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-最後の鬼火-前編  作者: 麻天無
1/1

前編

 ゆるせない!ゆるせない!!

 その気持ちだけで、野を下る。

 体が熱くなって、でも手足は震えて。血液が頭に吸い上げられるようだ。

 手には尖らせた細い竹

「鬼だ!!鬼が出たぞ-!!」

 貴様らが【鬼】と云うのなら

 おれはそう為ろう!



-最後の鬼火- 前編



「あにさん!(兄さん)飲み過ぎだぜ!」

 同じ番屋(派出所のようなもの)の仲間なのに、後から入ったからという事由でなぜかあにさんと呼ばれる。

「あ、ああ。すまん・・・」

 少しの間意識が遠のいていたようだ。連日の辻番が祟ったかな。少し頭を左右に振り、おちょこを持ち一口で酒を飲み干す。

「急に仕事増やしすぎだぜあの同心のやつ。都からきた御上の顔色ばかり伺いやがって」

「仕方がない。俺が悪いんだ。前の時もそうだった。」

 田舎で学業を学ばせてもらい、いい組織に入ったのだが、いかんせん自分は真面目すぎるようだ。

「あにさんはなんも悪くねえ!少ない給金で若い俺らにも奢ってくれる。誰がこんなことして呉れるんだ。あの武士が間違ってるのは一目瞭然だったじゃないか!」

「もうよせ与一。お前のその気持ちだけで十分だよ。」

 先日、河川敷であった事件を思い出す。どこぞの武士が童に財布を抜かれそうになったといい喚いて居たのだが、その折檻がひどく、しかも童は濡れ衣だったのだ。

「いいや我慢できねえよ。そこまでにしておけと云っただけのあにさんに、月並みに覚えとけよ!と負け惜しんで、結局終えにチクり陥れるような真似!逆恨みじゃねぇか!」

「時勢の変わりが早い昨今、武士も心持ちが悪かったのだろうが・・・。全部俺が悪いんだ」

 そう、官職の下に付いたときも、真面目すぎるといい煙たがられ。小さい番屋に左遷になったとき、熱くならずにいようと心に決めたが、どうも・・・。

「あにさん、本当は許せないんだろう?」

 酒を飲む手が止まる。ふっと、笑いがこみ上げてきた。

「ふふ。与一ぃ~。お前はいい子だなぁ。郷においてきた弟たちを思い出すよ。」

 与一の肩を引き寄せ、酔った勢いで本音を漏らす。そう、酔わなければやっていられないではないか。自分の心を押し殺し、自分の信念も通せない町で、ただただ命令に従う日々。

「お前の云う通りだよ。俺は、許せないんだ・・・」

 自分の愚かさも、生真面目さも。馬鹿さ加減に嫌気がさす。この年まで好いた女が出来ないことも。

「あにさんよく云うぜ。商家の娘さんがこの間までぞっこんだったじゃないか」

「ああ・・・。やはり俺は田舎者なのかな。紅をさす華美な女性が好きになれんのだ」

「今の流行は西洋文集さ。都から離れたこの町にももう大分浸透してきたぜ。あにさんみたいに背の高い男に、つま先立ちで接吻するのが女子の憧れって」

「よく知っているな。同じことをあの子に語られたよ。」

 もう一口酒を飲むが、苦いだけですっかり頭は冴えてしまった。

「やっぱり最初の良い女のこと引きずってるんだなぁ?」

 官職の下で働き始めたとき、少し長く付き合った女が居たが、今思えば田舎から出てきて町に慣れようとずいぶん背伸びをしたもんだ。引きずっているわけではないが、思い残ることは在る。

 あんなに好いたと云って呉れたのに、不祥事で降格が決まったとたん何もいわずに逢えなくなったのだ。

「もう昔の話だ。さて、帰るぞ。非番とはいえ、飲み過ぎた。」

 体は鉛のように重く、頭は少しくらい狂ってしまってもいいと思えるほど冴えている。たかが二十数年の人生だが、此からまだ生きる意味があるのだろうか。

青臭く、愚直な己の過ちは、いつになれば解消されるのだろうか。

「はぁ・・・」

 ため息をつきながら裏路地の家に入る。金は多くないから治安の悪い小さな長屋を借りている。右隣の男は素行が悪く、質の悪い酒を飲んでは夜中になにやら悪態を叫んでいる。

 左隣の姐さんは、よく日替わりで違う男と逢瀬を重ねている。艶やかな声が一刻以上続くこともある。

 どうしてそんなことを必死で出来るのだろうか。独りのときの欲は出るが、女と一緒に居ると立ち竦んだ。俺は男が好きなのだろうか?と疑うほど、町娘が可愛いと思えなかった。

 いや、昔、淡く想う人は居た。郷の幼なじみだ。素顔が美しく、子供の頃は野を一緒に駆け回った。

 今頃べっぴんさんになっているだろうな。郷にずっと居て嫁にもらえば良かった。なまじ町に上がって来て帰れなくなるなど、あの時は想像もしなかったのだ。

「ああ・・・逢いたい・・・」

 誰に?幼なじみに?それともまだ見ぬ何かに??

