俺達ははなちゃんのビジョンを聞いて、奴らの名称を知ったが…。
死霊屋敷に戻って来た俺達。
圭子さんが真っ二つになったジンコのUMPサブマシンガンを見て驚いていた。
そして、ジンコ無事でよかったね~!と言いながらジンコを抱きしめた。
暖炉の間に集まった俺達。
加奈もいたが、オーバーオールを着ていた。
「あれ?加奈着替えたの?」
加奈がブスッとした顔で答える。
「お気に入りのワンピースが血まみれになったしね~。
それに、帰って来てからも加奈のパンティーを見て、またひとり爆発昇天したですよ。
あ~死んでからお気に入りの紐パンを履いているんだけど、それで親衛隊が加奈のパンティー見るたびに爆発昇天したら誰もいなくなるから、今度からなるべく露出を控える服にしたのですよ~!
なんかつまんないですぅ~!」
確かに加奈があの倉庫でスカートめくり上げて顔の血を拭いた時、ツンパーもろ見えになり、後ろ姿を見ていた俺も明石も四郎も喜朗おじでさえじっと加奈を見てンフ~!と声を上げて、明石から加奈の説明を聞いたクラも顔を赤くしてンフ~!と唸って凛から頭をひっぱたかれていたからな…。
「あら?加奈、そんな事言ってるけど、あんたブラもしていないじゃないのよ。」
圭子さんが加奈の襟元を見て言った。
「ブラはめんどくさくて死んでから着けてないですよ~!」
「え?加奈、ノーブラなの?
まぁ、別に良いけどね。」
加奈と圭子さんのやり取りを聞いて俺達男性メンバーの視線が鋭くなりンフ~と吐息を漏らし、クラが凛に頭をひっぱたかれ、明石は圭子さんにげんこつで頭を殴られた。
やれやれ、明石はともかく、クラはファンタースマが見えないのに結構反応するよな…見ていないのに叩かれるのもかわいそうと言えば可哀想だが…。
「まあ、それはともかく、はなちゃんが見たと言うあの男の子の生涯を話してもらおうじゃないか。
念のために音声を採って置こう。
岩井テレサ達の役に立つかも知れないからな。」
明石がそう言って俺はスマホを取り出して録音モードにした。
はなちゃんがあの男の子の生涯を話し始めた。
どうやらあの男の子は北ヨーロッパの部族の有力者の子供で双子の兄弟だったらしい。
ローマ帝国が北方のゲルマン人の侵略を受けて衰退したころの北ヨーロッパの蛮族だったらしいとの事だった。
占いとお告げに寄り、男の子は去勢されてカストラートのはしりと言うか、歌声の高音を保つために去勢させられ、男の子の弟はありとあらゆる戦闘術を叩き込まれたようだ。
兄が歌などの芸術や儀式を、弟が部族を守るための戦闘指揮官へと育てられた。
だがそこに東方から騎馬民族の侵略を受け、男の子の部族が撃滅されてしまい皆それぞれ散りじりになって森に逃げ込んだらしい。
数少ないお供を連れて森に逃げ込んだ男の子だが、その時に悪鬼、アナザーに襲われ、供の者は全員死に、男の子はアナザーにされたようだった。
アナザーは追手の騎馬民族にも襲い掛かったが返り討ちにされて死んだようだ。
気が付いた男の子は死体がゴロゴロと転がる森の中で目を覚まし、自分が人間でなくなった事に気が付き、あてども無くさまよったと言う事だった。
男の子は森を抜けて、ある近しい部族に引き取られたりもしたが、アナザーであることを見抜かれて逃げ出した。
孤児である男の子は随分苦労しながら、道端で歌を歌い食べ物を恵んでもらったり盗みをしたりと放浪の旅を続けた。
そこまで聞いていた真鈴が手を上げた。
「はなちゃん、ちょっと良いかしら?」
「なんじゃの真鈴。」
「その男の子って1000年くらい生きて来たんでしょ?
そして歌ったり…盗みをしたりして食べ物を得ていたとなれば、それなりの生き抜く力と言うか何だろう?ずる賢さとか身に付かなかったのかな?
あの地下で私が見た男の子はそこいら辺りに普通にいる少し気弱そうな男の子にしか見えなかったわ。」
なるほど、真鈴が見た印象に俺達も同じ感じを受けていた。
1000年も生きて来て何一つ強さを身につけなかったと言う訳か…。
「真鈴、それにはあの男の子のいささか、と言うよりもかなり特殊な育てられ方もあったのかも知れぬじゃの。
先ほど話したように双子の弟は武力を担当、兄であるあの男の子は歌や音楽、芸術や儀式担当でな、物心つく時から一切の暴力から遠ざけられて育ったのじゃ。」
「…。」
「じゃから、アナザーになっても並の人間より強くないかも知れぬ。
盗みをしてもすぐに掴まり袋叩きになってしまう事も多かった…じゃが、あの男の子の美しい容姿と歌声がの、幸か不幸か保護者と言うかあの男の子を利用しようとする者達が続々と現れてな、男の子の放浪生活は短かった。
そして、昔の事だからあの男の子を巡る争奪戦などもかなり起きたようじゃの。
あの男の子はいわば、美しい声で鳴く貴重なカナリアみたいな『物』じゃの。」
「…。」
「ある者はあの男の子に歌わせ、金を稼いだり、何らかの信仰の広告塔にしたりとな、或いは権力者に取り入る道具にしたりと、随分利用されてきたようじゃの…。
時の権力者たちがあの男の子の奪い合いまでして戦いが起きたりさえしたのじゃの。」
俺達は考え込んでしまった。
「1000年にわたって利用され続けて来たのか…。」
「四郎、その通りじゃの。
あの男の子はそう言う境遇に反抗したり逃げ出したりする知恵も意思も持ち合わせていなかったようじゃの。」
ジンコが尋ねた。
「じゃあ、はなちゃん、あの二人のアナザーは?
