へっぽこ魔法使いの宿屋の娘の冒険記
別の作品の短編に誰かが評価してくださったのでテンションあがって新しく書いてしまいました。
少しずつ昔の感覚を取り戻そうと色々な作品を書いていますがうまく言っているのかは自分でもわかりません。
そも昔よく書いていた頃もそんなにうまく書けてなかったような。
1つだけ思い出したのは。恋愛物を書くのは布団に顔をうずめてじたばたしたくなるくらい恥ずかしいことは思い出しました。
「我は世界の理に従う。精霊よ我が声に導かれし者よ。我が望みを聞きたまえ。我が望みは我が世界を焼き尽くす原初の希望。答えたまえ」
杖を持った少女がいくつも言葉を足す。呪文は節が多ければ多いほど威力が上昇する。少女は5節。魔力を体に溜めるのに10秒。詠唱に10秒。そして魔力が杖に満ちるのに10秒。計30秒も呪文に時間をかけた。
「よーし反応あった。今日はそこそこいけそう!いっくよー【燃えろ】!」
少女は呪文を唱え終わると杖が光り輝きそして対象が燃えだした。
ぼっ
と言う軽い音と共に無作為に並べなれた薪に火がついた。
「おーおー助かったよお嬢。なんか知らないけど火が消えてな。ありがとな」
そういって髭面の大男がお礼を言った。男はそのまま風呂用の薪の火を消さないように竹の筒で息を吹きいれながら火を調整した。
「こっちこそいつも温かいお風呂ありがとうね。薪割りも遅いし木も沢山運べないからこれくらいしか手伝えなくてごめんね」
このくらいの魔法でも彼女の成功率はそんなに高くは無かった。自称8割現実5割というとこだ。紙を燃やすくらいなら確実に成功させられるかそれでも3節は唱えないと火力が足りなくなる。
少女の名前はアプリコット・ミストワール。この宿泊施設【ミストワールの黒猫亭】の1人娘である。
16歳の冒険に夢見る少女。他の人と違うところは少々魔法が使えるという所だ。本当に少々しか使えないが。
成功率を上げるための杖を用意し、成功率を上げるためのマントを羽織り、ようやく魔法が発動できる。ただし威力は貧弱でとても実戦に使えるレベルではない。
魔法を使える人間は100人に1人だが、彼女ほど魔法が下手糞な魔法使いはオンリーワンで逆に稀有だったりする。
なお彼女はあまり気にしてなかったりする。魔法が使えるだけ特じゃん。もうちょっと火が安定したら文句無いんだけどね。と
「お嬢。お嬢!」
風呂場にいて自分も入りたいなーとか思ってるときに自分を呼ぶ声が聞こえた。
「はいはい。お嬢ですよ。なんでござんすかい」
お嬢呼びを止めてと言っても誰も聞かないのでもう慣れてしまった。お父さんはオーナーなのになぜ私はお嬢なんだろうか。よよよ
「なんか大変な太客がこの町に来たって話題でさぁ。まだ宿決めてないんでウチに呼ぼうって話なんですが」
太客=大物が来たってことらしい。どういう意味だろうか
「お偉いさんかい?それとも大御所さんかい?」
「どっちかとお偉いさんらしいですがよくわかってないっす」
お偉いさんは宿に泊めたらハクが付く人
大御所はお金持ちで宿にリターンが多い人というちょっとした隠語である。
つまりこんな人がうちに泊まったぞーという自慢が出来るのである。
そう考えるとちょっとテンション上がってきた。こういうとこが自分は宿屋の娘なんだなーとアプリコットは思った。
「それで私は何したらいいの?」
アプリコットは尋ねた。確かに跡取りになる可能性は高いけど今のアプリコットはとっても凄い【便利屋さん】くらいの能力しかない。
とても太客を持て成すほどの能力も特技も無かった。
「へい。ちょっとその客ひっぱってきて欲しいんですが」
「んー他の人は?」
「あっしらが行ったらあかんでしょ」
「そういって目の前の男はハゲ頭をぺしんとたたいた。うちの宿は見た目がいかつい人間が非常に多い。
なぜかわからないが。そして見た目がいかつい人ほど優しくて弱いのがうちの宿である。
つまり意味も無く喧嘩に巻き込まれボコボコにされるのがうちの宿のイカツイーズの末路である。
「じゃあお母さんは?」
「奥様は今団体客のほうに行って手が離せないのです」
「じゃあお父さんは?」
「オーナーは太客呼びに行くのが怖いと部屋に引きこもりました」
「おーけーあのアホあとで反省文書かせて正座させるわ」
「お願いします。あっしらも準備だけはしときますので」
「まあ期待しないで待っててね」
そういってアプリコットは太客を探しに行く。まってろよー太い人ー。
