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凛のペガサスに見惚れるワイバーンメンバー達…岩井テレサが藤岡の情報を警察に伝えた。

死霊屋敷の前に着地した凛のペガサスに皆が集まって来た。

だが、あれだけはしゃいでいた司も忍も、じっと凛のペガサスに見惚れて無言だった。

四郎も明石もジンコもそうだ。

はなちゃんを抱いた『みーちゃん』ママもじっと凛のペガサスを見て口をまん丸に開いて立ち尽くしていた。


俺達が凛のペガサスから降りた時に真鈴と圭子さんが鐘楼から急いで降りて来たのだろうか、息を切らせて死霊屋敷から走り出て凛のペガサスを凝視した。


凛のペガサスは羽を体の横に折りたたんで佇み、夕日を浴びてそれはそれは美しかった。


「彩斗…私達…あの凛のペガサスに乗って飛んだんだね…なんか…凄すぎて涙が出ちゃいそうだよ。」


ユキがそう言って俺の手を握った。

俺もユキと全く同じ気持ちだった。

俺はユキの手を握り返した。


呪縛から解かれた圭子さんが歩み寄り、凛のペガサスの首筋を撫でた。


「これ…凛なんだ…鐘楼から真鈴が夕焼けの景色を楽しんでいたら突然鐘を鳴らしてさ、何かが襲ってきたのかもって狙撃銃を持って鐘楼に上がったけど…スコープ覗いたら彩斗とユキちゃんが乗っていて…いや~凄いわぁ!」


クラが凛の服と長い槍を持って走って来た。


「やっぱり空を飛ぶのと走るのとは大違いだ~。

 皆、凛のペガサス見ました?

 凄いでしょ~?」


皆は息を切らせながら笑顔で言うクラを見てコクリと頷き、そして凛のペガサスに近寄り、体に触った。


司と忍も恐る恐る手を伸ばして凛のペガサスの鼻面を撫で、凛がやさしくその手に鼻を摺り寄せると弾けるような笑顔になった。


「いやいや、これは見事に変化したな~!

 戦国時代なら凛のペガサスを手に入れるのに城を差し出す者ですらいると思うぞ!

 いやいや!

 これは金や財産がどうのと言うレベルでは無いな!」


明石が凛のペガサスをほれぼれと見つめながら嘆息交じりに言った。


「そうでしょうとも!

 俺も始めて見た時はビックリしましたよ!」

「私、凛のペガサスに乗って見たい!」

「私も~!」


司と忍がはしゃいだ声を上げて飛び跳ね、他の皆も、『みーちゃん』ママでさえ、高所恐怖症の真鈴以外全員が凛のペガサスに乗ってみたい気持ちなのが俺には判った。

凛がクラに口を近づけて何か小声で言った。

きっと司や忍に野太い声を聞かせてがっかりさせたく無かったのだろう。

凛のいつでも心細かい配慮が出来る女性だった。


「皆、凛は今とても疲れたみたいです。

 まだ人を乗せて飛ぶのにあまり慣れていないようなので。

 今度の日曜日には交代で皆を乗せて飛んでくれるそうですよ。」


皆、少しだけがっかりしたが、とても嬉しそうに頷いた。


凛のペガサスはクラとガレージの陰に行き、やがて人間の姿に戻って出て来た。

皆で夕食の準備に入るため屋敷に入る時、司と忍がはしゃいだ声を上げた。


「日曜日に晴れるようにテルテル坊主を作ろう!」

「そうだね!後でいっぱい作ろうよ!」


圭子さんがそんな二人を見て笑顔で言った。


「そうね、夜に一杯テルテル坊主を作ろうか。 

 ただ、あなた達、念のためにヘルメット被るのよ。」


『みーちゃん』ママが笑顔でため息をついた。


「やれやれ、生きている内にあんなに凄い物を見るとは思わなかったわ…。

 ユキ、あの、凛のペガサスに乗ったんでしょ?

 どうだったの?感想教えてよ。」


『みーちゃん』ママだけでなく、ジンコや圭子さん四郎や明石までユキを取り囲んで色々と尋ねて来た。

高所恐怖症の真鈴がそんなメンバーを見てため息をついた。


「やれやれ、空を飛ぶなんて恐ろしくて考えもしたくないけど…確かに凛のペガサスに乗るのは気持ち良いのかもね~。」


凛が笑顔を真鈴に向けた。


「あら真鈴、凄く低く飛ぶ事も出来るわよ。 

 乗せてあげる。」


真鈴は些か顔を引きつらせながら凛を見た。


「そそそ、そうね。

 低く飛んでくれるなら…。」


夕食の場は凛のペガサスの事でもちきりだった。

圭子さんがため息をついた。


「あ~私も早く変化できるよういなりたいわ~!

