俺達は真実を確かめるために岩井テレサの小田原要塞に向かった…そこで、今まで電話でしか話していないコーディネーターと会った。
「はなちゃん、間違いなくジョスホールと言った?」
「彩斗、間違い無いじゃの。」
「はなちゃん、れんたいと言う言葉は日本では色々な意味があるぞ。
ポール様が率いている『連隊』とは違う意味では無いのか?」
「あいや、四郎、間違いないじゃの。
奴らはあの男の子に初めはレジメントと言ってから連隊と言い直したじゃの。
わらわもアニメや戦士のドキュメンタリーなど見ておるからレジメントと言う意味は間違いなく連隊と言う意味じゃの…。」
余りのショックに俺達は混乱して黙り込んだ。
必死になって組織の総力を挙げてこの事件の解決に臨んでいる岩井テレサの組織と同じ名を名乗っている…俺達は何をどこまで信じれば良いのか…。
「…そう言えば、あの女性アナザーが灰になる前に言った言葉だが…『私達が逃げずに済む世界を作って平和で穏やかな世界を』と言っておったぞ。
われがそれを聞いた時は岩井テレサのジョスホールの理念が頭を掠めたな。」
「うむ、方法はともかく奴らの目指す世界は岩井テレサ達とそう変わらないと…いう事なのか…。」
明石が四郎に言ってまた考え込んだ。
はなちゃんが手を上げた。
「皆、気休めになるかどうかは判らんが、あの男の子の前に現れた奴らのリーダーはわらわが昔見た岩井テレサやベクター、そしてポールとも全くの別人だったじゃの。」
「どうする彩斗…。」
真鈴が顔を上げて俺を見た。
気が付くと皆が俺をじっと見ていた。
「真鈴…皆…まだ状況が良く判らないよ…。
ここで悩むよりも…やはり岩井テレサの所に行って確かめるしかないと思う。
岩井テレサと同盟を組んだ時、はなちゃんが彼女は嘘を言っていないと太鼓判を押したけど…。
嘘は言っていないけど岩井テレサがまだ話していない事があるのかも知れないし、巧妙に俺達を疑心暗鬼にして分裂させようとする罠かも知れない。
ともかくそれを確かめないと俺達はどう行動すれば良いのか…決められないよ。」
「そうね、彩斗…このままこの事を黙っている訳にも行かないし、でも、かといって全員で岩井テレサの所に行って…可能性よ!これはあくまでも可能性の一つだけど最悪の場合全員が罠にかかる訳にも行かないから、何人か選抜して岩井テレサと話に行く方が良いと思う。」
ジンコが言う通りかも知れない。
可能性がどんなに低くとも、万が一の事を考えておかなければ…。
「よし、俺とジンコとはなちゃん、そして…四郎と景行に一緒に来てもらおうと思う。
残りのメンバーは通常通りの生活をしながら最大限に警戒をして欲しい。
俺達が無事に帰ってくるまでね。」
皆が頷いた。
凛が言った。
「彩斗リーダー、さととまりあにも一緒に行ってもらった方が良い気がするわ。
彼女達はもしかするとはなちゃん以上に心を敏感に読めるし…。」
「凛、よく言ったじゃの!
悔しいがその通りじゃの!
今回はさととまりあにもついて来てもらうが良いと思うじゃの。」
その後、俺はさととまりあに電話をかけ、細かい事情は話さずに岩井テレサの所に一緒に来て欲しいと頼んだ。
「…彩斗君、何か私達の得意分野のような事をするのかな?
いいわよ、明日行くのね?」
俺はさととまりあについて来てくれるように手配を頼み、そして岩井テレサに連絡をして明日の面会の約束を取り付けた。
この騒ぎで岩井テレサは小田原の要塞にこもりっきりのようだった。
俺達は明日の昼前に岩井テレサと面会する事になった。
「よし、これで準備は整った。
あ、四郎、この事はリリーにもはっきり判るまで言わないようにして欲しいんだけど。」
「うむ、判ったぞ彩斗。
われもリリーには今日の事はまだ言わない事にするぞ。」
俺達は解散した。
自室に戻るとユキがいた。
「彩斗、お疲れ様。
会議はおわり?」
「うん、色々問題が出たけど何とかなりそうだよ。」
「そう、良かった。
ところでみーおばさんがね、明日、あの店に『みーちゃん』を開店する事に決めたのよ!」
「え!本当かいそれ?」
「本当よ!」
「それは良かった!
ユキ…お金とかは大丈夫?
何なら俺が少し…。」
「ああ、彩斗、お金の事は全然大丈夫よ!
みーおばさんも私も、もしもの時に貯金しておいたし、火災保険でかなりお金が降りるそうだしね!」
「それは良かった。
でも、お金に困りそうになったらどんどん相談してよ。
俺も一応は会社社長何だからさ。」
「あら、そうだったわね!
彩斗は会社の社長なの忘れていたわ!
何かあった時は相談に乗ってね!
それで、明日なんだけど、みーおばさんと私を不動産屋さんに乗せてってくれる?」
「あ、ユキ、明日は大事な用件で小田原に行かなきゃいけないんだよ。
午後遅くには戻ると思うから、それからで良いかな?」
「うん、大丈夫!