アプリコットは町に出て探す。割とすぐに見つかるだろうとは思っている。
この町はそこまで広くなく普段は冒険者も少ない。つまり普通の田舎である。ただし宿泊施設は無意味に3つもあったりする。1個あれば十分だとアプリコット思うの。
町を歩き10分ほどするとざわざわとした声が聞こえた。この町唯一の閑古鳥の泣く冒険者ギルドのほうだった。
冒険者ギルドを見ると普段は周りに人がいないのに、今はちらほらと10人ばかりがギルドの周りでがやがやしてた。
ふと見ると一人見知った顔があった。
「野菜のおっちゃん。何かあったの?」
野菜のおっちゃんとはうちの宿に野菜を持ってきてくれる農家さんだった。野菜のツヤと瑞々しさが尋常でなく、本物の野菜作りの天才だと私は思ってる。二つ名はグリーンサムの巨人(銘々私)である
「おや宿の嬢ちゃん。なんかね。有名な冒険者が来てギルドに頼みごとにきたんだけどどうも交渉がうまくいかなくてなー」
「世界の為なんだ!頼む」
「だから人がいないんだよ」
中から叫び声が二つ聞こえた。これは介入して恩を売るチャンスだな。
「じゃあ私ちょっと行ってくるね。おっちゃんまた野菜売るときね」
そういってアプリコットはグリーンサムの巨人(いい名前じゃね?)を置いてギルドに突っ込むことにした。
「ノックしてお邪魔しまーす!お困りごとはなんですかー」
アプリコットは中に突撃した。もちろんノックなどしていない。まあ一応冒険者だし問題ないだろう。
中に入ると女性二人男性二人がぽかーんとした顔でこちらを見ていた。お見合いだったかな。ちなみにこのギルドに応接間という場所はない。大部屋。キッチン。トイレ。以上である。
男性の1人は知っていた。ギルドの受付さんである。
知らないほうの男がこちらをちらっと見た後受付を見ていた。その顔は誰だという顔だった。女性二人はまだぽかーんとした顔をしていた。
これは自己紹介をしたほうがアドバンテージ取れるな。と思ったアプリコットは落ち着く間も無く怒涛の攻めを続けた。
「私の名前はアプリコット・ミストワール!この町で最も冒険者に優しい(よてい)宿ミストワールの黒猫亭のマスコットガール(そんな事実はない)にて一応この町の冒険者ギルドのメンバー。職業は魔法使い!」
キリっとした顔でアプリコットは言い切った。4人みなまたぽかーんとしていた。おい受付お前は知ってるだろ。
「ごほん。それで何かお困りごとでしょうか。宿泊施設とか泊まるとことかお困りなら是非お任せ下さい」
アプリコットは精一杯の笑顔で彼らを見た。家も家なせいか笑顔だけは本当にうまいから困る。だが頭の中は銭のことでいっぱいである。
「ミストワールさんですね」
知らないほうの男が話しだした。お嬢とかチビ呼び以外は久しぶりでちょっとときめきそうになった。なっただけで実際ときめいてないんだからね。
「私の名前はキイチ・クロイ。魔王を倒す神託を受けた勇者です」
そういって私と同い年くらいに見える黒い髪の男は胸の中にあるペンダントをアプリコットに見せた。
それには王家の紋章である盾と剣が印されていてその中には見たことない綺麗な宝石が入っていた。
「あー黒い髪。あっちゃー気づかなかった」
黒い髪はこの世界にいなくて、勇者として神託を受けるか、または神様が召喚なさるかしかありえない。偽装の可能性もあったがペンダントでその可能性は無くなった。偽装も出来ないし王家を騙るものはこの世界にはいない。
バツの悪そうなアプリコットの顔を見て勇者キイチは尋ねた。
「やっぱり勇者が泊まると迷惑になるかな」
キイチは少し寂しそうな顔をしていた。勇者と言えば聞こえば良いが、つまりは王族による殺戮マシーンである。悪評も山ほどあったりする。魔族を倒すために村を犠牲にした。赤子を生贄に使った。村の女性を手篭めにして旦那を殺した等々である。
「いえ別に。もっと早く勇者って知っていたらそっちからおべっか使って泊まってもらおうかなって思っただけですよ」
アプリコットは軽い口調で話す。勇者の悪評は大体予想ついている。他国のプロパガンダだろう。神託を貰える王国は非常に強い権力をもっているため敵も多い。のだろう。いかんせん村を出ていないから想像でしかわからなかった。
「そっか。……あ、ミストワールさんじゃさっきの話はダメでしょうか?」
キイチは受付に尋ねた。
「ちょっと……等級が彼女だと足りなくて」
等級とは冒険者の実績や強さを表すランクで胴等級でランク1。最上の白金で等級5である。