 隣人は逝く逝くと絶頂に達しようとしている。俺も逝きたい。

否・・・・。ちゃんと、生きたい。


 当番の日、朝礼を終えて交代の与一に声をかけた。

「ほんと朝からしゃんとしてあにさんは奇麗だな。俺もそれだけ背が高かったら格好が付くのに」

「ははは。なんも良いことなんてないさ。お疲れさん」

「ああ!また連れてってくれよな!」

 おちょこを傾ける仕草をしながら与一は帰路につく。

「おい、竹ノ下殿」

「はい、なんでしょう班長」

「お前さんに別の仕事が来ている。官職元にいた経験を生かして護衛をして呉れとのことだ。三晩あるが、いけるな」

 また無茶な役をふられる。とうとう上は俺が気に入らないらしい。

「承知しました」

 断ることは出来ない。帰る場所もない。少しでも市井や町に役に立つのならば、と。それだけが今の自分の自尊心をわずかながら保っている。

 観月祭り(九月の祭礼)も終わり、秋分が来ようとする中、都から巫女の一人が御所に滞在され神宮に上がられるらしい。

その端で三日三晩の見張りをしろということだ。

「秋分、か・・・」

 むかし祖父が云っていた。秋分から【鬼】が増え始める、と。

友人は祖父の話をおとぎ話と笑って居たが、俺は祖父が大好きだった。

『わしらの時代はまだ鬼がおっての、わしは鬼狩りをしよったんじゃ。』

 それでそれで?と話を催促する俺に、祖父はうれしそうに何度も語ってくれた。

『刀で鬼を斬るの!?格好良い!!』

『それは違う。鬼は毒気を抜いて崇めるんじゃ。そうすると、のう?』

「そうすると・・・なんだったかな」

 歩きながら考えていると、現場に着いてしまった。あれよあれよと兵士の甲冑を着せられ、持ち場に案内される。

「本来ならば雑兵ごときなどに務めさせる役ではないのだがな。」

 と係官が愚痴る。もちろん御所周りは高官が御守りし、端の端で日も当たらない藪の横が持ち場だった。もう大分涼しいが生き残った蚊に喰われそうだ。

「有事の際はそのでかい体躯を駆使してくれよ。只の棒にならないようにな」

 嫌みを残して係官は去った。そんなに二、三寸の差が気に障るのか、それとも異民を嫌うこの頃の心証か。どうやら外の国の者は皆背が高いらしい。俺は生粋の自国民のはずだが、近年、色素の薄い者や国民らしかぬ者が差別されやすい傾向だ。田舎には色素の薄い者も肌が白い者も焼けた者も気にはならなかったのに。

 そういえばあの方も色素が薄かった・・・

「やぁ」

 涼しげな声に、体が跳ね上がった。

「久方ぶりだね。竹ノ下殿」

 気迫もない、無骨でもない、爽か声色なのに、どうしてこんなに緊張するのか。

「・・・阿ノ氏官、殿、おひさしぶりでござります」

 かろうじて社交辞令が出た。この方のこと考えたから現れたのか、と思えるほど丁度の時期で驚く。

「ふふ。君は本当に礼儀が正しくて、相変わらず、清いね。」

「・・・光栄です」

 彼の下の組織で働いていた。とても特殊で、特別な組織。奉行所でも異質な。

「どうかな?また私の元に戻って来たくなったかい?逃げるように自ら下の番屋になど往かなくていいのに。」

「当然の処罰を受けたまでです。」

 浮かれていたんだ。こんな凄い人に認められて。自身の力を発揮したくて。正義感を振りかざしただけの愚かな自分に、

「困ったらいつでも云いなさい。君を嫌っている人が、なにやら多そうだから」

 そう云って、祭事の服を模した彼の制服の飾り紐が、ひらりと舞って踵を返した。

「そうそう、もう少しで・・・」

 数歩離れたところからこう云った

「・・・【鬼】が出るよ。君の出番だね。」

 もし俺が獣だったなら。全身の毛が逆立っていることだろう。


今日で護衛も三日目。仮眠が終わり最後の夜だ。

 御所の中に居るであろう巫女様に、外から深々とお辞儀をし、そこから離れた持ち場に戻る。御簾の中からいったい何が見えているのだろう。栄えているとは云え都から離れたこの土地に、巫女が来るなど初めての事だ。

 巫女は人外の力を持つらしい。未来を予測したり、目に見えない存在を認知したり。

 鬼を、見たり・・・。

【鬼】が出る・・・だって。馬鹿馬鹿しい。信じてないくせに。

『見えることを、大事にしなさい』

と、祖父は云った。

 ああ、見える。田畑で悪さするものや、人を転ばせて遊ぶ者。稲穂で風に揺られて遊ぶ存在たちを。

 ああ。見えていたよ。たいした悪さなぞしない、かわいい者達を。

だが、この町は・・・人の中に、たくさん鬼が、見えるんだ。

 小さい者から大きい者まで・・・。人と合わさって見えるんだ。

だから俺は・・・俺は、鬼を斬りたくて

「出た!!!侵入者だ-!!鬼だーー!!」

 物思いに耽っていた体が条件反射で構えを取る。

 ガサガサと藪の木々が揺らされた。

 何か、居る!