 そしたら凛のペガサスのようになって司と忍を乗せてあげるのにね~!」


司と忍が声を上げた。


「え!ママはいつ変化できるようになるの?」

「凛のペガサスのようになれるの?」


圭子さんが明石を見た。


「なんだよ圭子、変化できるようになるまでケースにもよるけど結構時間が掛かるぞ。

 それにな、必ずしも思い通りの姿になれるとは限らないぞ。

 俺だってアナザーになってから400年以上経つけど犬と狼くらいにしか変化できないしな。」

「景行の言う通り、われもかなり苦労してやっとカラスとコウモリだからな。

 何に変化できるのか、そのからくりもわれ達にはよく判らんのだから。」


真鈴が顔を上げた。


「あら、四郎、景行、思念が関係していると言ってたわね。

 確かに凛のペガサスの翼の大きさでは、そしてそれを支える筋肉ではどんなに強く羽ばたいても空を飛べない物ね。

 物理的にあの外見で空を飛ぶのは無理よ。」

「そうね、真鈴、凛はね、物理的な力だけじゃなくて思念で飛んでいる部分が多いとは思うけど…でもさ、今回の事件を起こしたアナザーには思う通りの姿に変化できるのはいたじゃない、私と彩斗は目の前で四郎そっくりに、持っている武器迄外観はそっくりに変化したアナザーを見たけど…あれはどういった訓練をしたのだろうね…。」


成る程確かに。

俺とジンコが見た四郎そっくりに変化したアナザーは外見だけは四郎と全く見分けがつかなかった。

決定的に四郎が言う言葉と違う事を言ったから見抜いただけの事だ。


「うん、それは…藤岡かその側近でも捕まえないと謎のままだな。

 岩井テレサの組織でも解明が進んでいないと言うから、何か新しい技術を手に入れたかどうか、と言う所か…。」


圭子さんがため息をついた。


「それなら尚更、その藤岡達を皆殺しにして終りには出来ないわね。

 そして哀しい道具にされた例の男の子も…。

 何とか救えないかしら…沢山の悲劇を生んだとしても…あの子は道具にされただけじゃないのよ。」


圭子さんの言葉に皆が押し黙った。


その後食後にトレーニングをして風呂を済ませた俺達は暖炉の間に集まってテレビでニュースチェックをした。

夕方にラジオでちらりと聞いたが、『ショッカー対策班の活躍』で今回の静岡駅でのアナザー家族射殺から始まった連続ユーチュバー殺害と暴動の扇動をして日本どころか世界を混乱に陥れた集団の首領を特定したとのニュースが流れた。

そして、藤岡隆治と言う名前と顔写真が公開された。

凛のペガサスの件で盛り上がっていた俺達の気分は重く沈んでしまった。

水を差すどころじゃなく思いきりバケツの水を頭から浴びせられた気分だった。


「やれやれ、やっぱり岩井テレサは藤岡の事を隠して置く事はしなかったわね。

 まぁ、秘密ってどこから漏れるか判らないしそれが意外な弱みになる事もあるからしょうがないかもね。」


ジンコがぼやいた。


「うむ、確かにヒューマンの組織と共同作戦をするなら仕方がないだろうが…今のままではアナザーイコールヒューマンの敵と言う図式が出来上がってしまうかもしれんぞ。

 われらのようにヒューマンの為に体を張っているアナザーもいると言うのにな…。」


真鈴が頷いた。


「そうね、四郎。

 確かに今の段階で岩井テレサの組織や私達ワイバーンの存在を世間に公表しても更に混乱に拍車がかかるだけだもの…だけど、地球に生きる全てのヒューマンとアナザーとの未来を考えると、これは進歩どころか思いきり後退したように思えるわ…。

 中世の頃まで跋扈していた悪魔は実在するんだ!って感じになる。

 このままでは何か別の災害が起きた時に間違った認識でヒューマンが魔女狩りと言う大殺戮を起こした様な惨劇が人類規模で起きるかも知れないわね…その時は、今度こそは人類文明はアナザーと全面戦争を引き起こして共に滅びるかも…。」


真鈴が深刻な顔をして俯いた。


「それに…乾が属する管理者たちってどこまで情報を掴んでいるのかしら?

 管理者たちは恐らく今回の犯人たちをすべてを問答無用で排除するかも知れないわね…全てを闇から闇へ葬ると尚更事態が悪化する気がする…。

 皆人知れず姿を消しましたじゃ、誰も納得しないわ…。

 『清算の日』がますます近づいてしまうかも知れないわ…。」


なるほど、乾達が属する管理者たち、そして、弱体化したとはいえまだまだ勢力を持っている岩井テレサの対立組織、そして、未だにその正体が全然判らない横浜の倉庫を拠点にする集団…だんだんとカオスな状況になりつつあった。

そして、テレビニュースの最後に月はその裏側の10パーセント以上を地球に見せた事を伝えた。







続く



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