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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第6章 交流戦開幕編
116/207

第116話「四番対決」

 四回表、レジスタンスの攻撃は四番織田勇次郎から始まる。

 天海は初球、人を食ったようなスローカーブをど真ん中に放り、勇次郎は見逃しでストライク。天海は微かな笑みを浮かべボールを受け取った。


 二球目は唸りを上げるストレートが高めに外れるが、スピードガンは155キロを計測。そのスピードに観客席からどよめきが起こった。

(ふふ……格が違うぜ、格が……。こんなストレート今まで見たことがないだろ?)

 一球目のスローカーブといい、天海は勇次郎を完全に見下している。


 三球目、振りかぶった天海は再びストレートを投じた。内角高めにストレートが飛ぶ。

(見逃してもストライク。バットを振っても空振りだ)

 伴がミットを差し出すが、それより早く勇次郎のバットが一閃した。

 カキン!

 快音を残し、ボールはレフトに舞い上がった。

(な……まさか!?)

 予想外の一撃に伴がボールの行方を目で追い、マウンドの天海も、まさか!? といった表情をした。


 勇次郎が打った打球は、飛距離は充分だったが、ポールのわずか左を巻いてスタンドインした。大ファールだ。


(こ、こいつ、さっきの打席で対応できなかった天海のストレートに対応しやがった……!)

 危険を感じた伴は変化球のサインを出すが天海は首を振ったので、仕方なくアウトローのサインを出した。


 カウント1-2、天海はアウトローへ150キロのストレート。しかし、勇次郎はバットをピクリともせず見送る。

「ボール!」

 際どいコースだったが、審判の手は上がらずカウントは2-2に変わる。


 伴は確信した。織田勇次郎はストレートの軌道を読んでいる……と。

(これはもう仕方ない。変化球……それも高速スライダーだ)


 そのサインに天海は納得し、五球目に高速スライダーを投じた。ボールは真ん中高めに飛んでいき、そこから鋭く横に曲がる。

(決まった!)

 そうバッテリーが確信した瞬間、勇次郎のバットが一閃した。

 

 一瞬、打たれた、と思った伴だったが、勇次郎のバットはボールにジャストミートしていなかった。

 打球は天海の前へ転がった。天海はボールを捕って一塁へ送球。ピッチャーゴロでワンアウトとなった。


 勇次郎を完璧に打ち取ったが、伴に笑顔はなかった。それは天海のウイニングショットである高速スライダーを当たり損ないとはいえ、初見でバットに当てられたことが原因だった。

(天海のスライダーを初見で当てただと……? 織田勇次郎、何だコイツは……? 本当にルーキーか?)


 その後、天海は続く黒田、斎藤をスライダーを混ぜて打ち取りマウンドを降りた。

「どうだ伴さん、大分調子も上がってきただろ?」

「あ、ああ……ナイスピッチだ」

 天海はドヤ顔をしてベンチに歩いていくが、伴は天海が口調とは裏腹に大量の汗をかき、ストレートの威力が若干落ち始めていることが気になっていた。


 そして、レジスタンスベンチでは、ネネと北条がバンディッツ打線二巡目の対決に向け、軽くキャッチボールをしていた。

「打者二巡目だが、疲れはどうだ?」

「全然、いけます」

 ネネはニッコリ笑った。

「そうか、そろそろツーシームを投げていることも気付かれてる頃だ。ここからはフォーシームを上手く織り交ぜていくぞ」

「はい!」


 四回裏、バンディッツは二番からの攻撃だったが、ネネはテンポのよいピッチングで二番、三番を抑えて、ツーアウトとなる。

 ここで迎えるのは四番の与那覇だ。巨体を揺らしながら右バッターボックスに入る。

 与那覇には第一打席にセンター前ヒットを打たれている。ネネと北条は慎重にサインを交わした。


 ネネの初球は外角へのストレートだが、そのストレートを与那覇は強振。

 ガキン!

 ボールはバックネットに突き刺さる。


「ストレートに自信を持ってるみたいだが、女のパワーには限度がある。あの程度のストレートなら与那覇の餌食だな」

 ベンチで天海が軽口を叩いた。天海と与那覇は実は同期入団だが、与那覇はドラフト2位のため、天海は年上だろうがタメ口で接している。


(今のは恐らく「動くストレート」だが、与那覇のパワーなら多少、動く球でも関係ない。羽柴寧々を打ち砕くキーマンはやはりパワーヒッターか……)

 伴はネネと与那覇の対決をじっと観察した。


 北条のサインを受けて、ネネは握りをフォーシームに変えた。北条のミットは内角高め。

(よし、いけえ!)

 振りかぶったネネはライジングストレートを内角に放つ。

「ストライク!」

 内角のストレートがホップして与那覇のバットが空を切った。スピードガンの表示は142キロ。カウントは0-2。


「かなりキレがあるな、あのストレート……そして、北条さんも何なくキャッチしているが、フレーミング技術は完璧だ」

 伴はバッテリーに感心している。

「ケッ、アンタ、どっちの味方だよ? しかし、何で女のストレートを打てねえんだ。情けねえ野郎だぜ……」


 伴は不貞腐れる天海を見つめた。

 天性の恵まれた身体から繰り出される豪速球……しかし、それゆえに身体への負担は大きい。現に昨年は故障を繰り返した。それに比べて羽柴寧々は小さな身体をフルに使い、ストレートを投げ込んでいる。

(天海……プライドが高いお前には決して言えないが、羽柴寧々の身体の使い方は、今、お前にとって一番必要なモノだ……)


 マウンドのネネはサインに頷き、ゆっくり大きく振りかぶった。左足を高く上げ、右足はヒールアップ。


(来るな、全力のストレート……さあ来い、パワーで粉砕してやるぜ)

 与那覇はネネのストレートに備え、タイミングを図った。


 ネネの指先から球が放たれる。しかし……。

 ボールは与那覇の肩口に飛んできた。

(うわ! 当たる!)

 与那覇が慌ててボールを避けようとした瞬間だった。ネネの投じたボールは鋭く弧を描いて、ストライクゾーンに落ちた。

「ストライク、バッターアウト!」

 天海が伝家の宝刀「高速スライダー」を投げたのと同じように、ネネもウイニングショット「懸河のドロップ」を投げて、四番与那覇から見逃し三振を奪った。


 スコアボードにはゼロが並ぶ。

(厄介だな……ストレートに意識がいけば、鋭い変化のドロップが来る。北条さんのリードが完璧だ……)

 伴が感心している傍らで、天海は「ちっ……また無得点かよ」と言いながらマウンドへ向かった。

 また、この回偶然にもお互いのチームの四番に打順が回ったが、両ピッチャーの好投で痛み分けの引き分けに終わった。


 そして、五回の攻防は両チームとも三人でおわり、スコアは2対0でレジスタンスリードのまま六回へ。


 ネネにとっては先発転向後、未知のイニングが始まろうとしていた。





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