第127話「夢の球宴カウントダウン」
『オールスターゲーム』
それは年に一度、セリーグとパリーグの各選手たちが同じチームに集まり、その日限りのチームを結成し、対決するセリーグ対パリーグの試合であり、普段見ることができない対戦が見れることから『夢の球宴』とも呼ばれる。
昔は二試合、もしくは三試合開催されていたオールスターゲームだったが、試合のプレミア感を出すことと選手たちの疲労を考慮して、何年か前からメジャーに習い、一試合だけの開催に変わった。
試合前日は球場でファン交流イベント。そして翌日に試合、という日程だ。
そんなオールスターゲームは7月21日の日曜日にデーゲームで開催される。場所は北海道ブレイブハーツの本拠地「札幌ブレイブドーム」だ。
また出場する選手の選考はインターネット及びハガキによる一般投票、そして、監督による推薦で、野手は各ポジションに2名で16名、ピッチャーはひとり1イニングを投げることから9名が選ばれ、1チームで合計25名が選ばれることになる。
それと、勝ったリーグにはクライマックスシリーズの第一戦の開催の権利が与えられる特典がある。
そして、7月8日の月曜日、最終投票が締め切られた。
前日に対Tレックス戦で先発して、この日、完全休養日だったネネは自宅マンションで休養していると、夜に由紀から連絡が入った。
「もしもし」
「ね、ネネえ! 選ばれたよ! オールスター! 投手部門で選ばれたよお!」
「ええ! ホント!? 由紀さん!」
オールスターで選ばれるピッチャーは投票上位6人と監督推薦で3人選ばれるが、由紀の説明だとネネは投票部門で選ばれたという。
「由紀さん、他には? レジスタンスからは何人選ばれたの!?」
「ネネの他にはショートで明智さん。サードで勇次郎の計三人かな……」
(そっか……他の皆はダメだったかあ……)
ネネは少し残念がる。
「ネネ! 私もその日は広報の仕事で札幌に行くから、頑張ってね!」
「うん、ありがとう!」
時は流れ、7月19日金曜日の午後。関西空港から、ネネと勇次郎、明智はオールスターゲームが行われる札幌行きの飛行機に乗った。
「札幌はオープン戦で行って以来だな。メシも美味いし、お姉ちゃんたちはキレイだから楽しみだぜ」
明智が嬉しそうに呟く。
「明智さん、あまり羽目を外さないでくださいね。監督からも釘を刺されてますので」
ネネが笑いながら言う。
「はは……学級委員長みたいだな」
オールスターゲームの監督は前年の優勝チームの監督が務める。レジスタンスは前年最下位だったため今川監督は今回呼ばれていないのだ。
そして、ネネと明智が話している一方で、勇次郎は会話に加わらず窓の外を見ていた。
「どうした、勇次郎? さすがのお前も緊張しているか?」
明智が声を掛ける。
「はあ……というか、俺と同じポジションの西田さんが気になりまして……」
勇次郎が言う「西田」というのは現在首位を走る神宮ファルコンズの若き長距離砲「西田淳」のことだ。
高卒ドラフト一位の3年目、今年で21歳、背番号は「5」。
昨年、一軍に昇格しクリーンナップに座ると、いきなりホームランを30本記録した。身体は大きいがお茶目なキャラで「ベーブ」の愛称で親しまれている。
西田は今回、サード部門1位で選出された。勇次郎的には同じポジション、同じリーグ、また歳も近いことから気になる存在なのだと言う。
「ていうか、ファルコンズは選出人数が多いですよね」
ネネがスマホを見ながら話す。
そう、首位を走るチームらしくファルコンズは最多の五人が選ばれていた。
まずは、先程のサード部門で西田。
小柄だが豪快なピッチングフォームのピッチャー細川。
外野手にメジャー帰りの頼れるリードオフマン梅田。
明智と同期で親友のセカンド岡本。
そして、キャッチャーの児嶋だ。
昨年からファルコンズには球界屈指の頭脳派、田村監督が就任した。データ野球を駆使して三年ぶりにAクラスに返り咲くと、今季は開幕から好調で、現在首位を走っている。
そんな首位を独走する原動力になっているのがキャッチャーの「児嶋鏡二」だった。
児嶋は社会人からドラフト二位でファルコンズに入団。今年で四年目の28歳、背番号は「27」。
見た目はメガネをかけた優男風だが、そのリード、肩は一級品。またバッティングも勝負強く、今季はキャッチャーでありながら四番に座り、文字通りチームの扇の要として活躍し、今回のオールスターもファン投票ダントツの一位で選ばれている。
ネネはスマホの中の児嶋の画像を見た。
(もしかしたら、この人とバッテリーを組むかもしれないなあ……)
画像の中の児嶋はメガネをかけて、優しげな顔をしており、ネネは以前、育成選手時代にバッテリーを組んだ丹羽を思い出した。
「どうした、ネネ、児嶋さんが気になるのか?」
明智が声を掛ける。
「はい、児嶋さんはセリーグNo.1のキャッチャーって言われてますよね? 試合では何度も見ていますが、実際はどんな人なんだろう? って思いまして……」
「そうだな……北条さんが昔ながらのキャッチャーだとすると、児嶋さんは近代的なキャッチャーだなあ」
「近代的?」
「よし!」
急に明智がパンと手を叩いた。
「いい機会だ。お前らまとめて気になるヤツらに会わせてやるよ」
「え?」
ネネと勇次郎は思わず明智を見つめた。
新千歳空港に着いた三人は札幌市内の宿泊ホテルに移動後、すすきのの居酒屋に繰り出した。
店に入ると、一般客と仕切られた個室に通された。実は明智は今日、ファルコンズの親友、岡本たちと食事をする予定だったので、顔合わせの目的も兼ねて、ネネと勇次郎を連れてきたのだった。
三人が席に座り、しばらくすると足音がして、茶髪で軽そうな風貌の男が障子を開けた。
「おう、久しぶり、隼人!」
「おせ─よ、岡本」
岡本、と呼ばれた男は「岡本秀人」と言う。神宮ファルコンズの二塁手、背番号は「1」、明智と同い年で同じ高卒ドラフト一位。明智の親友でもあり、高校時代は東京の高校にいたため、西の明智、東の岡本と名を馳せていた。
ファルコンズのクリーンナップを任されている走攻守揃ったバッターで、昨年は三割、ホームラン30本、盗塁30のトリプルスリーを達成している。
その後、ドタドタと大きな足音を立てて巨大な男が現れた。帽子を被り、Tシャツに短パン、と大学生のようなラフな格好をしている。
「ちわ──っす」
「ベーブ」こと、西田だった。丸顔でニコニコしているが、今季は既にホームランを20本放っており、キングダム中西に次ぐホームランランキング2位にいる。
「後は誰が来るんだ?」
明智が岡本に尋ねる。
「ああ、児嶋さんだよ、もう来るぜ」
岡本がそう言うと同時に障子がスッと開き、細身のショートヘアでメガネを掛け、夏用のジャケットを着た男が現れた。
「皆、集まってるね」
その男こそが、首位ファルコンズを牽引し、セリーグNo. 1キャッチャーと言われる「児嶋鏡二」だった。