ラッキーじいさん、偉業を成し遂げちゃう
開いて頂きありがとうございます!
(ドキドキ、ドキドキ)
わしの名前は佐久間善太郎。白寿を何の障害も病気にもかからず迎え、今年で百歳になった男じゃ。
もう人生は十分じゃ。二人の娘と二人の息子ができ、年末ジャンボを二回あて、美人なわしの妻を三年前に天国におくり、七人の孫と四人のひ孫にも恵まれた。
この故ない幸せじゃ。ラッキーじゃった。
もう未練なんぞ言うものはない。このまま安らかに眠って、愛する妻の元へ……
「あれ、ひいおじいちゃん幸せそうにねむってる。」
「あら、ホントだわ。」
“ありがとう。さようなら”
「……おじいちゃんは、天国に行ったのね。」
「てんごく?なーにそれ?」
「お空にある所。あそこにはひいおばあちゃんもいるのよ。」
「へー!よかったぁ、ひいおじいちゃんひいおばあちゃんに会えて!」
「そうね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
…………ここはどこじゃ。
紫色の空が見えるぞ。
わしは……なぜ寝転がってるのじゃ。
おいしょっと。
何とも不気味じゃのぉ……
ここは深い森の中かね。ここだけ広場みたいに広くて丸い空き地になっとる。
地面は草は生えておらず、手で触ると乾いた土のサラサラした感触がする。
天国はこんな所なのか?
とりあえず、早く明子(妻)に会いに…!
む。
むむ。
むむむむ?!
なんじゃこの体はぁ??!!
そういえばなんか身軽だけど生々しい感覚がしてると思ったら、
これはわしが二十歳のころの体ではないか!?
いやー、あの頃はすごかったのぉ~、
戦争の真っ只中、わしは妹二人をかついで走り回ってたなぁ。
妹二人は無事に疎開して元気だし、わしも戦場に行ったが特に後遺症も無く帰る事が出来て、本当にラッキーじゃったのぉ。
ところで、なぜわしはこんな姿になっとるんじゃ?
それより、この姿でこの口調もなんか変じゃのぉ…もっと若者らしくしよう。
えっへん。
なぜ俺はこんな所に。明子はどこなんだ。
それにしても誰もいないなぁ…はやくこの森を抜け出さないとな。
あそこに狭い一本道があるから、そこを道なりに通っていこう。
“あなたには、もっと生きてもらわなくては。”
ん?なんか聞こえた気がするが……空耳か。
お。
町が見えるぞ。
行ってみよう。
ん?なんかこの町、前に見たことあるような、ないような……
そうだ、戦争の頃だよ!
みんなボロボロの服を着ていて、家が燃えていて…
ん。
ちょっと待てよ。
俺は死んで天国に来たはず。なのに家が燃えていてみんな貧乏な格好していて、ておかしいだろ!絶対天国じゃないだろ!
じゃここどこなんだよ!
地獄にしては現実的過ぎる……もしかして、
俺、まだ生きてる?
嘘だぁー。嘘だろぉー。うわぁー。
いやいやいや。
なんで二十歳の姿で生きてるんだって。
てか本当に俺の体なのか?
俺は誰なんだぁーー!!!
〈ムウォン〉
お、これは……!?
______________
名前:不明
種族:人間
性別:男性
職業:不明
年齢:20
レベル:18/?(職業不明のため)
体力:15000/15000
魔力:300
攻撃力:0
防御力:100000000/100000000
魔法:防御魔法(メガバリア、ハイパーシールド、エレクトロバウンスバック)
家系能力:なし
スキル:不明
______________
え?何!?急に何!?
名前不明とか、俺は佐久間善太郎だろ!
魔力? 魔法? 何のことだかさっぱりだよ!
エレクトロバウンスバックとか凄そうだけど何だよ!
てかなんで防御力はべらぼうに強いんだよっ。
その瞬間、俺はあることを思い出した。
ひ孫の心は異世界モノ?というのが好きらしく、マンガや小説をよく読んでいた。
俺は気になったので心から一冊借りてみることに。
実際読んでみると訳のわからない呪文みたいなのとかイカツイ格好をした少女や少年のイラストとかがあったりして、相当なファンタジー作品だということが分かった。今まさしく、俺はその世界に入っているのだ。
それにしても、こんなものをあのこが読んでいるだなんて、ビックリだね。
ていうか、これ今どういう状況なの。あ、あそこにいる中年のひげもじゃ男に聞いてみよー。
「あのー、すみませーん、今ここどうなってるんですかー」
「は、お前頭いかれてんのか?!見れば分かるだろ!!」
そう言って男が指した方向に目を向けてみると。
わお、なんかでけードラゴン的なのがいる。火めっちゃ吐いてるし。ゴジラみたいに踏み潰しまくってるし。どおりでこんな物騒な感じになったわけだね。
「あのドラゴンがどうかしたんですか?」
「お前、何を根拠に聞いてるんだよ!あれは、最恐竜!100年位前からこの世界を荒らしているヤバい奴なんだよ!で、あいつがとうとう人間の町にも侵入してきやがって、もう終わりだぁぁぁぁぁぁ」
男はそう言ってどこかへ逃げ出してしまった。
げー、そりゃ大変だなぁ。ぎゃ、燃える木が飛んでくるっ!
まずいまずい、周りは燃える家で隠れるところもねーっ!
うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!
《ギュオン》
………………………………
ん。
あれ、俺、無傷?!
