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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第7章 夢のオールスターゲーム編
129/207

第129話「データマニア 児嶋」中編

 ファルコンズとの食事会から一夜明けた土曜日。この日は午前中にミーティングがあり、その後は軽く練習。そして午後からはファンとの握手会が予定されていた。

 数年前よりメジャーを習ってこのシステムになったが、選手やファンたちにはかなり好評だ。


「へ─、チームで統一したユニフォームを着るんですね」

 ミーティング前に配られたオールセントラルのユニフォームをネネは明智と一緒に見ていた。

 オールスターのユニフォームは、毎年デザインが変わり、今年はオレンジ色が主体のデザイン。前面にはオールセントラルの英文字が入り、各リーグ25名の選出のため、背番号は1〜25で自動的に振り分けられる。


 ネネがユニフォームをクルッと裏返すと、背中に「HASHIBA」のネームと背番号「14」がプリントされていた。

「背番号は勝手に振り分けられるから、ランダムなんだよ。お前は41をひっくり返して14か」

 明智はレジスタンスと同じ背番号6のユニフォームを手にしながら笑った。

 ちなみに勇次郎の背番号は31をひっくり返した13だった。


 ユニフォームに着替えるとミーティングがある。ネネはひとり女性用更衣室でユニフォームに着替えてミーティングルームに向かった。すると、通路で勇次郎と鉢合わせした。

 ふたりは昨日のことがあるから気まずく、お互い無言でミーティングルームまで歩いていると、勇次郎が話しかけてきた。

「……昨日、結局ラーメン食いに行ったのかよ?」

「あ……うん。あとラーメンの後にパフェも食べに行ったけど……」

「は? 何だよそれ? 何で夜にパフェを食べるんだよ?」

「『夜パフェ』っていうのが、札幌の名物なんだって。児嶋さんが教えてくれたの。それでふたりで食べに行った」

「え? 西田さんは?」

「西田さんはラーメン食べてお腹いっぱい、って言って先にホテルに帰ったわ」

「それじゃあ、児嶋さんとふたりでパフェを食べにいったのかよ?」

「う、うん……」

 それ以上は勇次郎も聞かなかったし、ネネも話さなかった。ただ、ミーティングルームに入ると、ネネの元に児嶋と西田が近寄ってきた。


「おう、ネネ! 昨日はラーメン美味かったな!」

 西田がニコニコしながら話しかけてくる。西田は背番号25を背負っている。

「羽柴さん、おはよう」

 児嶋がさわやかな笑顔を見せる。児嶋は背番号7だ。

「あ……児嶋さん、昨日はラーメンにパフェまで、ご馳走様でした」

 ネネが頭をペコリと下げる。

「はは、いーよ、いーよ。それより帰りが遅くなっちゃってゴメンね」

「いいえ! こっちこそタクシー代まで出させてしまって、申し訳ございませんでした」

 ネネが再び頭を下げて、児嶋はニコニコしていた。そんな姿を見て、勇次郎はなぜか胸の奥がモヤモヤした。


 少し経つと、部屋に監督が入って来た。

 オールスターの監督は前年の優勝監督が務めることから、今年は東京キングダムの鬼塚監督だった。


 明日のスタメンやピッチャーの投げる回を確認してミーティングは終わった。

 その後は明日の試合のために、札幌ブレイブドームで軽く身体を動かしたり、グラウンドの確認をしたりする。


 ネネは八回を投げることになった。

 オールセントラルは先攻のため、後攻のオールパシフィックが勝っていたら必然的に九回裏の守りはない。

 またピッチャーは公平を期するため、ひとり必ず1イニングを投げなくてはならず、イニング途中交代は認められていない。それ故にこういうケースの場合はひとり「投げない」という状況もあり得るのだ。このルールに賛否両論もあるが、今のところは試合が白熱して面白い、という意見もあるため、改定はされていない。

 ちなみにオールセントラルの九回を投げるのは「横浜メッツ」の守護神「佐々岡」であり、佐々岡もそのことは了解していた。


 そして、キャッチャーはふたりいるため、前半を児嶋、後半を広島エンゼルスの立浪が務めることになった。


「羽柴さん」

 グラウンドに出ようとするネネに児嶋が声を掛けてきた。

「あ……児嶋さん、明日はバッテリーを組むタイミングが合いませんでしたね。残念です」

 ネネは残念そうな顔で話す。

「うん、実はそのことで話があって……」

「何ですか?」

「……羽柴さんの球を、今から受けさせてもらえないかな?」

「え?」

「オールスターの記念にしたくてね」

 児嶋はネネに向かって深く頭を下げた。

「こ、児嶋さん! 頭を上げてください! 私でよければ、全然大丈夫ですから!」

 その言葉を聞いた児玉は頭を上げて「ありがとう、羽柴さん」とニッコリ微笑んだ。

「じゃあ防具を持ってくるから、ブルペンに来てもらってもいいかな?」

「はい!」

 ネネの返事を受けた児嶋はベンチ裏に走っていく。


(……ホント、礼儀正しくて、腰も低くてさわやかな人だなあ。レジスタンスにはいないタイプだよ)

 ネネはニコニコしてブルペンに向かおうとした。その時だ。


「何、ニヤついてんだ」

「キャアアアア!」

 いつの間にか勇次郎が近くにいて話しかけてきたので、ネネは驚き声を上げた。


「び、びっくりしたあ……いきなり声かけないでよ……」

「グラウンドに行かないのかよ?」

「う、うん……児嶋さんが、私の球を受けてみたいって言うから、今からブルペンに行くの」

「は、はあ!?」

 勇次郎は思わず、大声を上げた。

「な……何、考えてんだよ、お前!? 何でわざわざ敵のチームのやつに手の内をさらすんだよ!」

「え……? そんなんじゃないよ。オールスターの記念に私の球を受けたいって言うから……」

「バカか! お前は! それはお前のデータを取る口実だろうが!」

 昨日に引き続き「バカ」と言われたネネはムッとした顔をした。

「大体、何だよ、お前? 昨日だって、ノコノコ敵のチームの奴等に付いていきやがって! 断るってことを知らないのかよ!」

 あまりの剣幕に普通の女性ならシュンとなるところだが、ネネは普通の女性ではない。当然、勇次郎以上の勢いで言い返した。

「関係ないでしょ! アンタこそ、何よ! 児嶋さんの悪口ばかり言って!」

「お前のガードが甘いから、忠告してるだけだろうが!」

「アンタにあれこれ指図される覚えはないわよ!」

 ふたりは睨み合った。

「もういい! 私のことはほっといてよ!」

 ネネはそう言い放つと、ブルペンに向かって走っていった。


(あ……チッ! 何てオンナだ!)

 勇次郎は怒りに震えていた。その時だ。


「おいおい、何、痴話ゲンカしてんだよ、お前?」

 勇次郎を茶化す声が聞こえてきたので、ムッとした顔で振り向いた。

「何ですか……? あ、ああ! アンタは!?」

 そこにいた男を見た勇次郎は驚きの声を上げた。


「児嶋さん、お待たせしました」

 一方のネネはブルペンにやって来た。ブルペンにはネネと児嶋以外は誰もいなかった。

 キャッチャーのレガースを付けた児嶋は「全然いいよ、羽柴さん、来てくれてありがとうね」と言い、微笑んだ。









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