表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第7章 夢のオールスターゲーム編
136/207

第136話「オールスター、羽柴寧々、初登板」

「で、出たあ──! 代打、レジスタンス織田勇次郎の同点ツーランホームラ──ン!」

 実況が絶叫する。土壇場で飛び出した勇次郎の同点ツーランにブレイブドームの観客たちも総立ちだ。

 マウンドでガックリ項垂うなだれる松田を尻目に、勇次郎はダイヤモンドを一周する。


「す……すごい、すごい! 勇次郎!」

 ネネも大声を出して喜んだが、ふと隣の児嶋の顔を見てゾッとした。

 それは児嶋が恐ろしい顔で勇次郎を見つめていたからだ。温厚な児嶋のまさかの表情にネネは驚き、目をゴシゴシ拭うと再び児嶋を見た。

 すると、次の瞬間には児嶋はいつもの優しい笑顔に戻っていた。

「すごいよね、織田くん。さすがレジスタンスの四番だよ」

「は、はい……」

(あ……あれ? 何だったんだろう、あの表情は……?)

 児嶋の表情がネネにはなぜか心に引っかかった。


「ナイスバッティング!」

「よく打ったぞ!」

 勇次郎が皆とハイタッチをする。ひとしきり、タッチを終えた勇次郎がベンチに戻ってくると、ベンチで待機しているネネと目が合った。


「勇次郎、ナイスバッティング!」

 ネネが満面の笑みで答えるが、勇次郎は素っ気なく「おう」と返事を返し、それ以外には特に何も言わずベンチに下がった。

 そんな勇次郎の背中をネネはじっと見つめた。

(……ありがとう、勇次郎)


 遂に同点に追いついたオールセントラル。その後は後続が三振に倒れ、逆転には至らなかったが、これで九回裏のネネが登板することが確定した。


「羽柴、頑張れよ!」

「最後のトリだ。無失点で締めてこい!」

 オールセントラルのベンチからネネに声援が飛ぶ。オールスターに延長戦はないから、このイニングが最後の攻防だ。


「オールセントラル。ピッチャーの交代をお知らせします。ピッチャー、大阪レジスタンス所属、羽柴寧々、背番号14」


「ワアアアア!」

 ブレイブドームにネネの名前がコールされ、登場曲の「Sweet Emotion」が流れるとスタンドから大歓声が起こった。


「きたあ──! やっと羽柴の登場だ──!」

「ネネちゃん、頑張れ──!」

 この夢のようなオールスターゲームの最後の攻防を見届けるためにスタンドから声援が飛び交う。

 