気付くと俺の周りには何か網目状のものが張り巡らされていた。
あ、もしかして、これが“メガバリア”ってやつか。
よし、今のうちに安全な所へ……
家が崩れてるなぁ、どこもかしこも燃えてる。はやく逃げなきゃだね。
ここの角を右に曲がって……
あれ、ここ行き止まり?
いや、違うぞ。これは、
ドラゴンの足だぁぁぁーーーー!!!!!
ギャァァァァァ!!気付かれてる!超デカイ火の玉俺にぶつけようとしてる!!
俺今度こそ終わりだよ!100年間どうすることもできねードラゴン俺倒せるわけないし!そういえばステータス皆無だったっけ!!
わぁ来るよ、まじで来るよ。さようなら!このせかいのおれ!
その瞬間、ドラゴンの横から、大きな岩石が飛んできた。
佐久間はとっさに、バウンスバックの訳を思い出した。
バウンスバックの訳は、“跳ね返す”
佐久間は、エレクトロバウンスバックを発動した。
岩石は跳ね返り、ドラゴンの喉の奥にはまった。
それと同時に、大きな火の玉をドラゴンは吐こうとする。
ドラゴンは大きな音と光を放って、燃えた。
……はぁ、はぁ、あれ、俺、まだ生きてる?
すると隣にはさっきのひげもじゃ男が。
俺はそいつに片手を掴まれ上に上げられた。
「この青年がーー!!さいきょーりゅーをぉーー!!倒したぞぉーーー!!!」
《《ウォォォォォォォォ!!!!》》
町の人たちが歓声をあげていた。
てか、いつの間にこんなに人が集まってる。すげ。
て、俺、ドラゴン倒しちゃったの?
「あのー、俺がー、ドラゴンを倒したんですか?」
「そうだよ、お前がやり遂げたんだよ!すげーな!!」
町の人たちもいろいろ喋っていた。
ドラゴンを倒すなんて、素敵だわ!
あいつ、相当やべーよ…
倒したってことは、ドラゴンより強いの?!
あのドラゴンって、世界で一番恐ろしい存在なんでしょ?
あのお兄さんだれー?
バブ、バブー
俺、どうやって倒したんだ?確か、岩石が来るから跳ね返そうとして、それがドラゴンの口の中に入ってって?どカーンってなった?ていうか防御力一億って書いてあったの忘れてた。良かった、ドラゴンどカーンなってるんだったら普通衝撃波で死んでるはずなのに。ハイパーシールドのおかげだね。
それにしても、ラッキー
この世界でも俺の強運は衰えてないみたいだな。
突然、空にワープホールみたいなのが開いたかと思うと、中から10人ぐらいの人っぽいのがちっちゃい雲みたいな乗り物にのってやって来た。
町の人たちは後ずさりしている。
誰なんだろ。見た目はわるそーな感じだね。
代表の一人が俺に近づいてきた。
ひげもじゃ男も逃げ出した。
「あなたが、最恐竜を倒したお方ですか?」
「ああ、そう、かな、うん、そうです」
「いやー、先程の勝利は見事なものでした!あの竜はこの世界を荒らし続けていたひどい生き物で、魔界にできた時空の裂け目からこの世界に侵入してきたみたいなんです。裂け目は今は修復しておりますが、魔界はかなりのダメージを受けまして、魔力がほとんどないこの人間界にも侵入してしまったら、本当にこの世界は崩壊すると思っていました。
しかし、偶然にも竜よりお強いあなたのご健闘により、竜の存在は無くなりました。誠に感謝しております!私たちはこれから先、平和に暮らせることでしょう!」
代表の仲間たちが歓声をあげた。
「まあ、それは、ほんとによかったです。」
「はい、とても! ちなみに、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
名前!そうだ、俺の名前決まってないじゃん。どうしよ、佐久間善太郎は少しカッコ悪い気がするしなぁー、うーん…… あっ!
「俺の名前はマーク・ゼンだ。」
どうだ! さくまぜんたろう から抜き出して順番変えてみた。いいよねこれ!
「なるほど、マーク様、ですね! では、ここからが本題なのですが…」
「何でしょう」
「私たちの住む魔界の最高位であり支配者、“魔王”になって頂けませんか?」
……
えぇ~~~~~~~~~~~!!!???
ま、魔王ってさ、悪者の中の悪者で、ゲームで言うとこのラスボスってやつじゃないの? 俺がそんなのになっていいのか?! それに、魔王に人間がなるイメージないんだけど……
ていうか、町の人たちが遠くから俺たちの様子を伺ってるんだけど。
「あのぉ~、おれー、人間なんですけどー、」
「魔王は人間でもなれますよ!基本的には魔王は悪魔の方たちから選ぶのですが、竜を倒したマーク様なら、なっても良いかと、いや、なるべきだと!」
「えー、うーん、あの、魔王って悪者なんですよね?」
「悪者とはひどい! 人間界を征服する第一人者、邪魔な者は潰していく。魔界のヒーローです!」
その瞬間町の人たちの顔が真っ青になった。
あ、そうか。ここは人間界。じゃ、魔王になったら、人間界潰さないといけないの?やだよ!俺人間だし!むりむり!
「えー、どうしよぉー」
「そんなに焦らなくて結構ですよ。なら、城の中でお食事でもいかがですか?」
え?!ご飯!? 実は俺すげー腹減ってるんだよな! 行きたい!
「はい!します!」
「では、ご案内しましょう。私たちの住む、魔界に。」
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