 ばっ!!っと影が藪の中から飛び出し、宮の中一直線に素早く駆けていく!

「待て!!」

 まっすぐ追いかける最中、どこだどこだと他の兵は探している

 見えなかったのか!?小柄な男の影が入っていったではないか!

 端から境内に入ると、護衛は一人も居ない。なぜ?護衛する気はあるのか!?

 最悪な事態が予想される

 御簾をなぎ倒し、か弱き巫女に跨がり、着物を裂き、高貴な肌に爪を立て血をすするのかっ!?

 そう、あの時も・・・か弱き娘に、鬼は云った

 怖いかそうかもっと怯えろ!!そのような小さき体など抑え付けてやるわ!!

と。あんな事はもう見たくもない!!助けなければ!

「何人たりとも中に入ることはいけません」

「どいてくれ!」

「いけません。巫女様のご指示がありません」

「何を言ってるんだ!鬼が入ったんだぞ!」

 巫女の世話をする女官が俺を止める。

 何を馬鹿な事を云っているのかこうしている間にも

「ああっ誰か!!来やれっ!!」

 中からの悲鳴とともに力の緩んだ女官を押しのけ入る。

 想像通り、美しい着物を来た少女が、金糸の帯を巻いた男に馬乗りになられていた。

「やめろ!!」

 男を払いのけると、あっけなく飛ばされた。思ったより手応えが軽い。

「っぅ・・・げほっ・・・」

 壁に背を打ち付け蹲っている。巫女殿を背中に守りながら、男と間合いを取る。

 ずっと眠らせていた感覚がよみがえる。

 人の周りにある七色の炎。人によって色味は違うが、鬼は一層この炎が強い。

 この男から燃え上がるような火の揺らめきが見える。

「礼を言うぞ。」

「は、はい」

「こちを向くでない」

「は!」

 そうだこの方は巫女。先ほどチラと見えてしまったがこんな時でも拝顔するわけにはいかない。お体の様子も気になるが、声は落ち着きしっかりしている。鬼が強くないところを見ても、なにかしら巫女の力が及んだのかもしれない。

「其方にひとつ、頼みがある」

 鬼は、苦しそうに立ち上がろうとしているが、弱っているのか?取り押さえる前にしばし巫女様と言葉を交わす時間はありそうだ。

「その者を連れて、逃げておくれ。」

「は?」

 何を云っしゃられたの、か?

「後生の頼みじゃ。叶えてお呉れ」

「そ・・・」

「鬼め!!神聖なる巫女さまを汚すとは!!打ち首じゃ!!」

 護衛隊がやっと入ってきたが、ど、どうすれば

「 逃 げ る の じゃ !! 」

 力強い言霊のように、言葉を弾みにそれしか考えられなくなった。

「うっ」

 打ち所が悪いのかもたもたしている男の腕を掴み、裏の藪に飛び込むように突っ込む。

 なんだ、いったいどうすればいいんだ!!



