ジョスホールも完璧な組織ではなく、離脱した者もいる事が判った…組織運営って難しいな。
「あの…彼女は何故死霊…ファンタースマになったのか…聞いても良いですか?」
俺はいささかぶしつけだと思いながらも聞きたくてたまらなかった。
純が微笑みながら岩井テレサを見た。
岩井テレサが手を振った。
「純、何でも答えて頂戴。
今回のはなちゃんが探り出した事で私達は彩斗君達に疑惑を与えてしまっているわ。
さととまりあが一緒に来た事も、私達の事を確かめに来たと言う事ね。」
岩井テレサが図星をついた。
確かにその通りだ。
「あ、いや…。」
「隠さなくとも良いわ彩斗君。
私達の組織は厳重に秘密を守ると言う性格上、あまり細かな事を告げれずに、疑惑の芽が出てしまうのはしょうがないわね。
でも、今は彩斗君達は大事な同盟パートナーだし、ワイバーンは色々私達と共同の作戦を行って来た。
あなた達が訊きたい事はどんなことも言って頂戴。
疑問をすべて解消しなければ私達は共に前に進めないわ。」
さととまりあとはなちゃんが少しだけ右手を上げて俺に目配せした。
岩井テレサの言っている事に嘘は無いと言う事を伝える仕草だった。
純が岩井テレサに頷いてから、俺達を見て話し始めた。
「私の真の姿が見える方達には判ると思うけど、私は中国とスペインの混血なの。
日本人だと言ってもさほど違和感を感じないと言う事で日本に来てジョスホールの仕事をしていたのよ。
戦争が始まっても私は日本にとどまったわ。
そして、あの3月の夜の事、米国軍の大空襲が東京にあってね。
焼夷弾が雨あられと降って来て…次々と焼夷弾を浴びて体が燃えてね、私の再生能力も追いつかなくなって肉体が滅びてしまったのよ。」
「純はね、当時孤児院で子供達の面倒を見ていて、逃げ遅れた子供たちを救うために何度も燃え盛る建物や防空壕に飛び込んで、最後は火だるまになりながらも子供を助け出し続けながら死んでしまったのよ。」
岩井テレサが寂しげな顔で呟いた。
俺は何かとてもデリケートな事に触れてしまったようで罪悪感を感じた。
他のメンバーもそうなのか、深刻な顔をして黙ってしまった。
「え…なんか…ごめんなさい。」
俺が謝ると純は微笑んだ。
「もうかなりの昔の事よ。
でもね、大空襲を受けても、沖縄で民間人を巻き込んだ悲惨な地上戦をおこしても、そして原子爆弾を町に落とされても、日本とアメリカは裏ではともかく共に手を繋いで未来に進む事を選んだわ。
その辺りでは人類の進歩だったのかもね…耐えられないほどの被害を撒き散らしてしまったけれど…友情を勝ち取った、わたしはもう、恨みは捨てたわ。
それが正しい事だと今も思っている。
恨みにとりつかれている間は何一つ成し遂げられない事は…一歩も前に進めない事を…あなた達も判るでしょ?
起こった惨劇は忘れないけど、恨みは忘れることにしたわ。」
加奈が手を上げた。
「…純さん、素敵だと思いますぅ!
…あの~ちょっと脱線するかも知れないけど、是非聞きたいのですが~!」
「何?加奈ちゃん、何でも聞いて。」
「あの~はなちゃんから前に聞いたのですが~、一度宿った依り代が完全に壊れたら宿ったファンタースマも昇天して消えてしまうと聞きました~。
純さんは体を換装、取り替えたと言いましたが、そんなこと出来るのですか~?」
岩井テレサと純が顔を見合わせた。
「そうね、はなちゃんが言う通りよ。
純の実際の依り代はね、凄く小さいのよ。
人の拳より小さいかも、とても小さいお人形に付いたのよね。
だからいま目に見える純の体の奥深くにはそのお人形が入っているわ。
それが純の心臓部。
今見える身体はねその更に外側の皮みたいな物なのよ。
だから、今の純は見た目の身体が破壊されたとしても中心部の小さなお人形の依り代を回収できれば純は昇天せずに、また新しくボディを付け替える事が出来るのよ。
そして、さっき純が言ったように、あの行李の中に飲み込まれた時に体を包んだ粘液を調査してその技術を応用してね、今のような完璧に見える皮膚や筋肉を作る事が出来たの。
皮膚は人間のものより数段丈夫である程度の再生能力もあるし、また中心部の依り代を保護する技術も行李の粘液の技術を応用してね、依り代を包んである極めて頑丈な入れ物に充填しているから何か起きたとしても依り代は相当な衝撃に耐える事が出来るようになったのよ。
実際にあの粘液は様々な事に役立っていて月探査船の外郭や船外活動する時の宇宙服などの素材としても導入しているわ。」
「ふわぁ~純さんはまるで凄いサイボーグみたいですぅ!」
「うふふ、でも加奈ちゃん、このボディには一切の動力は無いのよ。
この身体を動かしているのは私の依り代から一種の神経のような細いケーブルを張り巡らせてそれを私の念動で動かしているのよ。」
「へぇ~!でも、それは疲れないんですかぁ~!」
「まぁ、慣れね。
慣れたら元々の自分の体を動かすのと、そう変わらないわね。
今はあやとりは勿論、針の穴に糸を通す事だって平気で出来るわよ。
勿論、ある程度戦う事だってね。」
俺は飲み物を飲みながら純を見ているが全く人間としての違和感無い動きだった。
「いやしかし、凄い物だな…。
ところでテレサ、純、肝心の事を聞かねばならん。
あの奴らが何故ジョスホールと、そして連隊と名乗っておるのか。
われはあの女性アナザーが最後に言った言葉が妙に気にかかる。
あの女性アナザーの最後の言葉がテレサが最初に言ったヒューマンとアナザーとの共存共栄を目指している言葉と妙に被るものを感じたのだが…。」
岩井テレサが頷いた。
「そうね、その事を話さねばならないわ。
その為に純に来てもらったのだから。
彩斗君達覚えているかしら?