あの初老のピアノを弾いていた男と椅子に座って歌を聞いていた女のアナザーは?
かなり強かったわよ。」
「あの二人はの、あの男の方も女の方も男の子がアナザーにしたじゃの。
しかし、明確な意思を持ってしたと言うよりもやむを得ずに体液交換をしたと言うか…男の方はかなり長く、数百年前から、ピアノと言う楽器が出来る前からあの男の子の専属の音楽家のようだったじゃの。
男が病気になり、いよいよ死が迫った時に男の子がアナザーにしたじゃの。
音楽的に相性が良かったようじゃの。
あの女の方は男の子の身の回りを世話するためにやはり金で買われて来た者じゃの。
かなり時代が進んで、やはり男の子の争奪戦が始まった時に男の子とあの音楽家とともに逃げようとした時に大怪我を負って瀕死の重傷になった時の男の子がアナザーにしたじゃの。」
圭子さんが腕組みをした。
「う~ん、でもそれじゃその男の子が満更孤独と言う訳でもなかったんじゃないの?」
「圭子、しもべと友人は違うじゃの。
あの2人はあくまでも命を助けてくれた男の子のしもべとして守護する者として共に生きて来たじゃの。
アナザーとなった時にそうして生きて行くと決めたじゃの。
あの者達の意思決定は全てあの男の子がしておってな…あの2人は一切男の子に異議を唱えず仕えておった。
勿論、何百年と共に過ごしたからある程度の親愛の情も生まれたかもしれんが…あの2人が生まれ育った時代を考えれば…あの男の子は守るべき守護、使えるべき主人としか映らなかったじゃの。
当然接し方もそれなりにドライな物になるじゃろうの。
あの2人の律儀な礼儀正しさで男の子と距離を置いた形をとってな…あの男の子が求めたのは友人であり家族であり…じゃが2人は違ったじゃろうの。」
明石が尋ねた。
「はなちゃん、あの男の子たちはずっとヨーロッパに住んでいたようだが、いつどこから日本にやって来たんだ?」
「景行、ロシアからじゃの。」
「ロシア…。」
「と言っても100年位前じゃの。
男の子たちは各地を流れ流れて、当時ロシアがまだ帝国の頃に王室に保護されておったが、革命が起こり白ロシア人達と共に満州に、そして日本の大物実業家がその庇護を買って出て日本に連れて来たじゃの。
そして密かにかくまわれて秘密の集まりであの男の子は歌ったじゃの。」
「…。」
「しばらくは平穏な時を過ごしたようじゃが…日本は大戦争を外国と初めてな…戦に負けた日本のどさくさに紛れて逃げたようじゃの。」
「結構…凄く波乱万丈ね…。」
「凛、その通りじゃの。
戦後は羽振りが良くなったやくざの男に囲われて歌を歌ったり…その…あの方面の慰み者に…まぁ、男の方はその気があったらしいじゃの…男の子も去勢されておって…やくざの男の愛撫を何か温かいものと信じてしまい…それなりに安らぎを感じたようじゃ…人に抱かれて眠るなど今までの生活では無かったからの…そうして暮らしていたが、ある時、奴らに強奪されて男の組は皆殺しになったじゃの。」
「はなちゃん、奴らって今回の奴らかい?
今回の事件を起こした奴らかい?」
「喜朗、その通りじゃの。
奴らの親玉があの男の子としもべに奴らが世界を変えようと、ヒューマンとアナザーが平和に暮らす世界を作ろうとしているとしていると都合の良い事を吹き込み、男の子たちは信じたようじゃの…もっとも首を縦に振らなければ殺されていたかも知れんが…。」
「はなちゃん!その奴らってはなちゃんは見えたのかい?
顔とか特徴とか、奴らの名前とか!」
「彩斗、残念じゃが、あの短い時間ではすべてを詳しくと言うのは無理じゃったじゃの。
今まで話した事もわらわが拾った断片を繋ぎ合わせた物じゃの。」
「…。」
「しかし、奴らが名乗っている名は判ったじゃの。
そして、奴らの首領と思しき者もわらわが見てそいつの気配を読めば判るじゃの。」
「おお!それでも大収穫だ!
はなちゃん!名前を教えてくれ!」
「それがの…少し言いにくいじゃの…。」
「なに?はなちゃん、言いにくいってなんだよ。」
そして俺達ははなちゃんの言葉を聞いて固まってしまった。
「彩斗…奴らはの…その…ジョスホールと名乗ったじゃの。」
「え…。」
「奴らはの…『ジョスホール』と…そしてな…『連隊』と男の子に名乗ったじゃの…。」
続く