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転生魔王は妹バカ  作者: みなみ
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004:妹と勉強 ☆

 日向と共に我が家へと帰って来た俺は、早速勉強を見てやろうと思ったのだが……。


「ごめんお兄ちゃん! 先に晩御飯の準備だけさせて!」


 ふむ……日向が晩御飯を作ってくれないと、俺たちは飢えに苦しむことに……なるわけではないが、俺が作る羽目になるだろうし、寝るまでにまだ時間はあるのだからそんなに慌てなくても問題ないか。

 日向の提案を快く承諾した俺は、日向の授業の進み具合からして小テストの問題として出されるであろう範囲を予め予習していく。

 日々使い魔を通じて日向の事を見守っているおかげで、今日向のクラスの授業がどこまで進んでいるかなど、俺にとっては手に取るようにわかるのだ。


「お兄ちゃん、晩御飯できたよ! 今日はねぇ……オムライス!」


 意気揚々と日向がテーブルの上に置いたオムライスには、何やら可愛いんだかそうじゃないんだか、判断に困る犬の様なイラストが、ケチャップで描かれていた。

 日向はこういうの得意だよな……生憎俺には魔王時代からこういった芸術的センスは持ち合わせておらず、よくヨルムからも「魔王様は本当にセンスがありませんね……」と微妙な顔をされながら言われた物だよなぁ……。

 そう言った事情があって、魔物たちの装備品のデザインや、魔王城の内装などには一切関わらせてもらえなかったな……魔王の俺にだって苦手なことくらいはあるのだ。


「今日のオムライスも美味そうだな……それじゃあいただきます」

「いただきまーす!」


 その後は適当な日常会話をしつつ、晩御飯を日向と共に食べ終え、食後の一休みとしてロビーで二人してテレビのクイズ番組を見る。


「えー! 今の問題の答え絶対Aだって!」

「いや、間違いなくCだろ?」


 俺たちの会話をまるで聴いてたかのようなタイミングで、クイズ番組の司会者の口から問題の答えがCであると挑戦者たちに伝えられた。

 その結果を見て、日向が悔しそうに唇を尖らせる。悔しそうな顔も可愛いぞ日向よ。


挿絵(By みてみん)


「ほらな?」

「えー……絶対にAだと思ったのに」

「今のは割と有名な問題だったろ? ていうか日向、いつになったら勉強始めるんだ?」

「……」


 俺がそう言うと、日向は口を閉ざして俺からさっと目を逸らしてしまった。

 いつまでたっても日向が勉強を始める気配がないから、もしや忘れてしまったのではと不安に思っていたのだが、どうやら現実逃避をしていただけの様だ。

 そんなに勉強というのは嫌な物なのだろうか? 俺なんてこの世界に転生して様々なことを勉強し吸収していくことが楽しくて仕方ないというのに。

 とはいえ俺も最初からそうだったわけではなく、日々の勉学により積み重ねた知識たちが、回りまわって日向の為になるのではないかという境地に至ったからだ。

 なにせこの世は、日向を中心に回っているのだから当然のことだ。


「お兄ちゃん……今日はもうやる気がなくなっちゃったし、また明日にしない? 一緒にゲームしようよ?」

「そう言って明日も逃げる気なんだろ? ほらほら、さっさと勉強道具を持ってこい」


 「ちゃんと見てやるから」と付け加えると、やや渋い顔をした後、ようやく日向は重い腰を上げて勉強道具を取りに自分の部屋へと一旦戻っていった。

 やれやれ……日向は基本的にいい子なのだが、やや面倒くさがりなところがあるのが欠点だな。

 まあそこが日向のいいところでもある。……っていうか日向に欠点なんてないぞ? この世のありとあらゆる可愛い要素が合わさった存在が、日向なんだからな。


「……それじゃあお兄ちゃん、よろしくね」


 そんなことを考えていると、勉強道具一式を両手で胸に抱きながら自分の部屋から戻って来た日向が、すでになんか疲れた表情で椅子に座って、小さくため息を吐いた。

 ……そんなに勉強したくないのか……それじゃあ何で朝に勉強教えてくれだなんて言ってきたんだこの子は?

 このままではスムーズに勉強を教えられないな……ここは元魔王として、そして日向の頼れる兄として、妹のやる気を出させてやるしかないな。


「そんなに勉強するの嫌なのか?」

「えっと……よりにもよって小テストが、私の苦手な英語なんじゃないかって噂が流れてて……」


 ん、それは知らない情報だな?

 ……そういえば授業の後、輝樹のアホに無駄に絡まれた時があったが、もしやその時に日向がその話を耳にしたということか?

 なんたることだ! こういった事態を避けるために常日頃日向の動向には気を配っているというのに……! 明日輝樹のアホには何かしら罰を与えないといけないな。

 ……て、今はあいつの事よりも日向の事だな。


「そうだな……もしもその小テストで80点以上取れたら、日向に何か買ってあげるよ」

「本当に!?」


 日向がさっきまでの鬱々とした表情から打って変わって、瞳に光が宿ったような笑顔を俺に向けてきた。

 いい笑顔だ……恐らくこの笑顔を見た魔族は、浄化されて塵となって消えていくだろうな。俺? 俺は元魔王だからなんとか致命傷で済んでいるわけで、決して平気ではないのだ。

 実際俺の周りに何層にも渡って張られている魔力結界が、今この瞬間にも音を立てて崩れ、俺の魂に直接ダメージを与えてくるくらいだからな。


「でもあまり高い物は駄目だぞ? 俺だって無限に小遣いがあるわけじゃないからな?」

「そんな高い物は要求しないよぉ! よーしっ! やる気出てきたー!」


 単純な物で、ご褒美を目の前にちらつかせるだけで、日向があっという間にやる気を取り戻していた。

 魔王時代にやる気のない魔物たちを鼓舞するために、この手の手段を取ることは多かったのだが……いや日向をあんな醜悪な魔物どもと一緒くたにするのはさすがにダメだ。

 とはいえ単純でわかりやすいのも、勿論日向の大きな魅力の一つだが、ここまでわかりやすいと魔王の俺と言えどさすがに心配になるぞ?


