表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第5章 先発転向編
108/207

第108話「レイジングブルの逆襲」

 四回裏、キングダムの攻撃はツーアウトランナーなし。

 スコアは3対3の同点で、迎えるバッターは元メジャーリーガー、フィッシュバーンだ。


 オーロラビジョンには「Raging Bull」(怒れる牡牛)の文字が浮かんだ。「レイジングブル」とはフィッシュバーンのメジャーリーグ時代の通り名である。


 打席に入ったフィッシュバーンは開幕戦の対決を思い出していた。ど真ん中の球を打ちセンターフライに倒れた。

(あの打席で調子が狂った。しかも相手は女……何たる屈辱だ……)


 開幕戦での凡退がきっかけで、フィッシュバーンは極度の不振に陥り、早々と二軍に降格した。

 元メジャーリーガーとしては、腐ってもおかしくない状況だったが、フィッシュバーンは二軍で牙を研いだ。再び一軍に上がり、調子を狂わされたネネにリベンジするためにだ。 

 そして、日本のピッチャーにも驚異的な対応力を見せて、二軍でホームランを五本放ち、昨日から一軍に昇格していた。


「フィッシュバーン、かなり身体を絞りましたね」

「ええ、表情にも気迫が溢れています。まさに『怒れる雄牛』ですね」

 実況席がそう伝える。フィッシュバーンは身体のキレを出すために、メジャー時代のベスト体重まで落としていた。


 フィッシュバーンはバットを構え、ネネを睨みつけた。

(羽柴寧々……貴様を打ち崩し、本来の力を取り戻す。第一打席は監督の指示もありバットを振らなかったが、今度は全力でいかせてもらう……!)


 フィッシュバーンが睨みつけてくるが、ネネも負けてはいない。負けじと睨み返すと、ランナーがいなくなったことから、大きく振りかぶり第一球を投じた。


 ボールは大きな弧を描く。初球は『懸河のドロップ』。

 しかし、この変化球をフィッシュバーンは強振。一塁側スタンドへファールとなる。


(コイツ、以前対戦した時より、スイングのキレが増してるな)

 北条はフィッシュバーンのスイングを見て、警戒心を高めた。


 二球目、外角ギリギリに再び変化球。

 しかし、これはドロップではない。曲がりが少なくバッターのタイミングを外す指全体を使って投げる『五本指カーブ』だ。

 カーブはコーナーいっぱいに決まり、ツーストライクになる。


 三球目、勝負球として、アウトローいっぱいにライジングストレート。

「手を出してくれれば儲けもの」といったコースだったが、フィッシュバーンは悠然と見送り、審判の手も上がらずボール。カウントは1-2となる。


(恐らく前回打ち取られた高めのストレートを待ってるな)

 北条はそう推測し、ドロップのサインを出すが、ネネは首を振った。

(変化球はイヤか……それなら……)

 再びサインを出し直すとネネは頷き、北条はフィッシュバーンの膝下にミットを構えた。


 ネネは大きく振りかぶると、ライジングストレートを内角低めに投げ込んだ。

 地を這うようなボールは唸りを上げてホップする。


 ガキィン!

 ボールが破裂したような音がして、打球は三塁側ファールスタンドに飛び込んだ。


(何て凄まじいスイングだ。これが元メジャーリーガーのスイングか……)

 日本人ではまず見られないパワーに、流石の北条も肝を冷やした。


 だが、フィッシュバーンもネネのピッチングに驚いていた。

(伸びる……ストレートが手元で伸びる……本当に女かよ、アイツ……)

 ネネのストレートに全身の体毛が逆立ち、鼓動が高鳴る。

(まさか、こんな島国でメジャークラスのストレートに出会えるとはな……)

 フィッシュバーンは武者震いした。


 マウンドのネネが大きく振りかぶるのが見える。

(最高だよ、羽柴寧々……いや『ライジングキャット』……)

 フィッシュバーンはバットを握りしめた。

(変化球なんか投げるなよ。ストレートでこいよ。メジャー仕込みのスイングを見せてやるぜ)


 ネネは左足を上げて、右足をヒールアップした。目線は北条のミット。全パワーを指先に集中してボールを弾く。

(いけえ!)


