言い合いの原因は何ですか?」

 勇次郎が尋ねる。

「コイツがワシのサインに首を振るんじゃ」

「だ……だって、スライダーばっか要求するから……」

 ネネはふくれている。


(スライダー?)

 勇次郎は疑問を感じた。

(コイツの球種はストレートとドロップの二種類のはず。どこでそんな球を覚えた……?)


「誰に教わったんだよ、スライダー」

 勇次郎がネネに問いただす。

「え? 児嶋さんだけど……」

(また児嶋か……)

 勇次郎は不機嫌になり「立浪さん……」と立浪に話しかけた。

「何じゃ?」

「コイツの投げたい球を投げさせてもらえませんか?」

「え……!?」

 勇次郎の予想外の言葉にネネは驚いた。


 だが、勇次郎がそう言ったのは、ネネの気持ちを汲んだわけではない。スライダーを児嶋に教わったということに対しての無意識の嫉妬だ。ただ勇次郎自身はその感情に気付いていないが……。


「まあ、タツ、若いふたりがこう言ってるから、その意見を尊重しようや」

 金田が間に入った。

「まあ、カネさんがそう言うなら……」

 立浪は渋々了解した。


「勇次郎、ありがとう」

 ネネは勇次郎に笑いかけるが、勇次郎はフンといった表情でサードのポジションに戻っていった。


 そして、キャッチャーポジションに戻った立浪は、先程のベンチでの児嶋との会話を思い出していた。

『……立浪さん、羽柴寧々になるべくスライダーを投げさせてください』

 児嶋からそう言われた。ワケが分からず「なぜや?」と聞き返すと、あることを耳打ちされて驚いた。


(しかし、ホンマにえげつないやっちゃなあ、児嶋は……まあでもええか、このオールスターが終われば、また敵同士に戻るわけやし、スライダーも二球投げさせたからな……)

 そう考えながら、立浪はストレートのサインを出すと、マウンドのネネがあからさまに喜ぶ顔をするのが見えた。


 サインに納得したネネは振りかぶって、第一球を投じた。ど真ん中に糸を引くようなストレートが決まる。

「ストライク!」

 ストロベリーは悠然と見送り、スピードガンは142キロを計測。


 ブレイブドームが騒めく中、ネネは気分良さそうにボールを受け取った。

(スライダーもいいけど、ストレートはやっぱり気分がいいなあ。それとスライダーを投げだしてから何か指のかかりがいい)

 ネネは笑みを浮かべて指をボールに馴染ませた。


 二球目は再びストレートを選択。アウトローに飛んでいくが、そのボールをストロベリーはフルスイング。

 鈍い音とともに、三塁側スタンドにボールが飛び込んだ。ファールだ。スピードガンは143キロを計測し、ツーストライクと追い込んだ。


 三球目、立浪はスライダーのサインだが、今度は明らかにボールのコース。ストロベリーは左バッター、内角をえぐり、腰を引かせるのが目的だ。

 ネネは頷き、握りを確認する。勝負球じゃないからスライダーを投げることに抵抗はない。


 四球目、ストロベリーの内角にスライダー。ストロベリーは少し腰を引いた。スライダーはボールとなり、カウントは1-2、スピードガンは130キロを計測している。


(スライダー、悪くないなあ……シーズンに入ったら積極的に使っていこう)

 ネネはボールを受け取ると微笑んだ。


 そして勝負球。立浪は内角高めのストレートを要求。ネネは目を輝かせ頷く。

(これがオールスター最後の球……悔いのない一球にしなきゃ)

 ネネはゆっくりと振りかぶった。右腕がしなり、指先から弾丸のような球が放たれる。


 内角高めにうなりをあげストレートが飛ぶ。ストロベリーはフルスイング。

 カキン!

 ボールは高々とセンターに舞い上がり、スタンドからは「入る?」「どうだ?」と声が上がった。

 しかし、上がりすぎた打球はスタンドには届かず、フェンスギリギリでセンター角谷のグラブに収まった。

 スリーアウト、チェンジ。オールスターに延長戦はないため、これでゲームセット。今年のオールスターゲームは2対2の引き分けに終わった。


 ネネはマウンドでガッツポーズしながらも、ストロベリーの大飛球に肝を冷やしていた。

(あ……危なかったあ……ボールがあまりホップしなかったのかな?)

 ネネはバックスクリーンのスピードガン表示を見た。スピードガンは141キロを計測している。

(あれ? 指のかかりもよかったけど、あまりスピードが出てない……)

 ネネは少し違和感を感じたが「おう、よう抑えたな」とファースト金田や他の内野陣が集まってきたので、ネネは気のせいか……と思い、笑みを浮かべた。


「やったあ! ネネのやつ、やりましたよ! パリーグの強打者を相手に三者凡退です!」

 スタンドではネネの父は大喜び、祖父も大きな手で拍手をしている。

「あの……お父さん、さっきの話……おばあちゃんのことは、すぐに話すつもりですか?」

 拍手をしながら父が祖父に尋ねた。

「まあ、頃合いを見てだな……すぐに話さんといかんわけでもないし……さあ、それじゃあ牧場に帰るか。ネネに宜しく言っといてくれ」

 そう言うと祖父は席を立った。


 こうして、夢の球宴は幕を閉じた。

 引き分けのため、最優秀選手は選ばれなかったが、代わりに優秀選手が三名選ばれ、その中には起死回生の同点ホームランを打った勇次郎の名前があり、賞金の100万円をゲットした。

 またネネも敢闘賞に選ばれ、10万円を手にした。


 表彰が終わり、選手たちがベンチを後にする。一夜限りの共闘は終わり、明日からまた戦いが始まるのだ。

 そんな中、勇次郎は児島に近寄った。

「児嶋さん、お疲れ様です」

「お疲れ、織田くん。ナイスホームランだったね、優秀選手おめでとう」

 児嶋はニコニコしている。

「あの……」

「何だい?」

「ウチの羽柴にスライダーを教えたみたいですけど、何を企んでるんですか?」

「は?」

 児嶋は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を見せた。

「ははは! 何も企んでないよ! 羽柴さんに合う変化球を伝授しただけだよ!」

「……」

「心配すんな」

 児嶋は勇次郎の肩にポンと手を乗せた。

「キミが心配しているようなことは何もないよ」

 そう言うと、手を上げて去っていった。


(気にしすぎか……)

 勇次郎がため息をつき振り向くと、すぐ後ろにネネと由紀がいた。ふたりとも目を輝かせている。

「勇次郎ー! 優秀選手賞、おめでとうー!」

「織田くーん、私、毛蟹が食べたいなー!」


(全く……)

 勇次郎は苦笑した。

「じゃあ、せっかくだから何か美味いもんでも食べに行くか」

「わ──い!」

 ネネと由紀は両手を上げた。


 勇次郎が荷物を持ち、ベンチを出ようとすると、ネネが勇次郎のユニフォームを引っ張った。

「どうした?」

「勇次郎、ありがとう。勇次郎の同点ホームランのおかげで、おじいちゃんの前で投げることができたよ」

 ネネはニッコリと笑った。

「別に……大したことしてね─よ」

 勇次郎は照れて顔を逸らした。



 これにて、第七章「夢のオールスター編」完、となります。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

 次回、八章は「奪われたライジングストレート編」になります。

 面白い! と思ってくれたり、続きを読みたい! と思ってくれたら、ブックマークや評価等をしてもらえると励みになりますので、よろしくお願いします。

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