「多少の等級なら低くても大丈夫。僕達で何とかするから」
「いえ彼女は……」
受付の人はとても答えにくそうにしていた。キイチも埒が明かないとアプリコットに直接尋ねた。
「ミストワールさん。君に仕事を頼みたいから等級を教えてくれないか?もちろん銅でも問題ない」
アプリコット・ミストワールは勢いよく答えた
「0.5カッコカリです」
「……はい?」
「0.5カッコカリです」
そう。等級は強さや実績である。魔法使いの場合は最初に魔法がどのくらい使えるかで等級が変わる。最初から2や3であることも珍しくない。
だがアプリコットは今までの実績では信じられないくらい魔法が弱かった。炎の初歩魔法はマッチに負け、風を起こせば蝋燭の火も消せず水を出せば指先から2,3滴落ちただけだった
「ちなみにカッコカリな理由はまだ正式に認められてなくて、今書類審査で確認が終わったら私のためだけに等級が生まれる予定です。0.5とか小銭等級とかになる予定です」
あ奥でプリーストっぽいかっこをした女の人が下を向いて笑いをこらえてる。正直鉄板ネタだから笑ってくれたほうが嬉しい。
「君は……とても苦労したんだね」
キイチはこっちをみてしみじみと言った。別に苦労してないけどそう思ってもらったほうが楽だし黙っていよう。でも1つだけわかった。この人いい人だ。
「というわけで申し訳ないですが冒険者としては私は文字通り半人前ですし魔法使いとしてはワーストワンなのであまりやくにはたてそうにないですね」
「……そうか。さすがに無理を言うわけにはいかないしこっちでなんとかしてみるよ」
キイチはそう言って悲しそうな顔をしていた。後ろの女性二人がこっちを見てくる。プリーストの女性は何か言えよ。という感じで。もう1人の魔法使いっぽい格好の女性は……こちらをにらんでいる。少々敵意を感じるのは気のせいだろうか」
「はぁ。しょうがないから一応聞いてあげるわ。もしかしたら私の知り合いで何か出来る人がいるかもしれないし」
そう言うとキイチの顔がぱぁっと輝いた。子犬か。
話しを要約するとこうだった。
この村のそばにある森の奥にあるものを取ってくるよう信託があった。
最初に森に入ろうとしたら迷いそうになったため止めて現地の案内を雇おうと思った。
低級とは言え魔物の住処がある可能性が高いため冒険者でないと行けない。
冒険者がいないから困っている。
「んー。案内があれば大丈夫なの?」
「それはもちろん。自慢じゃないが僕達の装備を貫く魔物はこの当たりにいないし一緒に冒険出来る人なら誰でも守りながら戦えるよ」
キイチは答えた。奥のプリーストは自慢げにしていた。私の勇者様はーというやつだろうか。
「じゃあ私が行ってあげるよう。感謝するように」
「ははーミストワール先生ありがとうございますー」
とキイチはふかぶかと大げさに頭を下げた。
「でも1個条件があるわよ。聞いてくれる?」
「なんだい?多少はかなえられると自負してるけど」
「この村にいる間はうちの宿に泊まってね」
こうしてアプリコットは最初の目的を達成した。
今日は遅いし明日朝から行くことに決定し、その際に情報の刷り合わせをするということでキイチが泊まる部屋に訪れた。既に勇者パーティー3人は揃っていた。
コンコンと軽いノックをした後返事を聞いて、
「お邪魔します。夜分遅くに失礼します。お約束の時間となったためお世話になりに来ました」
そういってアプリコットは静かに部屋に入場した。
「……まいったな。今日一番驚いた。まるで普通の女性のようだ」
「私のことをどう思っていたかよくわかりました。まあ私でも似合わないことくらい知ってるわよ」
アプリコットは膨れた。ただ似合って無くてもなんでも入場するときくらいは宿の人間としての礼儀を取らないといけないのである。
「さて夜更かしは美容の敵だし早めにお話終わろうか」
「その前にちゃんとした自己紹介をしようか」
キイチは話をさえぎった。
「チームワークに関わるし僕の仲間達のこともほとんど話せていない」
「まずは僕。キイチ・クロイ。ただの冒険者だったけど神託を受け取り勇者になった」
「神託ってどんなのなの?話せないなら話さなくてもいいけど」
アプリコットは尋ねた。ただの興味本位である。
「別に隠して無いし良いよ。『そなたか魔王を倒すべき、倒さないといけない、急いで倒す、と思ったときが魔王の倒し時だ。それまで力を蓄えて備えるがいい』だったよ」