 唸りを上げたストレートは内角高め……インハイに飛んだ。

(来た来た来た! ストレート!)

 フィッシュバーンは左足を踏み込むと、稲妻のような鋭いスイングを見せた。


 北条は一瞬、やられた! と覚悟した。

 しかし、ネネのストレートは手元でグンとホップした。


 ズバン!

 ネネの投じたストレートは、フィッシュバーンのバットの上をすり抜け、北条のミットに飛び込んだ。


「ストライ─ク、バッターアウトォ!」

 審判の手が上がり、北条は「よし!」と叫び、マウンドのネネも小さくガッツポーズした。

 スピードガンは144キロを計測。ネネの自己最速記録だ。


 一方で空振り三振を喫したフィッシュバーンは打席でしばし呆然としていた。

(あ、アンビリーバブル……ボールが……ボールが浮いた……?)


 スコアは3対3の同点のまま。ネネが小走りでベンチに帰ると、由紀が満面の笑みで抱きついてきた。

「ネネ──!」

「よっしゃ! よく持ち直した!」

 今川監督がネネの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。ネネは照れたように、えへへと笑った。


 そして、対照的にキングダムベンチは静まり返っていた。

「いやあ、すごいね、あの娘! 完全に立ち直っちゃったよ」

 根っから陽キャな藤本が明るく話す傍ら、鬼塚監督は怒りを押し殺してた。

(な……何だアイツは……たかが女とみくびっていたが、ホップするストレートにネコのような身体能力。そして、強い精神力……化け物かアイツは……?)


 また、レジスタンス側のブルペンでは、中継ぎ陣がモニターでネネのピッチングを見ていて、そこにはクローザーを務める島津の姿もあった。

(ほー……すげえなアイツ。やっぱただモンじゃねえわ)

 島津が感心していると、隣にいる中継ぎの荒木が口を開いた。

「キャンプの紅白戦の時も一軍に揺さぶられたけど、その時は勇次郎のゲキで立ち直ったんだ」

「勇次郎が? ふ─ん、あの無愛想な男がネネにねえ……」

 島津は腕組みをした。モニターの中では勇次郎が打席に向かおうとしていた。


「いいかネネ、球数は少ないが、今日は五回までだ。あと一回投げて今日は終わる」

「はい!」

 五回表、ベンチで今川監督がネネに指示を出したときだった。


 キイン!

 ドームに快音と悲鳴が鳴り響いた。

 勇次郎が打ったボールは綺麗な放物線を描き、レフトスタンドに飛び込んでいた。

 勝ち越しのソロホームランが飛び出して、勇次郎は悠然とダイヤモンドを回った。勇次郎のホームラン数は、これで二ケタの10本になった。


「ナイスバッティング!」

 ベンチに戻ってきた勇次郎を祝福する。ネネも笑顔で勇次郎を出迎える。


「おい……勇次郎、また打ったぜ」

「レジスタンスのルーキーで、二ケタのホームラン打つなんて、何十年ぶりだよ……」

 ブルペンでも投手陣がモニターを見ながらザワザワしている。


(なるほどなあ……)

 島津はモニターの中の勇次郎のホームランのリプレイ映像を見ていた。

(織田勇次郎……ゴールデンルーキーと聞いてるが噂通りだ。また奴の練習量は半端ないと聞いている。コイツの存在がレジスタンスの勢いを加速させてるわけか……)


(それから羽柴寧々……コイツもプレイと明るさでチームを引っ張っている。間違いない。このチームのエンジンは織田勇次郎と羽柴寧々のふたりだ。そして、そのふたりの手綱を握るのが、あの今川監督か……)


 島津は再び肩を作りにブルペンのマウンドに向かった。

(面白え、俺もアイツらに負けてられねえぜ)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