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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第5章 先発転向編
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第101話「千葉の暴れん坊将軍」後編

 遂にネネの初先発の日が来た。相手は東京キングダム。

 午後六時にプレイボールのため、午後二時にはキングダムドームへ向かう。

 昨日、公園で島津と色々話し、眠りについたのは午前四時になってしまったが、話したおかげかぐっすり眠れた。


 ドームに着き、グラウンドに向かおうとすると島津に出会った。

「おう、ネネ」

「おはよ─、栄作」

 初めとっつき難いと思っていた島津だったが、話してみると気さくな兄ちゃんってカンジで、すっかり打ち解けていた。


 ネネは島津をまず今川監督の元へ連れて行った。昨日の殴打事件を手打ちにするためだ。

 ネネは昨日、島津から事件の経緯を聞きだしていた。

 試合後、北条とサインの確認をしていたら、島津の口調があまりに激しいため、黒田が参戦してヒートアップし、そこに今川監督が現れ、茶化してきたので頭にきて暴言を吐き、殴られたらしい。


 監督の待機室に行くと、今川監督が居たので、まずは島津が帽子を取って謝った。

「監督、昨日はすんませんでした!」

「おお、俺も悪かった。今日も抑えでいくから頼むぞ」

 今川監督は昨日のことは全く気にしてないみたいで笑っていた。


「何か全然気にしてねえみたいで、意外だったな」

 監督室を出た島津がネネに話しかけた。

「慣れてるのよ。殴るのも口答えされるのにも。あ、それより、次にいくよ!」

 ネネは島津のユニフォームの袖を引っ張った。


(とりあえず、北条さんと黒田さんにも謝らせなきゃ……)

 ネネはそう思い、二人の元に連れて行った。


「まあ、気が強いのは良いピッチャーの条件だ。気にすんな」

「監督に殴られたお前の方が心配だよ」

 北条も黒田も島津が素直に謝ると、笑って許してくれた。


「パイレーツとは全然違うんだな……あそこで、こんなことしたら、口も聞いてもらえなかったぜ」

 皆の謝罪を終えた島津は、皆があっさりしてるので拍子抜けしていた。

「レジスタンスは皆、見た目が怖いだけで、本当はいい人ばかりだよ」

 ネネはニッコリ笑った。


 その後、ふたりはキングダムドームのグラウンドに出てウォームアップを始めた。ひと通り身体をほぐしたら、次はキャッチボールだ。


「お、おい? 本当にこの距離でやるのか!?」

 ネネはレフトに立ち、島津をライトファールラインの外に立たせた。

「うん」

 ネネは笑いながらボールを投げる。外野での長い距離のキャッチボールが始まった。


 ネネの投げる球はあくまで低い。そして、その低いボールはグングン伸びて、島津のところまでしっかり届く。

(……何ちゅう、バカ肩なんだよ、あの女)

 島津は驚愕した。こんな距離をキャッチボールするなんて、男相手でも経験したことないからだ。


 一方でネネはキャッチボールをしながら、昨日の島津との会話を思い出していた。

 島津は中学時代ヤンチャだったが、たまたま好投した試合で見そめられ、地元千葉の強豪校にスカウトされた。

 その時、就任していた監督が理論派の監督だったため、島津はそこで徹底的に「考える」野球を叩き込まれたという。

 そのため、島津は見た目とは裏腹に理論派のピッチャーである。

「考える野球」とピッチャー島津の好投で、三年の夏に甲子園に出場し、ベスト4まで進んだことで、プロのスカウトの目に留まり、地元の千葉京浜パイレーツにドラフト4位で入団した。


 当時のパイレーツの外国人監督ヒルトンは理論派の監督で島津には合っていた。

 しかし、今季、監督が代わった。新監督はその場限りな采配で、島津は常に頭にきていた。

 そして、ヤンチャな島津は目をつけられ、先発、中継ぎ、抑え、と役割はコロコロ変わった。投手起用も一貫性がなく、投手コーチも監督へゴマスリばかり、そんな積もりに積もった不満が爆発した結果が、今回の監督暴言事件に繋がったのだ。


(栄作は見た目や言動がヤンチャだから白い目で見られてるけど、本当は自分に正直なだけなんだよなあ……レジスタンスでは皆と仲良くやってくれるといいなあ)

 ネネはキャッチボールしながら、そう考えていた。


 キャッチボールを終えたふたりはベンチに戻ろうとしていた。

「オメー、本当にいい奴だな。まるで深見先生みてえだ」

「深見先生? 誰、それ?」

「中学校で担任だった女の先生でな。俺が問題起こすと、いつも一緒に謝りに行ってくれたんだ……先生のおかげで、俺はプロになれたようなもんだ」

「そ─なんだ。で、その先生は?」

「結婚して関西に行ったよ。中学校以来、会ってないなあ、元気にしてっかなあ」

 島津は遠い目をした。


 ベンチに戻ると勇次郎がいた。

「おはよ─、勇次郎」

「おう、今日先発だな。いつもの化け猫みたいなピッチング期待してるぜ」

 勇次郎はいつものように憎まれ口を叩いてきた。すると……。


「おう、オメ─、織田勇次郎っていったっけな? 何だよ、ネネに化け猫って?」

 何と島津が勇次郎に絡み出した。

「ちょ……栄作、この人、いつもこんなカンジだから気にしないで……」

 ネネが島津のユニフォームを掴んだ。


(栄作……? 何だコイツ、何でこの問題児と急激に親しくなってんだ?)

 勇次郎は少し驚きネネを見た。その視線を見た島津は勇次郎にニヤニヤしながら話しかけてきた。


「はは──ん。何だ何だ、織田勇次郎、オメー、俺がネネと仲良くしてることに嫉妬してんのか?」

「は、はあ!?」

 冷静な勇次郎にしては珍しく動揺した声を出した。

「カカカ! 俺もガキの頃、好きな子に意地悪して、よく怒られたもんよ!」

 島津は豪快に笑った。

「心配すんな、ネネと俺は戦友だ。オメ─の邪魔はしねえ」

 島津は、そう言うと勇次郎の肩をポンポンと叩き、笑いながらベンチ裏に下がっていった。


 残されたネネと勇次郎は気まずくなり、お互い、顔を合わせることなく呆然としていた。


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