「あら思ったより軽いしフランクなんだ神様って」
「そうだね。優しい声だったよ。ただ……なんて言えばいいかわからないけどちょっとニヤニヤした声にも聞こえたね。何かあるのかもしれないね。いたずらをしかける人みたいな感じだった」
「そんな神様だったら最高だね。世界がもっとハッピーになる」
そんなことを話していると後ろでプリーストが凄い顔をしていた。そりゃそうか。彼女にとっては唯一なる父唯一なる真の主だから軽い口調で話したらダメだよね。
「次は私が自己紹介をさせていただきます」
そういってプリーストっぽい女性がこちらを向いて話し出した。
「王立国教に所属してます。プリーストとなる際に私は過去も名前も捨てました。呼ぶときは洗礼名のアルと呼んで下さい」
「わかった。アルさん。よろしくお願いします」
礼儀正しくお辞儀をするアルに同じく礼儀正しくお辞儀をアプリコットは返した。姿勢のよさ。お辞儀の綺麗さで私が負けるわけにはいかないのだ。だって宿屋の1人娘なのだから。
「最後は私ね。魔術師の影使いよ。一身上の都合で名前を名乗れないのは許してね。そして勇者様の一番の相棒よ」
そういって彼女【影使い】は勇者に熱い視線を送っていた。恋する女性と言うよりは蛇のように感じるのは何故だろうか。
「あー山生まれの人ですか」
アプリコットはそんなことを言った。宿のお客さんの中にもいるがとある山の生まれは本名を隠して生きて、生涯を通じて自分にとって信用できるものにだけ本名を授けると。
「知ってるのね。あなた以外と博識なのね」
「えへん。知識の広さは任せてください。深さはとっても浅いですけどね」
アプリコットは自慢にならないことを自慢した。
「最後に私ですね。アプリコット・ミストワール。へっぽこ魔法使いで風呂のかまどに火を入れるのに1分近くかかる才能の持ち主です。宿関連ならそれなりに出来ますのでそちらのほうなら頼りにしてくださいね」
そういいながらぺこりとお辞儀をする。
「あと私のことはアプリコットと読んでください。短期間とは言え仲間になりますし、なによりここの宿にいると母と呼び方がかぶるので」
「了解。よろしくアプリコットさん」
そういって私はキイチと握手をする。
「あと話すことだけど、森の奥に行くなら最短でも3日くらいかかるから食料の準備とか忘れないようにね」
アプリコットが話すとキイチはげっとした顔をした。
「あーけっこう深いんだな。その日とまではいかなくても翌日くらいには帰れると思っていたんだが……」
「あー食料の準備とか大丈夫ですか?」
「んー宿屋のツテとかない?お金は多少大丈夫だけど」
アプリコットはニヤリとした顔をして
「そう言うと思って一週間分3人の食料をこちらに販売しております」
アプリコットは事前に準備をしていた。予想通りな展開で隠しもしない銭ゲバの顔に女性二人は引いていた。
「ほうほう。どのような内容かね?」
キイチは悪代官っぽい話し方をして尋ねてきた。彼と私は波長が合うようだ。とアプリコットは思った。
「まず低額コース!。干し肉。堅いパン。水。以上。しかも必要以上に入ってるので重いです」
「なるほど。次をもってまいれ」
キイチがノリよくこちらに合わせてくれていた。女性二人はついてこれてないようだ。残念。
「へいアニキ。次はほどほどコースです。さっきのシリーズに日持ちしそうな野菜と食べやすいソース。更に私特性キャラメルバーが入っています。ちなみにめっちゃくちゃカロリー高いのであっという間に太ります。はい実体験です」
「次。そんな呪われた食材は食べられないわ」
影使いが流した。ボンキュボンの女性らしく色々気にしているようだ。
「キャラメルバーだけ別売りで買えないのかい?」
キイチがしょんぼりした顔で言っていた。
あーあーめんどうなことになりそうだ。
「しょうがないので冒険終わったら売ってあげましょう」
やったーと喜ぶキイチ。子犬か。
「というわけで三つ目のまあまあコース。肉を挟んだパンに挟んでない白パン。野菜に果物とバランスよく配備され冒険でも問題に栄養がとれて味もいいですよ」
「ほーええやんか。これで終わりかい?」
キイチが楽しそうに話した。こういうごっこ遊びも楽しいものである。これからはキイチもゴッコアソビーズにいれてあげよう。メンバー私とネコのノアちゃんしかいないけど。
「最後の豪華お弁当セットでございます。母お手製のお弁当を私が毎日保冷の魔法をかけることで一ヶ月までは痛まずに食べれる究極のおべんとうでございます。ちなみに今日食べたおゆはんは母の手作りです。
