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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第7章 夢のオールスターゲーム編
128/207

第128話「データマニア 児嶋」前編

 オールスターゲームを前に明智主催でレジスタンス、ファルコンズの食事会が始まった。

 皆の前にビールが置かれるが、ネネと勇次郎は未成年のため烏龍茶。またベーブこと西田の前にはビールではなくコーラが置かれている。


「あれ? ベーブは飲まないのか?」

 明智が話しかけると、西田は笑いながら「飲めないんすよ、自分」と、答えた。

「だからといってコーラはないだろう。子供かよ?」

 岡本が茶化し、皆が笑う。

 西田はアイスを食べ過ぎてお腹を壊したり、新幹線を乗り間違えて試合に遅刻したり……と、その行動が子供みたいだから「ベーブ」=「赤ん坊」というあだ名が付いている。

(本当にあだ名通りの人だなあ……)

 ネネはクスッと笑った。


「え──、オールスターゲームを前に深耕を図りたく、この場を設けさせていただきました。それでは乾杯!」

 明智の音頭でカチンとジョッキを合わせて食事会が始まった。


「いや──、しかし、話題のピッチャー、羽柴さんとこうして食事ができるなんて、嬉しいなあ」

 岡本がビールを飲みながら話す。

「ベーブも羽柴さんに会えるの楽しみにしてたんだぜ。なあ?」

「は、はい、羽柴さん。可愛いっス」

 西田はラーメンサラダを頬張りながら答える。

「おいおい、そんなにガッつきながら言っても説得力ないぞ」

 児嶋が茶化し、皆、また笑う。


「良かったなあ、ネネ。可愛いなんて言ってもらえて」

 明智も笑いながら、ネネをからかう。

「はい、レジスタンスでは、誰も言ってくれませんから」

 ネネがポテトサラダを食べながら喜ぶと、皆がドッと笑った。


 そんなネネに児嶋がニコニコしながら話しかけてきた。

「羽柴さん、明後日は僕と組むかもしれないから、その時はよろしくね」

「は、はい! よろしくお願いします!」

 ネネは手にしていた串焼きを皿に置くと、ペコリとお辞儀をした。


「はは……そんなにかしこまらなくてもいいよ。それにしても、羽柴さんの食べっぷりは見ていて気持ちいいねえ。ウチのベーブと同じくらい食べてるよ」

 ネネと西田の皿には大量の串や蟹のガラが積まれている。

 ネネがえへへ、と照れ笑いをすると、すかさず勇次郎が「ほめてんじゃね─よ。児嶋さん、呆れてるんだよ。お前の大食いに」と突っ込んだ。

「な……何よ、その失礼な言い方わあ!」

 先程の笑顔から一転、ネネが勇次郎に怒ると、その姿を見て児嶋は「はは、違うよ、織田くん。本当に褒めてるんだよ。よく食べるってのは内臓が強い証拠だからね」と言った。

「前にバンディッツドームで、あの天海投手と投げ合って完投勝利を収めたよね。そのスタミナがどこから来るのか分かったよ」

 児嶋はニコニコしている。

「あ……ありがとうございます」

 球界を代表するキャッチャー児嶋に褒められたネネは嬉しくなって照れ笑いをした。対照的に勇次郎はムッとした表情になった。


 食事会も佳境に入り、一時間ほどして勇次郎がトイレに立つと、そこに明智がいた。

「おお、どうだ? 勇次郎、ベーブと話した感想は?」

 明智が尋ねると、勇次郎は「……あの人、感性が独特で、あまり参考になりませんね」と答えた。

「ははっ、違いねえ」

 明智は笑って返す。

「ネネはどうだ?」

「児嶋さんと楽しそうに話し込んでます」

「そうか、そうか……」

 明智は手を洗いながら続けた。

「……あの児嶋さんには気をつけろよ」

「え、何でですか?」

「球界屈指のデータマニアだからだ。多分、気さくに話しながらも、ネネやお前のデータを収集してるぞ」

「そ、そうなんですか……?」

「まあ、ネネは単純だから、取られて困るようなデータなんてないだろうけどな」

 そう言うと、明智は笑いながらトイレを出て行った。


(データマニアねえ……)

 勇次郎がトイレを出ると、廊下でたまたまネネと鉢合わせした。


「……児嶋さんと楽しそうだな」

 勇次郎は不機嫌そうに話しかける。

「うん! 児嶋さん、野球のことに詳しいから、すごく勉強になるよ!」

 ネネはニコニコしながら話す。そんなネネを見て勇次郎は眉間にシワを寄せた。

「……楽しく話すのはいいけど、あまりベラベラと話すなよ」

「え? どういう意味?」

 ネネはキョトンとした顔をした。

「児嶋さんはデータマニアらしい。もしかしたら、レジスタンスのデータを集めている可能性もあるってことだよ」

「そう? 児嶋さん、レジスタンスのことは何も聞いてこないよ。聞いてくるのは私のことばかりだよ」

 ネネは笑いながら答える。勇次郎はその笑顔を見て無性に腹が立った。


「はあ? お前バカか? そうやって油断させて、児嶋さんはお前のデータを集めてるんだぞ! 何でそんなことに気付かないんだ!」

 つい声を荒げた。

「ば……バカって何よ!? 失礼ね! アンタの方こそ考えすぎよ!」

 ネネは怒り、勇次郎に向かって舌を出すと、女子トイレに入って行った。


 それから、ネネと勇次郎はひとことも口を聞かず、食事会はお開きになった。


「俺と岡本は二軒目行くけど、お前らどうするよ?」

 明智が店の前で皆に声をかける。

「あ……俺ら酒飲めないんで、締めのラーメン行こうと思ってます。なあ、ネネ?」

「うん、西田さん!」

 西田とネネはすっかり仲良くなり、楽しそうに話している。

「児嶋さんは、どうする?」

 岡本が声を掛けると「そうだな……明日のこともあるから、俺も酒じゃなくてラーメンにするよ。織田くんも行かないか?」

 児嶋が勇次郎に声を掛けるが「いや……俺はホテルに帰ります」と、素っ気なく答えた。


「よし、じゃあ、ラーメン組は僕とベーブと羽柴さんの三人だな。タクシーで行こう。僕のおごりだ」

 児嶋がそう言うと、ネネと西田は子供のように、わ──い、と両手を挙げた。


 明智と岡本は夜の街に消え、タクシーに乗り込もうとするネネたちを尻目に勇次郎はその場を離れた。

 ネネは勇次郎とは一度も目を合わせてくれなかった。


 勇次郎は振り返りタクシーを見た。ネネと西田が後部座席に乗り込み、児島が助手席に乗り込もうとしていた。

 その時、不意に児嶋が振り返り、勇次郎と目が合った。すると児嶋がニヤッと笑うのが見えた。


(? 何だ今の笑いは?)

 勇次郎が気のせいかと、もう一度視線を移した。しかし、タクシーは既に走り去った後だった。




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