 静まりかえった御所の中。二人の人影が相まみえる。

「美しい中秋の名月ですね。あなたはまるでかぐや姫のようだ。」

 鈴の音がしゃん、と鳴る。

 退魔の鈴が付いた束頭の刀を携えた男が巫女に忍び寄る。

「そちこそ人外のような出で立ちじゃ」

 色素の薄い髪をを束ねて流し、舞を踊る宮司のような裾が風に踊る。

「人外とは心外な。人外はそちらではなかろうか。女という姿で男を堕とすその姿。まさに鬼よ。」

「わしを鬼と呼ぶか。そちが鬼と呼ばれたからか?」

 御所の中にすきま風だけが通った。

 刀は鞘から抜かれながら鉄と鉄を擦らせた。

「人外の力は女が持つべきではない。」

「かわいそうな子じゃ。そちの鬼を狩ってやりたいの。」

「狩られるのはそちらだ。」

「鬼は鬼狩りでしか殺せぬからの。」

 時代に似合わず、重なった着物。自由を奪う重たい衣と御簾越しの狭い景色。

 それが今、終わる。

 衣もたやすく貫通した銀の刃は、油分を含んだ赤い水をまき散らした。

「たのんだ、ぞ・・・血をわけた・・・わしの」

 月に還るかぐや姫のように、すべての重みをなくして天に意識が舞う。



「はぁ・・・はぁ・・・!ここまで、くれば・・・」

 息が上がる。軽いとはいえもたついた男を引っ張って走るのは、さすがにくたびれた。

山手のほうに走ったからか、農具をしまった小屋の間で身を潜める。良いことに民家は離れている。此処ならしばらく休めるだろう。

「お前・・・」

 月明かりが男を照らした。ぼさぼさの髪に、がりがりの体。そりゃ軽いはずだ。しかも

「まだ子供じゃないか」

 まだ息が上がっている子供を、月明かりから物陰にひっぱる。細い腕だ。

「もっと近くに来い。見つかるだろう」

「はぁ・・・はぁ・・・」

「まだ息が上がっているのか。しゃんとしろ。」

 背中を摩ると同時に骨が折れてないか確認する。どけ!と吹っ飛ばしたのは自分だが、これだけ走れたのだ。折れてはいないだろう。

「なぜ巫女様を襲った?誰かにいわれたのか?仲間は??」

「・・・っ・・・う・・・」

 体が大きく震えている。己がしたことの重大さを感じたのか?

「ほら、落ち着け。水を飲め」

 腰につけていた竹筒の水を渡す。両手で取ろうとするが、震えが止まっていない。

「しょうのない。」

 手をぎゅっとにぎる。弟にもよくしていた。

「もう怖くないぞ。ほらおいで」

 肩を回し抱き寄せる。立派な帯を巻いているが、抱き寄せるとかなり小さかった。体にすっぽり入ってしまう。

「よしよし。ほら、水を飲め。」

 自分の口の中に含んで、口移しで飲ませると、こくんと小さな喉に通った音がした。

「う・・・ふえ・・・う・・っ・・・」

 子供のようになく。声変わりもしてない幼な子ではないか。背中をたたいてやりながらしばしすると、落ち着いて寝てしまったようだ。なにか事由があったのか。

 否なに同情しようとしておるのだ。忘れていたがこの子は鬼だぞ。

 神経を研ぎ澄ませてみれば、体から炎の朱が瞬いている。

 だが巫女様は連れて逃げろ、と。

「はあ。どうしたらよいのか」

 でも、あたたかい。

 弟をあやしているのを思い出すよ。

 どうして子供が眠っていると、眠くなるのだろう、な。



 東の空が明らんで来た頃子供を起こし、森の深くに入る。

「まだ町に近づかないほうがいい」

「そうなのか」

 少年の手を引き山道を登っていたが、身軽な体は自分を追い越しずんずん進んでいく。

「おい!そんなに走るな!まだ足下が暗い」

「だいじょうぶだ。」

「木の根で転ぶぞ!ぅ!」

 転ぶぞと注意したとたん自分の草鞋が木の根の隙間に入った。

「あはは!!おまえが転んだ!」

「やかましい。誰のせいだと・・・」

 近づいてきた少年の顔を見る。明るい顔が間抜けな俺をケラケラと笑っている。

「脳天気だな。昨日はあんなに震えていたくせに」

「力がいっぱい来た。みなぎった!」

「は?」

 この子は頭が悪いのか?ではなぜ

「なぜ巫女様を襲った?お前のような子供が。」

 誰かに利用されたのか捨て駒か?そうなら酌量の余地もあるかもしれない。

「ひとりでやったのか?」

 こくん。とうなずき、また山道を登っていく。だから先先往くなと云うに。

「頭があつくなったんだ。カーッとなって。前にあの紋様の隊におかあやおとう、みんなを殺されたから」

 殺された?御上の紋様の者が?俄に信じられない。

「お前その帯どうした。奪ったのか」

 背中越しに見える体に合ってない質の良い着物と金糸の帯が気になった。

にいがくれた。」

「兄はどこだ」

 うつむき足を止める。なんだそのわかりやすい反応は。今までしゃんと応えていたのに。

「あ、」

 なんだ?

「野原だ-!!」

「おい!」

日が昇りだし、木々の隙間に原がある。そこへ駆けだしくるくると回りながら草木を堪能している。

「あはは!!気持ちいい!」

「なにがそんなに楽しいのやら。追われているんだぞ」

「しばらくとじこめられてた。体を動かすのはひさしぶりだ!」

「そうか・・・」

 いったいどんな生い立ちだったのやら。鬼の炎も気になるし。俺も腰を下ろすと、秋風の吹き込む山風が心地よかった。無邪気にはしゃぐ姿を見てると、一瞬どうでも良くなるよ。だが。

「ではおまえはここにいろ」

「!」

 目が大きいからか、顔色が変わるのが直ぐにわかる。こちらに走ってきて突進するように抱きついた。

「な!!抱きつくな!」

「おまえはあたたかい。離れたくない」

 みぞおちのあたりに顔をうずめ細い腕で俺を抱く。昨日あやしたのが癖になったのか?

