1話 旅立ち
「エリック、山いこーぜ!」
村の外れの大きな屋敷に着き、叫ぶ。
この屋敷の自称「自宅警備員」ことエリックは俺の親友で幼なじみだ。
ツヤッツヤのロングヘアーに無駄に整った容姿の美少年だが、引きこもり生活がせっかくのイケメンを台無しにしている。
「ちょっと待って今いいとこだから」
エリックはただの引きこもりでは無い。優秀な引きこもりだ。
彼のスキル「生成」は原料さえあれば瞬時に物体を作り出すことの出来る便利なスキルで、彼は日々ヤバい薬を作っている。
恐らく、今日も危ない薬を作る実験をしているのだろう。
昨日は傷を癒す薬だったから、今日は爆薬といったところだろうか。
「できたよー」
嬉しそうに屋敷から出てきた彼の手には、怪しすぎる液体の入った容器があった。
「丁度いいところに来てくれたね。ちょっと試すから、いつものお願いできる?」
試す、というのはつまりそういうことだ。
どう考えても危険すぎる、と普通なら断るのだが...こいつは見た目だけはかなりのイケメンなのだ。
こんなイケメン頼まれては断れないではないか...と、しぶしぶ承諾した。
「変身」
そう呟くと、俺は壁になった。俺のスキル「変身」はイメージしたものに変身することができ、無生物に変身すれば痛みも感じなくなる。
とはいえ、変身中は動くことができない、変身の前後で質量は変わらない、といった制限もあり、万能では無い。
「じゃあいくよ〜」
ドゴォン!!!
薬が俺の体に当たると、凄まじい爆発音がして、俺の体が吹っ飛んだ。
痛みは感じないが、かなりの威力があることはわかる。
これだけの威力があればイノシシも倒せるかもしれない。
「今回のはどうかな〜?」
「結構な威力だったぜ、これならイノシシも倒せるんじゃないか?」
「それじゃ、山いこっか」
2人で爆薬をリュックに詰めると、山へ向かった。運ぶ途中で爆発しないか心配だ。
エリックによると、この薬は空気に触れて酸化しなければ爆発しない仕組みだから、容器に蓋をして密閉しておけば大丈夫とのことだが、難しいことはよくわからない。
「今日こそイノシシを倒そうね!」
「そうだな、こんな村とはさっさとお別れしようぜ」
俺たちの住むこのカシモリ村は、周囲を山と川に囲まれており、外から人が来ることはめったにない。
よく言えば平和だが、悪く言えば退屈な村なのだ。
この村を出たければ、すぐ近くの「スイドウ山」に生息するイノシシを倒し、一人前と認められなければならない。
そこでエリックと二人で毎日山に通い、修行しているのだ。
「村から出るのはいいけど、そのあとどうするの?」
「そりゃあ、なんかでっかいことだよ!」
そう、俺は何かでっかいことがしたい。
魔王を倒した英雄、タワダのように。
そのためには、こんな退屈な村からさっさとでなければならないのだ。
「でっかいことって...そんな曖昧で大丈夫かなぁ」
「そんなことは村から出たあとで決めればいいんだよ。とにかく、この村で一生を終えるなんて俺はやだね」
そんなたわいもない話をしながら歩いていると、いつの間にか山についていた。