「よっしゃあ! いくでえ、羽柴!」

 バッテリーを組む、広島エンゼルスの立浪がネネに声をかける。

「はい!」

 ネネは元気よく、グラウンドに飛び出していった。


「羽柴さん、羽柴さん! 娘さんですよ!」

 スタンドでは勇次郎の母がネネの父に話しかけている。

「はい! 織田選手のホームランのおかげです! ありがとうございます!」

 ネネの父はスマホのカメラでネネをパシャパシャと撮影する。

「やっぱり出てきおった。おふくろと同じ。持っとるのう、勝負運を……」

 祖父も笑顔を見せた。


 マウンドに立ったネネは大きく深呼吸をした。ブレイブドームの眩いカクテル光線が身体を照らす。

 マウンドは何人もの選手が立ったため、かなり荒れている。ネネはスパイクで足元を丁寧に慣らすと投球練習を行った。


「……出てきたわね、あの子生意気な小娘! さあ、みんな! パリーグの意地を見せるわよ!」

 オールパシフィックのベンチでは、福岡アスレチックスの城崎が手を叩いて選手を鼓舞する。


「嬉しそうだな、天海」

 マウンドのネネを見つめながら笑みを浮かべる天海にアスレチックス長瀬がそう声をかけたが、天海は「ははっ、気のせいだ」とはぐらかした。


「さ──て、それじゃあ、このオールパシフィックの主役が一発かましてきてやるかな」

 二番に入っている札幌ブレイブハーツの「北のエンターテイナー」新垣が白い歯を見せてベンチを出た。


 そして、審判の手が上がり、九回の裏の攻防が始まる。

 真っ赤な肘当てやリストを着けた新垣は打席に立つと、バットをバックスクリーンに向けた。

 スタンドから「おおっ!」という大歓声が上がる。オールスターならではの新垣のホームラン予告の演出だ。


 一方でネネは立浪とサイン交換を交わす。急造のバッテリーだから球種のサインは「ライジングストレート」と「懸河のドロップ」、そして覚えたばかりの「スライダー」の三種類だ。


 ネネはサインに頷くと、大きく振りかぶった。カメラマン席からシャッター音が響き、スタンドの観客は一斉にスマホのカメラをネネに向けた。

 ネネは右腕を引き絞り、第一球を投じた。

 ズバン! 乾いた音を立てて、立浪がど真ん中に構えたミットに142キロのストレートが飛び込み「ストライク!」と審判が手を上げる。スタンドからは拍手と歓声が巻き起こった。


(オープン戦の時より速いし、伸びもある。しかもクセが消えてるな……)

 ネネの初球を見た新垣は立ち位置を少し後ろに下げた。


「ええぞ! ナイスボールや!」

 ネネは立浪からボールを受け取ると、立浪がホップするストレートを無難にキャッチしていることにホッとした。

(よし、これならいける!)


 二球目もバッテリーはストレートを選択。新垣はフルスイングで応えるが、ボールはバックネットに突き刺さる。ファールだ。


 三球目、ネネがサインを確認すると「スライダー」のサインが出た。

 ネネは頷き、握りを変えると新球のスライダーを投じた。

 ボールは右バッター新垣の内角に飛んでいき……そして、わずかに外側にスライドした。

 ガキン!

 鈍い音がして、打ち損じたボールはファーストに転がる。ファーストは広島エンゼルスの金田。そのままベースを踏んでワンアウト。スタンドからは拍手と歓声。


 打ち損じた。という顔をしてベンチに戻る新垣に「あとは任せてくださいね」と次の三番バッター埼玉バンディッツの与那覇が声を掛けた。


 その与那覇に対して、ネネの第一球は懸河のドロップ。タイミングを外された与那覇は見送ってワンストライク。


 二球目は内角へストレート。与那覇は手を出すが、ボールは三塁ファールゾーンへ飛ぶ。


(よし、追い込んだ……次は……)

 ネネはサインを確認する。しかし、立浪からでた次の球種はスライダーだった。

(ま、またスライダー? 覚えたばかりの変化球を決め球として二球も続けるの?)

 ネネは戸惑い、首を振る。すると立浪はサインを出し直した。ストライクからボールになるスライダーのサインだった。


(それならいいわ)

 ネネは納得してスライダーを投じた。

 ガキン!

 しかし、ボールになるはずのスライダーを与那覇は強振した。

 サードに強い打球が飛ぶが、この回からサードの守備に付いていた勇次郎が無難に捌いてファーストへ送球。これでツーアウトだ。


「やりましたね! ネネさん、パリーグの強打者を相手にツーアウトですよ!」

 興奮した勇次郎母がネネの父に声をかける。

「あ……ありがとうございます! よ─し、ネネ─! いけ─! あとひとりだ──!」

 その一方でネネの祖父は腕を組んで、じっとマウンド上のネネを見つめている。

「ど、どうかしましたか? お父さん」

 思わず父が声をかける。

「いや……やっぱり、ネネはおふくろの若い頃に似てるなあ、と思ってな……」

「そ、そうなんですか……?」

「ネネや菜々、それとキキにも、もう話す頃合いかもしれんな……」

「お父さん、それはまさか……?」

「ああ、おふくろが羽柴牧場に来た本当の理由……そして羽柴家の秘密のことをな……」

 ネネの祖父は大きく息を吐いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