2 女装アイドルは相談する
ご相談
「あの・・・叔母さん」
「あ?んだよ。あと会社では社長と呼べ」
仕事のついでに事務所に来てから僕は今の保護者であり、芸能事務所の社長である神崎真弓さんに会いに来ていた。
「少しご相談がありまして・・・」
「んだよ、あんまり暇じゃないから手短に言えよな」
口調は荒いけど優しい叔母さんに僕は少しだけ考えてから聞いた。
「その・・・実は、彼女が出来ちゃたのですが、どうしたらいいですか?」
「あん?そんな下らないことを相談しに来たのか?」
「いや、だって一応これでもアイドルですしスキャンダル的なものになりかねないかと」
「アホか。だったら別れればいいだろ?」
正論なんだけど出来ないから相談してるのだ。
「実はその人、僕の正体を知ってるみたいで断れなくて」
「ほう?お前のファンか何かか?」
「らしいです」
「女のファンでそこまで熱狂的なのは一人しか知らないな。ほら、お前にいつもファンレター送ってくる常連いるだろ?握手会とかでも良く顔を見る伊達眼鏡かけたマスクの女」
「ああ、百合園さんですね」
下積み時代から熱心に応援してくれていた人だが、しかしあの人と顔がいまいち一致しないんだよね。しっくり来てない僕に叔母さんは笑ってから言った。
「お前、仕事中はあんまり人の顔見てないだろ?緊張するからって」
「でも、百合園さんとその人が同一人物なのか確信が持てなくて」
「別になんでもいいだろ。それよりこれからはより一層男装と女装を使い分けろ」
「いや、男装というか元々男ですから」
「んな細かいことはどうでもいいだろ。それよりその女と付き合うつもりならそれでも構わんが仕事に支障をきたすなよ」
思ったより普通の反応に少しだけ拍子抜けする。てっきりスキャンダルになるから別れろと言われると思っていたが、あっさりと認めたことに驚いていると叔母さんは言った。
「ま、お前ももう高校生。このままアイドルを続けるか一般人に戻るかの節目だからな。彼女作って得るものもあるだろうし構わんさ。いい機会だからマジな女から女子力でも教われよ。もっともお前は女子力の権化だから必要ないかもしれないけどな」
「女子力なんてないですよ」
「そうか?少なくとも家事が一応出来て、そこいらの女より気が利く上に可愛いんだから自信持て」
あんまり嬉しくない励ましだが、確かにこれまで異性との交流はファンイベントくらいでプライベートはまったくないので確かにいい経験にはなるかもしれないと思うのだった。