「ちがう。今のうちに必要なものをそろえる。」

 日が経つほど人々に知れ渡り追っ手が多くなる可能性がある。いまならまだ緩いはずだ。

「・・・ぇ」

 大きな目が俺を見上げる。

「昼に寝ておけ。夜に動く。」

 侘しそうな顔になった。

 俺が戻ってくる保証なんてない。そりゃ、此処に置いていき、離れるのが最善だろうが、どうしたらいいかわからん。

 ただ、巫女様の言葉がひっかかる。

「これを羽織って目立たないように寝ていろ」

 俺の羽織を掛けると、物わかりが良いのか体を放した。顔は曇ったままだが、顔を曇らせたいのはこっちだ。今から山を下りて、また夜までに戻ってこなければいけないのだからな。

「ああ、そうだ。お前はどこにいきたい」

 進もうとしたがもう一度振り返って訪ねた。

「海がみたい」

 応えて呉れたがまだ晴れない顔がなんだか不憫で、頭を良々となでた。

「わかった。」

 顔があかるく嬉しそうに笑った。

 何の縁がわからぬが、笑った顔で別れたいもんだからな。



 家、は、はられてない、か。

 まだ知れ渡ってないのか情報も欲しいところだが、と考えながら家に入り身支度をする。

「あにさん!」

「うぉう!与一か」

 びっくりした。家の隅に与一が潜んでいた。昼になっても日が差し込まない湿った部屋だ。潜まれたら心臓に悪い。

「仕事にこないのはなんでだよ!護衛の仕事は終わったんだろ?」

「ああ、ちょっと、な。何か、きいてるのか?」

「なにやら上の方であにさんを追う準備をしている。班長が口を滑らせたんだ。」

「お前も俺を追うのか?」

 身支度の手を止めずに与一に問う。

「いや。上の隊だけだ。なにやら許可がないとかでまだ動かないらしい。」

 有力な情報だ。本当に助かる。

「人数は多そうか?」

「・・・わからねえが、あまり公ではないらしい。」

「そうか。」

「・・・あにさんはなんもしてねえん、だよな?」

 僅か震える声に、避けていたが顔を見ざる得なくなった。哀しいじゃないか。此からどうなるかわからない身の上で可愛い与一を見るのは。その目は疑いか?不信か?お前は何を信じる?

「俺は、巫女を守っただけなんだ」

 なのに俺は鬼を連れて逃げようとしている。此はきっと罪に問われる。

「あにさんが追われねぇよう、なんとかするよ!」

「だめだ。お前を巻き込む。たぶん、理由はどうあれ俺は裁かれるんだろう。何かの罪でな。」

 与一のその後の沈黙が辛いが、身支度を終えた。

「これ!もっていってくれ!」

 手に握りしめているのはひと月の給金じゃないか!

「いつも奢ってもらったり教えてもらったり、おれは、なんも返せてねえ!」

「ありがとう。だがこれはもらえない。お前が生きるために使え」

 納得のいかない顔をしている。信じてくれているんだなこんな俺を。そんな価値があるかどうかもわからないのに。

「お前が信じてくれるだけで、俺は心強いよ。また逢おう。」

「あにさん・・・」



 夕方に山の丘に着く。最初どこに居るのかわからなかったが、目をこらすとやはり其奴は光って見えた。体から溢れる稲穂色の揺らめき。

「寝てるのか?」

「ん・・・」

「ほら、これをもうひとつ羽織れ。晴れていたから夜は冷える。」

「ぅん・・・。ふああ・・・」

 眠い目を擦り大あくびをする。右側に鬼歯(八重歯)がある。

「これを食べろ」

 包んだ握り飯を渡すと飛びつくように食べた。

「うまーい!!」

「まったく。少し肉をつけんと海までいけんぞ」

「うみー!!うみみたーい!見たことない!あはは!やったー!!」

 ひとしきりうれしそうに笑ってから、また俺に抱きつく。

「だからすぐにだきつくなよ。」

「あたたかい!きもちいい!」

 そのまんま素直に云うが、まるで動物だな。ひっぺはがそうと頭を掴んだ。

「なんだこれ。髪が油まみれじゃないか」

「なんかで固めて結ばれたんだ。ほどいたらこうなった。」

 なにをしたらこうなるのやら。とりあえず湯がいるな。

「町に出るのも小汚すぎて見つかる。山にいるうちに身なりを整えるぞ。そうだ、笠もかわねばな。旅の格好をして人にまぎれよう。」

「おまえ賢いな!」

 まっすぐに目を爛々と輝かせて俺を見る。

「あたりまえだろう。大人なんだから」

「てれているのか?」

「やかましい。」

 かわいいとおもってしまった。弟みたいなものだからか?