「それじゃあ俺は日向の隣で自分の宿題片づけてるから、わからないことがあったら聞いてくれ」

「うん! よろしくね、お兄ちゃん!」


 かくして、ようやく日向の小テストに向けた勉強が始まった。

 横で自分の宿題を手早く片付けつつ、日向から飛んでくる質問に的確に答えていく。

 元魔王時代に、様々な種族の言語をマスターしていた俺からすれば、英語など二日でマスターできたからな……日向の前ではやらないがネイティブな英語を喋ることだって、俺からすれば造作もないことなのだ。


「あーこれってそういう文法だったんだね……わかりにくいなぁ……だから英語って苦手だよぉ」

「こういうのは覚え方にコツがあるんだ。例えばこの文法だとな……」


 今までの様子からすると、勉強が苦手と思われるかもしれないが、別に日向は勉強が苦手というわけではないし、どちらかというと割と学年内では上位をキープしている。

 苦手と言ってはいるが、英語も平均点くらいは取れるらしく本来なら別に勉強などしなくても問題はないはずなのだ。


「別に日向の成績なら、苦手な英語でも、わざわざ俺が教えなくても、そこそこ点が取れるんじゃないのか?」

「それはそうなんだけどね……」


 俺が思った疑問をそのまま口にすると、日向がなんだか少し複雑な表情をしながら、ノートの視線を落としていく。


「最近お父さんずっと家に帰ってこないじゃない? お兄ちゃんも自分の勉強とか生徒会の資料の作成とかしてたりで、忙しそうだったよね?」

「……まあそうだな」


 それらは本来なら俺が本気になれば10分ほどで終わらせられることなのだが、日向にとって自慢できる兄であるように見せるための……いわゆるロールプレイと言う奴だ。簡単に言えば「お前の兄はいつもこんなに頑張ってるんだぞ?」という感じのな。


「それで最近少しだけ、会話が減ってた気がしちゃって……えへへ、ごめんね?」


 まるでハンマーで頭を直接殴られたかのような衝撃だった。

 まさか俺の良き兄であろうとする日々の努力のせいで、日向に寂しい思いをさせていたとは……一生の不覚!!

 

「日向……そういう時は素直に最初からそう言ってくれていいんだぞ?」

「えー? だってなんか恥ずかしいじゃんこういうのって」


 そう言って日向が顔を赤らめながら、ばつが悪そうに笑った。

 気持ちはわからなくもないが……しかし日向のそんな思いをさせていた俺は兄失格だな。

 ロールプレイも重要だが、今度はもう少しバランスを考えて程々にしないとダメだ……今回はそのことが身に染みてよくわかった。

 自分の体裁を取り繕うあまり、日向に寂しい思いをさせていたのでは本末転倒なのだ。


「えっと……この話もうおしまい! それよりお兄ちゃん、この英文なんて訳するのか教えてよ」

「どれどれ?」


 少し湿っぽくなった空気を取り繕うように、日向が英語の教科書を開いて俺に見せてくる。

 俺もこの空気のまま日向に勉強を教えていくのは少しばかり抵抗があるからな……ここは素直に乗ってやるか。


「なんだ、こんなの簡単だぞ? えっとだな……”妹は嘘ばかりついていつも兄の反応を見て楽しんでいる”……げふっ!?」

「おっお兄ちゃん!? どうしたの急に机に倒れこんで!?」

「ひっ……日向……お前ここまで少しいい話風に引っ張ってきておいて、こんなことを考えていたのか……?」


 息も絶え絶えに、俺がそう問いかけると、ようやく日向は自分がどんな英文を訳させてしまったのかを理解したらしく、今の俺以上に真っ青な顔になっていった。


「ちっちがっ!? 今のは偶然! まったくの偶然だよ!! お兄ちゃんに嘘ついて反応を楽しむなんてそんなこと絶対にしないよ!?」

「そっ……そうだよな? 日向に限ってそんなことはないよな……?」


 ははは、何をうろたえているんだ俺は……日向がそんなことを考えているわけないじゃないか! そんなことはちょっと考えればすぐにわかることだろう!?

 しかし危うく昇天しかけたな……だが腐っても俺は元魔王の端くれだ……こんなことくらいで……!


「当たり前だよ! 私お兄ちゃんのこと大好きなんだから!!」

「ぐふうぅ!?」

「お兄ちゃん!!??」


 今度ばかりは駄目だった。

 まさか最初の一撃で弱らせたところに、本命の一撃が飛んでくるとは……勇者でもここまでの見事な連携攻撃はしてこなかったというのに……!

 日向の言う大好きというのが、勿論「家族として大好き」というだと重々理解しているが、こうして直接聞くとここまで俺に大打撃を与えてくる物だとは……。

 そして俺も日向に対して邪な思いは一切持ってないが……いやはやこれは……恐るべし、妹の口から発せられる「大好き」。


「お兄ちゃん大丈夫!? お兄ちゃんってばー!!」


 薄れゆく意識の向こう側から聞こえる、日向の切羽詰まったような声を聴きながら俺は思い知る。

 この世で一番強いのは、勇者やその聖剣と呼ばれた武器ではなく、妹とその妹から発せられる何気ない愛のこもった言葉なのだと……。



 余談だが、日向はちゃんと英語の小テストを無事に82点で通過した。

 うむ、さすが俺の妹だな。

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