「「「それで」」」
3人はハモった。うちの母のご飯は最強だから仕方ないね。
そしてお弁当を売って勇者達と離れた。影使いが私はここで寝てもいいけどーと勇者に話して勇者は困っていたが仲間通しのじゃれあいだしほっと置いてアプリコットは戻った。
そしてベットにぼふんと倒れこんで呟いた。
「ッッットにめんどくせえええええ」
なんだあの問題児PT
16才のアプリコットから見ても地雷原にしか見えなかった。
まず勇者!。可愛いなちくせう。見た目は20前半くらいだけど会話に飢えているし女性にも免疫が無かった。つまり
少年のまま無理やり勇者にされたんだろうなぁ。可愛そうに。
次にプリーストのアルちゃん。しきりに勇者を見ているようで勇者を見ていない。アレは勇者に仕える使命を負った自分に酔ってるのかな。
あまり話をしていないからわからなかいが少なくても勇者にとっては悪影響っぽい。
最後の特大地雷壁使いさん。勇者に熱視線を送る勇者にアプローチをかけている【フリ】をしている。何故かわからないけど。
そして時々こっちを憎たらしそうな目で見ている。特に勇者にアプローチかける目がおかしい。目が冷え切っている。
なんとか3日までに彼女達のことを知って最悪勇者だけでも全うに戻さないといけない。
「全く宿屋の娘はつらい仕事だぜ」
そんなことを言いながらアプリコットは抱きまくらを抱きながら意識を手放した。
「さて点呼開始ーまず私1」
「2!」元気にキイチが答え。
「3です」アルがめんどくさそうに話し。
「4よ」楽しそうに影使いが答える。
「それじゃあいきましょー」
そう言いながら私はみんなを先導して行こうとして
「いやちょっと待ってその格好は何?」
影使いがアプリコットの格好に文句を付けに来た。
アプリコットの格好はごく一般的な格好だった。普通のレザー一式装備に小型の弓。一般的なレンジャー装備だった。
「え?何か格好変ですか?キイチ君どこか変?」
私はくるくるとキイチの前で回った。
「かっこいいし変じゃないよ。でも昨日の魔法使いとか夜のネグリジェのほうが可愛くはあったかなー」
おおう。素直に言われると妙に恥ずかしいな。
「そうじゃなくて魔法使いなのに杖もマントも無いってどういうことよ。あなた魔法使いでしょ?」
魔法使いと言えば一般的には魔術使いの上位と思われている。実際そういうわけでもない。ただそう思っている魔法使いは非常に多くやれ誇りだやれ血統だやれ叡智を極めし者だと自分のことを偉そうに表現している。
「私の攻撃魔法は全工程で30秒かかり岩を降らせるくらいですが役に立ちますか?」
影使いは沈黙した。戦闘における30秒の工程という致命的な欠点はどうしようもないことである。
「というわけで私は戦闘用でなく食材を足すために狩猟用装備できました。このかっこうが山歩き森歩きで一番疲れないっていう理由もありますが」
影使いは納得いかない顔をしたが頭では納得しただろう。同じ役立たずならまだ弓をもったほうがマシである。
「そんでキイチ君」
「ん?」
「お弁当にかける魔法のために一応マントと杖も持ってきてるからまた可愛い私が見れるよ良かったね」
キイチは真っ赤になりながらそういうつもりじゃなくて、いや否定したいわけでもとオロオロしていた。ちょっとドキッとした仕返しである。
森に入りアプリコットが先導しながら歩く。足がとられる上に草がからまり天然のトラップと化しているいも関わらず誰も止まらずすいすいと移動している。
やっぱりなんだかんだ言っても勇者一行なのだ。
「警戒!」
アプリコットが後ろに叫んだ。キイチは剣に手をかけ右を向く。
アルは左を見て影使いはキイチに背を預け後ろを見た。
アプリコットは地面に耳を当てる。ドロまみれになっても気にもしていない。
「右。接敵。あと5秒」
全員が右を向いた。本当に訓練されてるなぁ。とアプリコットは思った。
ガサガサという音も小枝の折れる音が勢いよくこちらに向かってくる。突進してくる何かを全員で散開して回避しまた合流する。
突進した方向を見るとこちらに向きを変えている猪と目が合った。
猪ではあるのだが明らかに普通とは違った。真っ黒の大きな牙は1メートルもありそうで、目線は私達と同じくらいの位置にある。猪というより陸上にいる鯨のような感じだ。