最初に同盟を組んだ時に私が言った言葉、あくまでも私達は自由意思の集まりだと言う言葉だけど…。」
「ええ、覚えています。
一見とても緩い集まりのように思えたけれど、岩井テレサさん達がそのスタイルで数百年間組織を存続させていたと…。」
「ええ、その通りよ。
でもね、過去に私達のメンバーでジョスホールを離脱した者が一人もいないと言えばそうでは無いのよ。
少数ながら、意見の相違があって話し合った結果組織を離脱した者も何人かいるのよ。」
「…。」
「そこでジョスホール立ち上げからずっとメンバーだった純に来てもらったの。
彼女は過去に離脱したメンバーについて一番詳しく知っているわ。
私が加入する前からの事もね。」
「あ、私に何か飲み物を頂ける?」
「え?純さん、飲んだり食べたりできるんですか~?」
「うふふ、加奈ちゃん、味や触感を楽しむ事は出来るわ。
消化とかの事は出来ないけどね。」
純が運ばれて来たアイスティーを一口飲んだ後で話し始めた。
「ジョスホールの日本支部を作ろうとした時にね、1人有力なメンバーが離脱したわ、あとは、戦争が始まる前に1人、それと、対立組織との戦いの最中に3人が姿を消した。
生死は不明だけど、今の時点まで死霊、ファンタースマになっても連絡が無いと言う事だけど…私の心当たりがあるのはこの5人かしら?
あと、連隊についてはポール・レナード農場の野戦、四郎さんがポールと別れ別れになった戦闘を契機に創立する事になったけど、あの5人は連隊の事を皆知っているわね。
離脱した者達も喧嘩別れとか言うことでなくごく平和的に話し合って離脱したけれど…。」
ジンコが純に尋ねた。
「純さん、その人達…アナザーたちはどうして離脱したの?
方向性の違いとかですか?」
「いいえ、ジンコさん。
私達に理念と方向性に違う所は無かったわね…強いて言えば…その理念に到達する手段の選び方と言ったところかしら?
ヒューマンとアナザーの共存共栄の平和な世界を目指すと言う事ではずれは無かったわ。
ただ、あのアナザーたちはね…私達も同じだけど、進捗があまりにも慎重すぎて遅いとそのために出さなくとも済んだ数々の悲劇が起こるのを止める事が出来なかったと、ずいぶん気に病んでいた気がするわ…数百年もヒューマンの世界を見ていたら誰でも、そう思うのかも知れないわね。
基本的に私達はヒューマン同士の争いがヒューマン全体が滅びるような事でも起こらない限り不介入と言う方針だったから。
離脱したアナザー達は私達が手をこまねいてヒューマンたちが起こす悲劇を黙って見ているだけと思ったのかも知れない。」
純の言葉を聞いて岩井テレサがため息をついた。
「そうね、純、それは非常に忍耐を必要とする事かも知れないけど…急いで結論を手にしようと動くとロクな事は無いと私達は学んだのだけど…彼らは我慢が出来なかったと言う事かしら?
私達が下手に動いたら今までと全く別次元の酷い騒ぎが起きる可能性があるのよ。
今世界に起きている起きている状況を見たら判るわ。
このまま事態が進めば今のヒューマンのレベルでは絶望的な破局が起こるかも知れないわ。
それはともかく、純、離脱したアナザーと…行方不明になったアナザーの事を話してくれる?
なるべく詳しくね。」
「判ったわテレサ。」
続く