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純とはなちゃん、さととまりあの共同作業で『敵』の首領を突き止めることに成功したが…。

「まって、ちょっと待って純さん。」


さとが話し始めようとする純を押しとどめた。


「どうしたのさとさん?」


ジンコが尋ねるとさととまりあが顔を見合わせて頷いて言った。


「確かはなちゃんはあの男の子に接触した今回の事件を起こした首領らしき者のビジョンを見たと言ったわ。

 純さん、可能な限り、細かく思い出して離脱した人達の事を思い出して話して。

 それからはなちゃんをこっちにもらって良いかしら?

 私達で純の心のビジョンを読んでねそのイメージを増幅してはなちゃんに送るわ。

 そうすればはなちゃんはより鮮明にイメージを読み取れる。」


そう言ってさととまりあは、はなちゃんをジンコから受け取り膝の上に乗せると、はなちゃんの手を握った。


「これでよし。

 もしも離脱した者の中に該当する者がいればはなちゃんはハッキリと判ると思うわ。」


さとが言い、純が頷くと離脱した者との記憶を話し始めた。

最初は日本に来て直ぐに離脱した初老と言って良い見た目の男性アナザー、セルゲイの事を話し始めた。

さととまりあははなちゃんの手を握りじっと話を聞いていた。


「純、次のアナザーの事を話して。」


さとが言い、純はその後、第2次世界大戦がはじまる前に離脱した、ヘレンと言う若い女性のアナザーの事を話した。


「続けて純。

 対立組織との戦いで行方知れずになったアナザー達の事も。」


純は岩井テレサの組織と考え方が違い、人類を支配下に置こうとする組織との戦いの最中に生死不明で行方が分からくなった3人のアナザー、1人は明治時代に生死不明になったチャンと言う若い中国人アナザー、もう1人は終戦時の混乱に生死不明になった藤岡と言う日本人の中年のアナザー、そして今から30年前に生死不明になった、富田と言う女性アナザーの事を話した。


「これですべてよ。」


純は話し終えてさと達を見た。


「ちょっと待って純、皆も…ちょっと待って…。」


さととまりあは額に汗を浮かべ、はなちゃんの手を握って沈黙した。

俺達はじっと待った。


やがて、はなちゃんが目をかっと見開いた。


「掴んだじゃの!

 あの首領は藤岡と言う男性アナザーじゃの!

 間違いないじゃの!」


岩井テレサがふうとため息をつき、こめかみに手を当てて純を見た。

はなちゃんの言葉を聞いた純は、口に手を当てて目を見開いた。

そして、純の目から涙が溢れた。


「そんな…はなちゃん…本当なの?」


岩井テレサが呟いた。


「あの大空襲の時、火だるまになった純を抱えて何とか助けようとしたのは…藤岡だったのよ…。」

「藤岡が…ヘレンがジョスホールを離脱した理由はね、なんとか第2次世界大戦の拡大を押さえるためにジョスホールが動くべきだと強硬に主張して結局離脱した時、かなり動揺はしていたけど…。」


純は涙を流しながらいい、黙った。

岩井テレサが純の肩を抱いて俺達を見た。


「藤岡が…彼はとても優しいアナザーだったの…孤児院を始めようと言い出したのは藤岡なのよ…彼はひどい扱いを受けていた孤児をあちこちから救い出して孤児院に入れたの。

 そして、日本も戦争に突入した時にかなり心を痛めていた…。

 純の…火だるまになった純を助け出そうとして彼も酷いやけどを負った。

 アナザーだったけど彼が完治するまで2か月もかかったわ…ナパームが彼の身体の奥深くまで肉を焼きながら食いこんで行ってね…私達は慌てて彼のかなりの身体の肉をナパームごと切り離さなけれなならなかったの…純が死んでファンタースマになったと知った時、藤岡はね…純が依り代に使えるように小さい人形を、まだ火傷が完治していない不自由な手で、布と綿を使ってちょっと不細工だけど心がこもったぬいぐるみを作ったのよ…純の心臓部の依り代は藤岡が作った小さなぬいぐるみなの。」

「…。」

「彼はかなり酷い、耐えられないほどの苦痛を感じてはずだけど、純の事を心配する事だけを言っていたわ…。」


純はしゃくりあげながら言った。


「彼は…藤岡は…凄く…凄く優しいアナザーだった…。」


はなちゃんがゆっくりと手を上げた。


「純…それだけでは…なかったじゃの…順と藤岡がの…深く愛し合っていたじゃの…わらわにはハッキリと判ったじゃの…藤岡はの…今でも、今でも純の事を深く深く愛しているじゃの…。」


はなちゃんの言葉を聞いた純が泣き崩れた。


「はなちゃん!間違いだと!何かの間違いだと言って!

 藤岡はそんなアナザーじゃないわ!

 あんなに優しくて子供が好きな藤岡が…はなちゃん!」


純の肩を抱きしめている岩井テレサが榊に目配せすると榊は純をそっと立たせて奥に連れて行った。

その後ろ姿を見送る岩井テレサが俺達に向き直った。

その目にもうっすらと涙が浮かんでいた。


「はなちゃん、さと、まりあ、ありがとう。

 重要な証拠を手に入れたわ…これで随分打てる手が増えた…それにしても…あの藤岡が誰よりもヒューマンを愛し、ヒューマンとアナザーの平和な世界が来ることを願っていた男がまさかそんな…。」


まりあがゆっくりと話し出した。


「藤岡は優しいアナザーだったわね…凄く凄く…でも、その優しい気持ちが大きすぎた故に…耐え切れなくなったのかも…ヒューマンが未だに殺し合い子供達が犠牲になっている今の状況を…それで一か八かの思い切った行動に走ったのかも知れないわ…もう時間の猶予はないと感じたのかも知れないわ…今、第3次世界大戦が起こっても全然おかしくない状況だしね…そして、あの男の子が藤岡に心を許した事も、いともたやすく言う事を聞くようになった事も、今になったら判るわ。」


はなちゃんが呟いた。


「わらわ達は…あの…藤岡を討伐して済む事なのじゃろうか…。

 今一度話し合いをして手を取り合えないのじゃろうか…。」


俺は物凄く複雑な心境になった。

ワイバーン全員がそう感じている。

ヒューマンを愛するがゆえに心が壊れたのか…いや、現在この星に起きている惨劇を何とか止めようとしているのか…今回の事件を起こした首領の行動は愛ゆえになのか…それが新たな悲劇を世界のあちこちで産んでいる…。


だが、今は何としても藤岡が企んでいる性急な行動を止めなければならない。

藤岡は人類文明が滅び、下手をするとこの星が生き物が住めなくなるような事態を引き起こしているのだ…しかし…。


しかし…藤岡が…犠牲を恐れずに…急ぐ理由も…今の世界を見ると…痛いほど判る…。

俺達や岩井テレサが目指す未来と藤岡が追及する未来は…同じなのだ…。


俺達は押し黙って飲み物を飲んだ。

『敵』の首領を突き止めた高揚感はそこには無かった。









続く



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