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2月の朝

作者: まーまる

短編です。

ザクザク、ザクザク


 雪をかぶった山を足早に登る。雪が足を掴み、その力に逆らわなければならないためか体力の消耗が激しい。


ヒュウウウウウ


 あたたかい。

 肌をほどよくなでる温かい風が吹いている。風が疲労した心と体を癒やしてくれているのが感じられる。

 まだ2月という冬の季節だが、一足早く春を告げる合図が来たのかもしれない。近いうちに風に乗って春が訪れるかも知れない。

 重い足を一度休ませ辺りを見回した。太陽はまだ出てきていないが、東側がほのかに明るくなってきている。

 夜明け前に山を登り切れれば時間に余裕はできる。

 この山を越えればこの国の都市、バザンに着ける。この世界で美しい都市として有名な場所だ。

 今はこの山を登り切ることだけを考えなければならない。そうでないと約束の時間に遅れてしまう。

 私はバザンに行くことを楽しみに思いながら、急いで山を駆け上がった。雪を思い切り踏みしめてこれまでの奪われた力を取り戻したかのように豪快に進んだ。

(はぁ、はぁ、はぁ、はあ。あと少し、あと少しで頂上だ)

 もう足が限界に来ている。やはり疲労は多くたまっていたらしい。先ほどの豪快さはいつの間にかなくなっていた。それでも、足を止めるわけにはいかない。私はそれほどの任務を抱えているのだ。

 そして数分後、私はとうとう頂上に到達した。

 すると、まるでこのタイミングを狙っていたかのように太陽が昇ってきた。

(はあ、はぁ。き、きれい・・)

 膝に手を置きながら、荒れた呼吸を沈めることに努めた。

 疲れたのとまぶしいのとで前がよく見えてないが、見渡す限りの世界が綺麗に輝いていた。

(数分だけでも休憩しよう)

 そう考えた私は原っぱに腰を下ろし、一呼吸をおいた。二月ということもあって頂上は辺り一面の銀世界だ。生命が生きている香りはしない。だがどこからかは何かの音が聞こえる。楽しそうな音だ。自然と視線が音の方に向いた。

(・・・っつ。すごい・・)

 音の正体はバザンだった。目の奥に広がる一面ピンクの世界。日差しのせいか、街中がきらめいて見える。

 私は心を奪われた。一目惚れというやつかもしれない。今までこのような美しいものを見たことはない。こんなにも綺麗な街を訪れたことはない。

 特に街の中心にある高い塔だ。塔全体が銀色に輝いているが、周りのピンク色を反射していて、銀とピンクが混じって見える。

(・・ん?)

 バザンの音にかき消されながらも決して途切れることのない他の音が聞こえる。耳をすましてみると楽しげな音と混ざって、かすかな綺麗な音のハーモニーが耳に聞こえてきた。

 それはきっと、手前に流れている川の流れによる音、朝を告げる鳥のさえずり、風からのささやきだろう。心まで澄み渡るような心地のよい音だ。

 不意にいい匂いが私の鼻腔をくすぐった。花の良い香りと街から流れてくる美味しそうで賑やかそうな匂い。

 私の住んでいる村ではこのどれも体験することができない。ここは私をいやしてくれるオアシスだ。そして、この街を一望できる神聖な場所なのだ。この場所を離れたくない。

(・・・ずっとここにいたい)

 一瞬でもそう思ってしまった。

(ダメだ、こんなことしてたら)

 やることがあることを思い出した私はすぐに立ち上がり、自分の右にある長い影を横目に見ながらこれから向かう街に再度目を向けた。

 想像するだけでわくわくする。あのピンクの異世界に足を踏み込むことになると思うと。

 しかし、その前にやらなくてはいけないことがある。人の命を預かっているのだ。私が救わなければならないのだ。だけど不安のものは不安だ。なにせ、どこに行くのかもはっきりしていない。私には会いに行く人の名前しか知らない。緊張と不安で心が落ち着かない。

 だけど立ち止まっている暇はない。

(よし。再出発だ)

 そう思うと一瞬、影が揺らめいたように思えた。

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