 そこからは山の尾根をゆっくり歩いた。火は焚かずに、獣に住処に気をつけながら歩いては休み、月明かりを頼りに歩いては、また休む。獣も巣に近づかなければむやみやたらとは襲ってこまい。ただ、夜の鳥に怯えるで、肩を抱いてやった。

 日が入り始めると、木の棒を振り回したり、栗をひらったりして、楽しそうに進む。ころころ変わる表情を見るのがなんだかおもしろかった。

 山水で顔を拭いて髪を濡らすと少し奇麗になった。

 あどけない顔の肌は本当は白く、濡れ羽色の目はキラキラと輝いていた。

 さてお次は・・・。

 自分だけ先に町へ降りて刀を売った。金も少しは要るし、小太刀で身は守れる。町の様子を一通り観察して、大丈夫そうだと判断し、林に隠した子供を迎えに行く。この夕方のうちに身支度を調え、明日からは昼に堂々と旅の格好をして町を歩きたい。

「そういえばお前のその金糸の帯は目立つ。脱ぐか、出来れば資金にしたいのだが。」

「いいぞ」

 あまりにも早い返答に拍子抜けする。潔すぎやしないだろうか?

「兄からもらった大事な者だろう?」

「今はおまえと居るほうが大事だ。そのためにその方が良いのだろう?」

「ああ。そうだ」

 兄を亡くしたばかりで辛くない訳がない。がんばっているんだな。あどけないが物わかりは良いし、ちゃんとしてやればもっと賢く正しく生きられるのではないか?

「良い子だ。」

 よしよしをすると突如、俺の胸襟を掴み、めいいっぱい踵を高くあげ突進するかのように、

「ちゅ」

 接吻をしてきた!

「なっ!!なにを!!」

「好きだ。」

 俺を見てにっこりと笑う。とてつもなく懐いているのはわかったが

「だからといってこうゆうのはやめろ!」

「なんでだ?前にしてくれただろう?」

「あれは水を飲ますためだろう!愛情表現じゃない!」

「・・・違うのか・・・・」

 顔が曇っていくが、俺は間違ったことは云っていない。

「まったくお前は、」

 云いかけたところで、町の通りの声がざわめいた。

「いたか?」「いや・・・こっちじゃねえ」「くそ、どこにいやがる」と、役人がうろついている。

 町での事件は多い。役人が探しているのが自分たちのことかそうでないかはわからんが、注意をして大通り沿いから離れる。民家の垣根をくぐり、少し治安の悪い通りをまたぎ、住宅地を抜ける。こういう場所に住んでる者は夜はこぞって飲みに出る。留守が多い路地の間で身を潜める。

「買い物や質屋は明日になるな。」

 仕事から帰ってきたり、夜から外出したりする家を観察しながら、数刻ごとに居場所を移していき、明かりがともっていないぼろ長屋の裏側で腰を下ろす。

「ふう・・・。今日はここで休もう。」

 山を歩いていたときよりも神経をすり減らす。

「心臓が鳴っているぞ?」

 当たり前のように座った自分の懐に入り込み、胸にもたれかかる。

「誰の所為だと・・・」

 ああ、腕の中でしゅんと鬱ぎ込んでしまった。こいつの所為にしすぎるのはそろそろ止めねばならんな。戸惑いながらも動いているのは自分なのだから。

「よしよし」

 ずいぶん髪に指が通るようになったなぁ。不安そうに見上げてくる目が少し揺れている。

うすうす思っていたが奇麗な顔立ちだ。柔らかな頬に、奇麗な赤い唇。額を摩り前髪を上げると可愛い顔がよくわかる。見ていたらぼうっとして、夢心地にいるようだ。俺に触られるのを気持ちよさそうに感じながらも、少し不安そうだ。

 ああ、もう顔を曇らせるな。笑って呉れ・・・

 ちゅ

「今のはなんでしたんだ?」

「え?」

 あ!俺はなんてことを!こいつは小僧なのに!逃亡中で可笑しくなってしまったのか!なんと!奇麗な顔立ちに欲情してしまっていた。

 これだけ密着しているのだ、反応がわかったのかすりすりと俺のものを触る。

「こら!触るな!いや、し、しかたないだろう。生理現象だ。お前もあるだろう。」

「いや、ない」

 ああ、まだ子供だからか。にしても発育が遅いな。飯が足らんのか・・・。

「ってだから触るな!」

「でもこうすると気持ちいいのだろう?兄もよくやっていた。」

 いやそうだけども、

「やめろ我慢できなくなる。」

「我慢なんてしなければいい。おれは我慢はもういやだ」

「そういうわけにはいかないんだよ男は。」

「そうなのか?」

「そうなんだ。お前もそのうちわかる日が来るよ」

「いやそれはない。おれにはこの棒がないからな。」

「は?」

「ん?」

 俺は酷い思い違いをしていたのか。俺が悪いのかこいつが悪いのか!?