魔力を持った獣を魔獣と呼ぶ。魔力を帯びると大体同じ状態になる。凶暴になり、自身の武器が大きくなり、体躯が特大になり、そして味がよくなり食べると魔力が宿る。つまり
「特大のご馳走がこっちに来たね」
アプリコットは呟いた。
「僕は信じてるよ。君が調理できるっていうことに」
「調理器具は全て持ち歩いているわ。ばらすのだけ手伝ってね」
「任せろ!」
そういって戦いが始まった。
といってもほぼ一方的な戦いである。
プリーストが全員の反射神経を上げる魔法を使う
影使いが影を召喚して影で攻撃する。
何より勇者が尋常じゃない火力で剣を一振りするごとにおびただしい血が噴出し牙が折れ、弱っていく。
[ほとんど]被弾も無く戦闘は終わった。アプリコットも突進の注意を引くために矢を当てることくらいしか出来ず勇者の独壇場だった。
「お疲れ様でした」
そういってアルはキイチに回復の呪文をかける。キイチは少し困った顔をしながらも御礼を言った。
「さてこの大量の肉をどうしましょう」
猪は思った以上に大きくて縦幅でも2メートル全長は5メートルは超えていた。
「食べきるのはそこまで難しくないが動けなくなるのは……」
キイチが言った。えっ食べれるの?軽く見てもトン単位なんだけど……
「食べるとこだけ取ったら残りは私がもらっていいかしら?」
影使いが尋ねた。
アプリコットはキイチを指示してさくっと4.5キロおいしいところを切り取った。
「とりあえず今日食べる分くらいは切り取ったけどどうするの」
「こうするのよ」
そういって影使いは無詠唱で召喚陣を出した。そのまま不定形の影が猪だったものに集っていって1分もしないうちにイノシシの姿は消滅し骨すら残らなかった。
「明日の戦闘分の魔力にはなったかしら」
「おーさすが姉御。やりますねぇ」
アプリコットの軽口に影使いが軽くあしらった。クールですな全く。
もう少しいった辺りで暗くなりだした。
「今日はここまでにしとこう」
「もう少しいけるよ。完全い暗くなるまでいこう」
キイチは言った。
「森を舐めたら駄目。どんなに強くてもどんなに凄くても、自然を舐めたらすぐに死ぬわ」
アプリコットは珍しく真面目に言った。その剣幕に誰も何も言えずにそこで休むことになった。
一通りの工程が終わりテントであとは寝るだけとなったため、夜の番の相談をしようとしたらなぜか満場一致でアプリコットは番免除となった。
「なんでー?楽なのはいいけど特別扱いは嫌なんですけどー」
アプリコットは膨れた。
「流石に私でも危なくなったら呼びにいくくらい出来るよ。そんなに信用ないの?」
ぷくーっと餅のようなほっぺになりながら軽く3人を睨んだ。
「正直に言うとね」
キイチは話し出した。
「ちょっと君を舐めていたよ。僕達で面倒みたら大丈夫だろうって。でも実際は戦闘のスカウトを完全にこなし先頭で僕達の道を確保しつつ安全な道にしながら……」
「ええ。しかもテントも全部1人で張って……」
アルが続いた。
「食事を出すのも料理も全部一人でやって、片付けくらい手伝おうと思ったら全部終わってたわ」
影使いも頭にてを当てながら困った顔で言った。
「はっ。いつもの癖で全部してしまった」
「いつもってアプリコットさんはいつも何してるんだ……」
「知ってるか?宿屋は戦場なんだ。私は1人で30人までの料理は出せる」
アプリコットは死んだ目をしながらキイチの質問に答えた。
「食材が足りないなら自分でとる。人がいないなら一人で全部こなす。外泊ツアーだとテントを私達宿の人間が全部張る。これが当たり前の世界なのよ」
「宿屋舐めてたわ……」
キイチが答えた。思った以上に大変なことに気づいたようだ
「それに加えて金銭管理に従業員客共に精神状況の安定。ここまで出来て一人前の宿屋よ」このメンバーは私にはどうしようもないかもしれないが。アプリコットは口の中で声を出さずに呟いた。
「まあそういうことで役割分担もかねて緊急状態でない限りはアプリコットさんは寝てていいよ。あまりにおんぶにだっこも勇者として恥ずかしいしね」
「男の子の意地を買うのも良い女の仕事だからしょうがないから請けてあげようかしらねー」
アプリコットは冗談を言いながらテントに入った。ちょっとキイチと一緒だとからかいたくなりすぎてる気がするけどきっときのせいだろうね、うん。
テントに入ってすぐにテントの前に人の気配がした。
「どうぞー」
テントの前で慌ててオロオロした後ゆっくりとアルが入ってきた。
「本当に気配への反応が凄いですね。まさか合図する前に反応があるとは」
