表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第7章 夢のオールスターゲーム編
134/207

第134話「素直になれなくて」

 一回表のオールセントラルの攻撃は、天海の好投と新垣の強肩で無得点に終わった。


 そして、その裏の守りに向けて、児嶋はレガースを着け出した。

「さっきの配球は、羽柴さんの考えと一緒だったね」

 児嶋はネネに話しかける。

「い、いえいえ! たまたまです」

 ネネは謙遜するが、児嶋は「でも、やっぱりあのコースはないな。結果オーライのリードだ。僕だったら絶対にあんなところに投げさせない」と言い残し、グラウンドに出ていった。


 児嶋は別にネネに対して言ったわけではないが、なぜか自分が怒られたみたいな気がして、ネネはしょぼんとした。

「何、落ち込んでるんだよ」

 そんなネネに勇次郎が話しかけてきた。

「あ、いや……私、ホント、ダメダメだなあ……って思ってさ……」

「さっきの配球のことか? 内角高めに投げてセンターフライ。正解じゃねえか」

「でも、それは天海さんだったから……私ならスタンドインだったかもしれない。私、もっと児嶋さんを見習って勉強しなきゃ……」


 そう言うと、ネネはグラウンドを見つめた。そんなネネを見て、勇次郎はなぜか胸の奥がちくっとした。


 一回裏はオールセントラル先発の佐々岡がピシャリと締めて三者凡退。

 また、二回表はピッチャーが替わるも無得点で二回裏に入る。


 二回裏、オールパシフィックは、四番DH、ストロベリーを迎える。ストロベリーはシャープな黒人の長距離砲。その身体能力の高さから「パンテーラ」(豹)という通り名が付いている。二年連続パリーグのホームラン王で、昨年は50本のホームランを放っている怖いバッターだ。


 対するはキングダムエースの沢村、ここまで10勝を上げて、セリーグ最多勝だ。

 その沢村は150キロのストレートを投じるが、ストロベリーは完璧に捉え、バックスクリーンに叩き込んだ。特大ホームランに観客は大盛り上がりだ。


(す、凄い……沢村さんのストレートはスピードもコースも良かった。それをホームランなんて……)

 ネネはオープン戦で福岡アスレチックスと対戦しているが、ストロベリーとの対戦はなかった。しかし、生で見る規格外のスイングに背筋が凍る思いがした。


 打ち合いになるかと思われたが、その後、試合は投手戦の様相を見せ、1対0のまま中盤を迎えた。

 次に球場が沸いたのは七回の裏だった。ツーアウト一塁からヒットが生まれ、一塁ランナーの新垣が一気にホームを狙い、追加点を奪ったのだ。スコアは2対0とオールパシフィックの二点リードに変わった。


 試合は終盤、八回表に入り、オールセントラルの攻撃だが、この頃にはスタメンがかなり交代しており、明智や児嶋など主力メンバーはベンチに下がっていた。

 また勇次郎も出番はなく、恐らく最終回の代打起用が濃厚で、ベンチ裏でバットを振っていた。


「ゴメンね、羽柴さん、一点も取ってあげれなくて」

 ベンチで児嶋がネネに頭を下げた。

「え? そんな……児玉さんのせいじゃないですから、謝らないでください」

「いや、僕のせいだよ。僕が先取点を与えるリードをしたから流れがあっちに傾いたんだ」

「そんなことないですよ!」

 ネネは笑顔を作った。

「例え出番が無くても、私、すごく勉強になりましたから……」

「羽柴さん……」

 ふたりは見つめ合った。すると……。


「バカ言え、まだ試合は終わってねえぞ」

 勇次郎の声が聞こえた。振り向くと勇次郎が後ろに立っていた。どれだけバットを振ったであろうか? 汗が滝のように流れていた。

「肩を作ってこいよ、九回裏に登板して0点で抑えるのが、お前の役目だろうが」

 勇次郎はネネを見つめた。

「あきらめたら、何もできねえぞ」


「そうだね、羽柴さん、肩を作ろうか。手伝うよ」

 勇次郎の言葉を聞いた児嶋が防具を取りにベンチ裏に向かった。ネネは勇次郎を見つめた。

「……ありがとう、勇次郎、私、まだ試合が終わってないのに、あきらめようとしてたよ」

 ネネは試合をあきらめかけていたことに恥ずかしくなり、勇次郎に感謝の気持ちを伝えた。すると勇次郎は話を続けてきた。


「さっき……」

「え?」

「さっきお前言ったよな。例え、出番がなくても勉強になったって」

「う、うん……」

「本当にそう思ってるのか?」

 その言葉にネネはハッとなった。

「強がるなよ、本当の気持ちを言えよ。お前が今、本当に望んでいること……やりたいことは何だ?」


 ネネは今日のオールスターゲームを振り返った。

 各チームから選ばれた選手たちの戦い。歓声に沸くスタジアム……。


「わ……私……」

 ネネは勇次郎を見つめた。

「私も投げたい! 私もこの夢の舞台で投げてみたい!」

「その気持ち……自分の本当の気持ちを忘れるなよ。強く望む者にしか欲しいものは手に入らねえぞ」

 勇次郎はそう言うとバットを手に再びベンチ裏に戻っていった。


「羽柴さん、準備できたよ。ブルペンに行こうか?」

 防具を着けた児嶋が呼びに来た。

「は、はい……」

 ネネはベンチからブルペンに向かった。試合は八回裏のオールパシフィックの攻撃に移ろうとしていた。だがネネの顔は晴れ晴れとしていた。

(自分の本当の気持ちを言ったら、気持ちが楽になったよ。ありがとう、勇次郎……)


「羽柴さん、何かあった? 凄く良い表情をしてるけど」

 ブルペンに向かう途中、児嶋が話しかけてくる。

「いえ、何でもないです!」

 ネネは元気良く答えると、力強くブルペンに向かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