「なぜそんな格好をしている!?」

「だから兄がくれたといってるだろう」

 いや、そう、ずっとそう云っていたが

「というか手を離せ」

「ああ、ちいさくなってしまったからな」

「やかましい」

「なにを怒っている。」

 いや・・・冷静になれ。ちょっとまてこれはどうゆうことなんだ。俺の慌てている気持ちなんか爪の先ほどもわかってないのだろう。こいつは淡々と話し始めた。

「おれが下手だったから怒っているのか?兄は上手だった。男が気持ちよくなれば食べ物や服をくれる。それをおれにも呉れて」

「・・・ああ」

「でも兄はそれをおれにはさせてくれなくて」

 高い声、小さな体。そうか、そうだったんな。

「・・・」

「でも・・・」

 俺が沈黙しているから心配なのか、思い出したくないのか、唇を結んで話そうとしない。

「続きを聞かせて呉れ」

 こいつの経緯を聞くべきだと思った。きっと哀しい事由だろうとも。

「・・・兄の相手の一人がおれに・・・。女だとわかったらどこかに連れて行かれて、奇麗な服を着せられて、髪と顔になんかされたんだ。」

「・・・・そうか。」

「それがいやで逃げだそうとしたら捕まって・・・」

 俺の服の袂を握りしめた手が、少し震えている。

「兄が助けてくれたけど、そのとき兄が・・・・。」

 それは想像することがあまりにもたやすい事由だった。

「兄が兄の服を着て逃げろって。そのときに、みんなを殺した紋様を見かけたから。」

 小さな手を握る。腕も細い。肩も、腰も。

「触っても良いか?」

「うん。・・・おまえなら」

 懐から手を入れ胸元を触る。骨が浮き出ていて細いが、わずかな膨らみがある。

 下を触ると、俺と同じものは確かにない。そのかわりに小さなくぼみがあるだけだ。

 女の子だったんだな。

「・・・っ」

「痛いか?」

「・・・前は・・・痛かった・・・。」

 懐から手を出し、服を整えてやる。そして強く抱く。

「我慢したんだな」

「ん・・・・。我慢した。・・・だからもういやなんだ。我慢も、痛いのも・・・」

「ああ・・・・わかった。」

 精一杯の力で抱きしめた。そうしてやりたかった。こみ上げる気持ちを感じながら、背中を摩ってやった。

「明日、櫛を買おうな」

 また泣き疲れて寝てしまった顔にそっと呟いた。

 ああ、なんとも摩訶不思議だな。

 どうやら俺の頭より、俺の体や皮膚の方がもうずっと、最初から、こうなることを知っていたんだろう。

 巫女様はこうなることを知っていたのだろうか。

 そうなのかもしれないと、少し思った。


 翌朝、金糸の帯を質に出した。

「本当に良かったのか?」

「ああ!」

 けっこうな金になり、十分な支度を調える事が出来た。

「よし!じゃあ今日はいっぱい遊ぶか」

「遊ぶ!??遊ぶは好きだ!楽しい」

「ああ。ちょうど秋祭りだ。屋台で飯食って、宿を取ろう!やわらかい布団で寝るぞ!贅の尽くす限りだ!」

「いいのか?」

「お前が言ったんだろ?我慢するなって。俺はもう我慢しない。」

 ずいぶんすがしい気分だ。とうとうやけっぱちになったのか、これぞ頭が狂ってしまったといえよう。こんなのはいつぶりだろう。やけににやけてしまう。

「まさかお役人どもも追われている人間が祭りに着てるとは思うまい!ははは!」

「そうなのか!ふふふ!おまえがちゃんと笑ってるの始めた見たぞ」

「ああ、そうかもな」

 どこからどうみても町娘に仕立てた。俺の手を引き、楽しそうに屋台を回る。砂糖菓子と蕎麦をたべて、金魚をすくい、川縁を歩いた。祭り囃子に酔いしれながら、一口だけ酒をのみ、陽気に町を練り歩く。

「笑っているおまえが好きだ!」

 この子はまた度直球に。

「照れているのか?」

「ああ。さすがに、恥ずかしいな。」

「好きなら好き。嫌いなら嫌いと言うのがなぜいけないんだ」

 まったくその通りだな。それが赦される世界なら。

「俺も云ってやりたかったよ」

 押し殺した自分の本音を。町に出て云えずに押し殺した心を。


 ああ、お嬢様。あなたは本当は俺のことを好きではなかったですよね。その紅を引いた口から紡がれる言葉は偽物だった。俺はずっとそれを知ってた。

 でも俺は結構あなたのこと好きだった。あなたと一緒に共に過ごす将来も考えるほどに。将来性があろうと無かろうと、本当の俺を好いて欲しかった。せめて終わるならけじめをつけて欲しかった。


 俺は間違っていない。地位があるからといって他人を勝手にして良いわけがない。同僚や部下に暴言を吐いたって良い事は無い。人はとても尊いものだ。どんな人にでも優しく敬意を払うべきだ!なぜそれができないんだ!