「別に普通だと思うけど」
「少なくてもプリーストとして高レベルの私より凄いのは間違いないですわ」
アルは少し悔しそうに話した。
せっかく二人になったのだから色々聞いてみよう。
「ねーアルって勇者のことどう思ってるの?」
「勇者様ですか。そうですね。大変素晴らしく、非に打ち所のない方ですわ。そんな方に仕えることが出来るのは神の思し召し。感謝を抑え切れませんわ」
両手を握り神に祈りを捧げていた。その姿は大変素晴らしく誰もが美しいと思うのだろう。だがなぜかアプリコットは少しイラッときた。
「じゃあ影使いさんは?どんな感じ?」
「共に勇者に仕える方ですので仲間だと思ってますわ。もう少し真面目にいてくださればもっと嬉しいですが」
「それくらいのほうがちょうどいいんじゃないかな。固すぎるとそれはそれで大変だよ」
そうかなと頭を傾げながらアルは答えた。今日はこのくらいにしておこう。アプリコットは疲れが溜まる前におやすみと一言言って睡魔に身をゆだねた。
二日目になると朝からペースが少し落ちた。理由はわかってるが、アプリコットは自分から言い出すつもりは無かった。
キイチは問題なかったむしろもっと急ぎたいようにそわそわしてるくらいだった。
アルも問題なかった。勇者のペースに合わせて昨日と同じように歩いていた。
影使いのペースが遅れていた。明らかに体調不良である。でも何も言わず必死に足を動かしていた。
「何か言うことないかにゃー?」
アプリコットは軽い口調で後ろの3人に話しかけた。頼むから言ってくれ。体調不良で攻める人なんていない。
「何も無いよ。今日は猪出てくれないかなーくらいかな」
アプリコットさんの作ったステーキおいしかったしというキイチに嬉しいが今はそうじゃない。もっと違うときに言ってほしかった。
「私も特に問題ありませんわ。ペースあげても大丈夫ですよ」
と遠まわしに勇者のペースに合わせろとアルがこちらに言ってくる。まじかーこいつらまじかー。
「……私も問題ないわ」
影使いが言った。本人がそういうならアプリコットは限界まで付き合うしかないと思った。
確かにペースは落としたし襲撃も無かった。それでも。朝から体調悪いまま夜まで歩くとは思わなかった。しかも昼もほとんど食事が取れないほどなのに。
「ごめんちょっと用事あるからご飯食べてて」
そういってアプリコットはキイチとアルに食事を出した。
後は若い二人でごゆるりとどうぞ。という冗談を思いついたがなぜか口から出なかった。
「それと影使いさんはちょっと付き合ってね」
とアプリコットは拒否するまで影使いをテントにつれていった。もう抵抗する体力すらないらしい。キイチとアルは頭にハテナマークを浮かべながら食事を取った。
テントにはいってテントをしっかり施錠したら影使いをそっと寝かせておでこを触れた。
「やっぱりかなり熱い。なんでそんな無茶したのですか?」
アプリコットが尋ねても影使いは無視した。口をきゅっと閉めているあたり意識はあるけど言いたくないだけだな。
「はぁ。しょうがないですね」
そういってアプリコットは体を拭くために影使いを脱がせようとした。
必死に抵抗するが抵抗する余力ももうほとんど無くするっと脱がせられた。
「はーいないすばでーってどうしたんですかこれ!」
服を脱がせると包帯がぐちゃぐちゃに巻かれていた。そして巻いている腹部から血がにじんでいた。
すぐさま包帯を切り取り丁寧に傷口のガーゼをはがすとそこには熱を持った大きな引っかき傷のようなものが見えた。
「昨日の魔獣の突進ですね……どうして言わなかったんすか?」
「……言えなかったのよ」
彼女は搾り出した声で呟いた。
「勇者にいえなくてもせめてアルさんに」
「彼女にこそ言えなかったのよ!」
小さくそれでも悔しそうに影使いは慟哭した。
事情はわからない。それでも影使いがアルのことを嫌いなわけでないと長年の宿勤めの感でわかった。
「そういうことなら。これ、秘密にしてくださいね」
そう言いながら彼女は自分の荷物からそっち壷を出して壷にかけた密封の魔法を杖で解く。壷の中にあるフラスコなどガラス製の道具をいくつも取り出す。
「錬金術……あなたは……どれだけ」
「知っていますか?錬金術が出来ると簡単な傷ならほぼ無料で直せるんですよ。つまり宿の従業員のケガも病院に行かずに治せるのです」
アプリコットは自信満々に言った。