ありがとう彩斗。
でも、車を貸して呉れたら私とみーおばさんで行っても良いけどね。」
一瞬俺はそうしようかとも思ったが、今ユキには話せないが、俺達は少し緊迫した状態にあるし、町中も2人だけで出かけるのは少し心配だった。
「やっぱり俺が車で連れて行くよ。」
「うん、わかった。」
そして翌日、俺達は黒田が運転するジャガーのさととまりあと共に岩井テレサの小田原要塞に向かった。
はなちゃんを抱いた俺はジャガーの助手席に乗り込んで、さととまりあに昨日の事を話し、俺達が懸念している事を話した。
「ふ~ん、少し厄介になるかも知れないわね。
テレサの組織だって岩井テレサの完全独裁と言う訳でもないし、組織の事を隅々まだ把握するなんて無理な相談だしね。
でも、岩井テレサとは私達も良く話したけど、そう言う裏を持っているとは思えないし、何かの策略をするにしても手が込み過ぎているし何かメリットがあるとは思えないわ。」
「さと、実際に話している所に一緒にいないとこれは判らないわね。
彩斗君、私たちは口を挟まずに横で聞いて見るわ。
何か不穏な事を感じたらすぐに合図するね。」
「さと、まりあ、ありがとう。
今回は俺達も何が何だか判らないんだ。
よろしくお願いします。」
「いえいえ、私達もあそこのカフェで食事をできるのが楽しみだわ。」
そう言ってさととまりあが微笑んだ。
さとが前を走るランドクルーザーを指差した。
「ところで彩斗君、加奈ちゃんがついて来ているようね。」
俺が前を見ると走るランドクルーザーの車体の下から加奈が這い出て来て屋根に上り、俺達のジャガーを振り返ると手を振って笑顔になった。
やれやれ…
俺達は岩井テレサの小田原要塞に到着して、海が見えるテラス席に案内された。
「やれやれじゃの。
加奈もついて来たいと言えば良い物を…。」
「今日いきなり小田原に行きたいと思ったですぅ~!」
加奈ははなちゃんに笑顔を向けた。
加奈は死んだことで少し自由人になったようだ。
やがて岩井テレサが榊を従えてやって来た。
「皆さんこんにちは。
昨日はワイバーンおかげで助かったとリリー達は言っていたわよ。
あの男の子は取り逃がしてしまったけど、何人懐構えて収穫はあったわ。
ありがとう。
さととまりあも…あら?加奈も来てくれたのね。
こんにちわ。」
俺は屈託のない笑顔の岩井テレサに挨拶をした。
そしてジンコに脇をつつかれた俺は少し切り出しにくい話を始めた。
「いえ、こちらこそ…。
ところで昨日、はなちゃんがあの男の子と一瞬目が合ってかなりの情報を読み取ったんですよ…。」
俺ははなちゃんが昨日が話した内容を、そして、男の子をさらった一団がジョスホールと連隊と名乗った事を伝えた。
笑顔だった岩井テレサの顔が曇り、少し考え込んだ。
そして榊に顔を向けた。
「榊、コーデイネーターを、純を呼んできてくれるかしら?」
榊が立ち上がって歩いて行った。
「彩斗君、はなちゃんの話によると戦後すぐにあの集団が男の子をさらったと言う訳ね?」
「そうじゃの。」
「そしてジョスホールと…そして連隊と名乗ったと…。」
「その通りじゃのテレサ。」
「う~ん、これは少し由々しい事になりそうね。
今コーディネーターが来るわ。
実はあの人はジョスホールを作った時からのメンバーなの…いろいろ事情があって今の姿になったけど、私達の中で誰よりも一番今までのジョスホールのメンバーの事を知り尽くしているのよ。
始めはジューンと言う名前だったけど、日本に来てから…もう200年近くになるけど、今は純と名乗っているの。」
やがて榊と共に上下が白の作業服のような姿の女性が歩いて来た。
俺は歩いて来る純と言う名の、何度か電話でやり取りしたコーディネーターに違和感を感じた。
明石も同じ違和感を感じたようでふ~とため息をついて純を見ていた。
「彩斗、あの純と言う人はわらわとおなじじゃの。」
「はなちゃん、同じって…。」
「わらわと同じ、依り代に宿っておるじゃの。
あの外見は非常に精巧に人間の姿を模した、人形じゃの。」
「え…。」
純がやって来て俺達に挨拶をして微笑んだ。
「こんにちわ、じかにお会いするのは初めてですね。
あなたが彩斗さん、あなたがジンコさんね?」
そう言って純が椅子に座った。
椅子に座る動作は人間そのもの、その声は確かに電話で話した時の落ち着きがあり魅力的なコーディネーターの声だった。
何の予備知識もなく見ると純は20代後半のごく普通の女性に見えた。
岩井テレサが言った。
「純は私よりもずっと昔にジョスホール立ち上げの時からに参加しているし、ポールやベクターとも友達よ。
ジョスホールにいた者については誰よりも詳しいのよ。
裏方仕事が好きだと言う事で今は通信の仕事を手伝ってもらっているわ。
今、はなちゃんが言った通り、彼女は依り代に宿ったファンタースマなのよ。
あの行李の粘液を調べた技術を取り入れて皮膚や筋肉の精度が今までより数段向上したから、見た目は今は完全に人間に見えるけどね。」
加奈がフワァ~と声を上げた。
「見た目は人間以外に素敵な女性にしか見えないですぅ!
でも、その中に私やはなちゃんと同じ、ファンタースマが宿っているですぅ!」
「うふふ、あなたが加奈ちゃんね。
初めまして。
でも、この姿に換装する前はね、本当に…何と言うかマネキンみたいで自分でも気味が悪い感じだったのよ。
やっと人前に出る事が出来る姿になったわ。」
そう言って微笑みを受かべる純を人間以外だと見破れるヒューマンはまずいないだろう。
純の見た目は完璧なヒューマンに見えた。
続く