 隣の住人の男!そんなに悲しい寂しいと喚くなら、隣の家の俺が話を聞いてやろうか。俺だって寂しい!俺だってわびしい!お前の気持ちをわかってやりたい俺の気持ちもわかってほしい!その気持ちを抱えて何かを成そう!前向きに生きられるようにどちらかがなればどちらかが引っ張ってやれるんじゃないか!


 隣の女!男とっかえひっかえしてお前は何がしたいんだ!お前も何かを探しているのか?お前の欲しいものは何なんだ。逝くふりをして演技が下手だぞ。そんなに自分を安く見積もるなもっといい男と一緒になれ!


与一お前はなぁ、こんな俺を信じすぎだ。褒めすぎだ!だが仕事はちゃんとしろ手を抜くな。毎日の積み重ねが大事だぞ。こんな俺についてきてくれてありがとうな。感謝してる。


「もっと云えば良かった。」

「今から言えばいいじゃないか。たくさん思ってること」

「ああ。お前の云う通りだ」


 おい!俺!

 素直になれよ!いつまで傷ついているつもりだ。いつまでも過ちに立ち竦むつもりだ。そんなに清廉潔白で居たかったのか!人によく思わたくて、人からの評価に一喜一憂して。お前の心はどうなんだ!この心の中には、欲望も葛藤も寂しさもある。だがそれをどう使うか、どう扱うかは俺が決められる!自分の感情からもう、逃げるな!!


「あかり。」

 俺はそう呼んだ。

「あかり?」

 不思議そうに見上げる瞳は、まっすぐに俺を映していた。

「ああ。お前はあかりだ。」

 この祭り囃子の中心がこの世で一番輝いている場所のように感じる。

「このたくさんの提灯の、あかりのようだ。でも俺にはお前が一等明るく見える。」

 この子の周りが俺の世界の中心だ。

「もうお前が何者だったっていい。男でも女でもなんだっていい。お前のおかげで俺の心に暖かい熱と光が灯った。いま生きているのを感じる。楽しさに心が躍り、鼓動が脈打ち、体が反応しているのがわかる。侘しかった気持ちも、寂しかった気持ちも、今はないんだ。」

「そうか」

 俺が笑っているからだろうか、あかりも微笑んでいる。提灯の光に照らされて、濡れ羽色の目と髪が艶やかに煌めいている。相変わらず鬼の炎は輝いて目を奪う。どうして逸らすことが出来ようか、そのあかりから。

「聞いてくれ」

 手を伸ばし引き寄せる。

「お前が好きだ!お前が可愛くて仕方がない。いとおしい。ずっとくっついていたい。ずっと一緒にいよう!何度でも云う!お前が好きだ!かわいい!俺の腕の中にいてくれ!!」

 腕の中に強く抱く。聞こえているだろうか、鼓動脈打つ命の声。恥ずかしくて、僅かに怖くて、だが高揚している。

「おまえからは草の良いにおいがする。草の野原のようだ。」

 あかりは俺を見上げて、にっこり微笑む。

「草と呼んでいいか?」

 いきなり何を言い出すかとびっくりした。

「くさは、ちょっと・・・ないだろう」

「じゃあ、草のことを他に何という?」

「草・・・野原・・・。草原かな」

「ではソウだ!」

「あはは!それならかまわないよ。」

 お互い名付け合うとは、なんとも奇妙な縁だ。

「おまえはおれをもっと呼んで呉れ」

 底抜けに明るい顔で笑うあかり。鬼歯と白い歯がとてもかわいらしい。

「ああ。あかり。たくさん呼ぼう」

「うれしい」

 背伸びをして俺の口元に近づいてくる。ああ気持ちの良い接吻だ。溶けてしまいそう。

「もう我慢できない。あかり。気持ちいいことしよう。」

「ああ。おれにまかせてくれ!」

「お前も気持ちよくなるんだ。一緒に。」

「おれはソウといると気持ちがいい。あたたかい。うれしい。」

「いいや、もっとだ」

「もっと?」

 澄ましていない、ころころと変わる表情がとても愛おしい。

「おいで。あかり。一緒にもっときもちよくなろう。」

 そう、今日は贅の尽くす限り。一生分の幸せを感じよう。


 ああ、かわいい。愛しい。あかり。俺の、あかり。

 体が熱い、おかしくなりそう、とあかりは云う。

 俺もだ。もうおかしくなってしまった。元には戻れない。

 ほら、見ろあかり。ひとつにくっついているだろう?

 もう元には戻れはしないのだ。何もかもを知らない頃には。


 生まれ変わった気分だ。人は生きながらも生まれ変われるのだな。

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