表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第6章 交流戦開幕編
120/207

第120話「投手という人種」前編

『羽柴寧々は本格派の速球ピッチャー』

 その言葉を聞いて、一瞬呆然とした天海だったが、すぐに我に返ると伴に噛みついた。

「な、何、言ってんだよ!? 俺だろうが!? 球界を代表する本格派の速球ピッチャーって言ったら、俺しかいないだろうが!」

 そんな天海を伴は冷ややかに見つめた。

「……違うな、お前はバランス型のピッチャーだ」

「な……!?」

「ストレート、変化球を高いレベルで使いこなし、打者を翻弄する。お前は天才だよ、素晴らしいピッチャーだ」

「だ、だったら何で……?」

「俺は何もお前が羽柴寧々より劣っているとは言っていない。ただ、アイツはストレートだけで勝負できるピッチャーだ、って言ってるだけだ」

 天海は黙って聞いている。

「そんなピッチャーは近代プロ野球では絶滅危惧種だ。そして……そのタイプのピッチャーなら、間違いなく続投してくる」

 伴は再び相手ベンチを見つめた。


 一方のレジスタンスベンチ。ネネは今川監督のユニフォームを掴み続投を訴えていた。


「はあ? 何、言ってんだ。交代だ、交代! ったく……」

 しかし、ネネは今川監督のユニフォームをグッと掴んで離さない。

「いい加減にしろよ、テメェ、女だからって俺が怒らねえ保証はねえぞ」

 今川監督の声に怒気が滲み、ベンチ内に緊張が走った。

「女……だからですか……?」

「はあ?」

「交代させるのは私が女だからですよね? 私が女で男より体力がないから信用してない。だから交代させるんですよね」

 今川監督の顔が段々と紅潮していく。怒りを必死で抑え込んでいるようだった。

「上等だよ……監督に向かって、よくそんな口を叩けるな? 俺の顔を見てもう一回言ってみろや」

 怒る今川監督はネネからタオルを剥ぎ取った。ネネの鼻血は止まったみたいだったが、鼻のあたりが血の跡で真っ赤になっていて、目も真っ赤だった。


 ネネは今川監督の目をしっかり見て、口を開いた。

「わ、私、まだ投げれます……絶対に天海さんより先にマウンドを降りたくありません……お願いです。最後まで投げさせてください……」


 今川監督はため息をついた。

「……おい浅井、説得してくれ。このじゃじゃ馬、もう手に負えんわ」

 そう言うとネネから離れて、代わりに由紀がネネの隣に座った。

「……ネネ、鼻血は大丈夫?」

 ネネはコクコクと首を縦にふる。

「ネネ……女だからとかじゃないのよ。あなたの身体が心配なの……だから交代なの……」

 由紀が説得するが、ネネは首を振る。

「ネネ……ワガママ言わないで、今、同点なの、このまま投げ続けたら、チームが負けちゃうかもしれないんだよ……」

 ネネの目に涙が浮かんだが、その涙をタオルでグッと拭った。

「チームが負けるのはイヤ……でも自分がこのままマウンドを降りるのはもっとイヤ……」


「チッ、何てワガママなヤロウだ。もう限界だ。ブルペンに電話をかけるぞ」

 今川監督がブルペンに繋がる電話に手を伸ばした。

「ま、待って!」

 すると、由紀が大声を出して今川監督を止めた。

「……何だよ?」

「わ……私、何かの本で読んだことがあります……ピッチャーは……我が強くないと務まらない。それがピッチャーという人種だって……」

「あん? 何が言いたいんだよ?」


 由紀はネネの目をじっと見た。

「ネネ……ノーアウト二塁よ。もうこれ以上、点はやれないわよ」

「や、やらないもん……もう一点だって、やらないもん……」

 ネネの目は死んでいない。そう判断した由紀はネネの額に手を当てた。熱はない。汗も引いて鼻血も止まっている。

「ちょっと待ってて」

 由紀はクーラーボックスの中から、飲むゼリーを取り出しネネの手に握らせた。

「鉄分補給の飲むゼリーよ。これを飲みなさい」

 そう言うと、今川監督を見つめた。

「監督……ネネは大丈夫です、続投させてあげてください」

「はあ!? お前まで何考えてやがんだ!」

「これも……ネネがプロでやっていくための通過儀礼ですよね?」

「う……」

 由紀はニッコリ笑い、今川監督は苦々しい顔をした。


 ネネがマウンドから降りて10分が経った。バンディッツの岡田監督から抗議を受けて、審判がレジスタンスベンチに向かおうとしたときだった。ベンチからネネが飛び出してきた。

「な……何い!?」

 バンディッツベンチから、驚きの声が上がった。

(な、投げるのか!? あの女……!)

 天海は驚愕し、スタンドからは拍手が起こった。


「ガンバレ─! ネネ──!」

 由紀がベンチから声を張り上げると、ネネは右手を上げた。


「おい……この回、一本でもヒットを打たれたら交代させるからな!」

 今川監督は腕組みして怒っているが、由紀はニッコリと笑った。

「大丈夫、ネネは生まれながらのピッチャーです。絶対に完投しますよ」


 長い中断の後、試合は再開された。ネネはマウンドで風を感じていた。

(……涼しい)

 時刻は午後八時を過ぎ、グラウンドには山の涼しい空気が流れ込んでいる。

(こんなに涼しくなるんだ……それと、鼻血を出したせいか、頭はなぜかクリアになった。手足の感覚も問題ない。熱も下がった)


 ネネは二塁ランナーを牽制しながら、六番バッターを睨みつけると、セットポジションに構え、内角にライジングストレートを放った。

「ストライク!」

 バッターのバットが空を切る。


「よし、ナイスボールだ!」

 北条から投げ返されたボールをネネは笑顔で受け取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