「だから私は錬金術を覚えされられました。母に。そしてそれは私の家族と従業員だけの秘密なのです。だから内緒にしてくださいね。錬金術使えるとわかるとめんどうなので。手続きとか」
そういいながらアプリコットは器用によくわからない粉と緑の草をフラストに入れ水で埋めて優しくかき混ぜて、下のランプに火を
「精霊よ我が声に導かれし者よ。我が望みを聞きたまえ。燃えろ」
ぷすんと言った音が出てそして火がつかなかった。
「あはは。魔法だけは苦手なんですよね。使えるのに」
恥ずかしそうに頭をかいてごまかそうとする。どうやって火をつけようか悩んでいたら。影使いがパチンと指を鳴らし、ランプに火がついた。
「あなたを見ていると自分が馬鹿に思えてくるわ」
影使いは呟いた。でもその顔は少し微笑んでいるように見えたからきっと悪い意味じゃないのだろう。たぶん。きっと。うん……
フラスコの中身が沸騰した瞬間に試験管の青い液体を入れる。
その瞬間沸騰してた液体が急速に冷えて白いもやを発しながら赤い液体となった。その冷気で火も消えたが終わったのでちょうどよかった。
「火……消えたけど大丈夫?またつけようか?」
高熱で意識が朦朧とした中でもこちらに気を向けていた。しんどいはずなのに非常に優しい顔をしていた。むかし子供の頃の母はよくこんな顔をしていた。今は料理の鬼となったが。
本来はこういう顔な人なんだろう。優しくてかわいらしい人だ。スタイルが憎たらしいが。
「というわけで無免許錬金術師の私ですが信用できます?いまさらですが無理なら解熱だけして薬は捨てますが」
ちなみに解熱剤は座薬です。ふひひひひ。
「まかせるわ。どのくらい効果あるかわからないけど。私も1つわかったことがあるから」
「なんですか?遺言なら聞きますが?」
今の彼女となら軽口が言い合える気がした。大丈夫そうだ。
「あなたは魔法以外なら信用できるってことよ。あたなが武術の達人でギルドマスターって言っても信じてあげるわ」
なんだろうこの女性超可愛いぎゅーってしたい。
「じゃあ1つだけお話します。私が作れる錬金術って実は4つだけなんです。まずは1つは爆破用の爆弾です。主に岩とか壊す用として作って小銭を稼ぐためです」
「以外と悪いのねあなた。嫌いじゃないけど」
「鉱山向けの商品だし信用できる人にしか売りませんが。次はよくきく傷薬」
「従業員向けって言ってたね」
「ええ。うちの従業員怪我が多いのでこれはよく使ってるんです」
「次はとってもよく効くお薬です。痛み止めや風邪はこっちですね。後は重症のときはこれを使ってるうちに病院につれていくとか」
「本当多才ねあなた。まるでおとぎ話の英雄みたいよ」
「ただの宿屋の1人娘です。そして最後今回使った薬。多くは言いません。エーテルです」
「はっ?」
薬としては特に凄い薬だが別に特別凄いわけでもない。町にいけば3本は常備されている。その程度である。
効能は傷を癒し体を休め体力と魔力を回復させ、軽い病気を治す。つまり万能薬である。とくに致死性の状態を避ける作用があるため緊急用の薬としてよくあるオーソドックスなものである。
問題は[製法が公開されてないことである]作れるのは国家に所属する錬金術師の中でも一部のもののみ。なので製法は極秘で違法性のあるものを作ったら重罪である。
本物を作ったらどうにかなるという法律は無いため大丈夫だと思いたい。絶対秘密だが。
「というわけで秘密にしてくださいね。絶対に」
アプリコットは冷や汗をかきながら言った。
「言わないわよ。ただ私の中であなたは化け物の位置にランク付けしておくわ」
「ぐふぅ。アレか。スタイルが貧相って言いたいのかちくせう」
「あなたも大きくなったらスタイルよくなるわよ……」
そんな本当か嘘かわからないなぐさめを影使いはする。
エーテルをガーゼにしみ込ませ傷口に当てて包帯を巻く。残りのエーテルを影使いに飲ませる。
「疑っていたわけじゃないけど本当にエーテルね。味も効能も私の昔飲んだのと全く一緒。あなた凄いわね」
「内緒ですよお願いだから」
「もちろんよ。変わりに私の秘密を1つ話してあげる」
影使いは横に倒れて話し出した。
「私自分が大嫌い。魔法が使えないでずっと家族に虐げられてきた。魔法が使えたらってずっと思ってた。結局魔術しか使えなかった。そんな私が大嫌い『だったわ』」
「過去形なんですね」
アプリコットは尋ねた。その顔がつき物がとれたような安らかな顔に見えたからだ。
「そりゃ魔法使いなのに魔法が使えずそんなもの関係無くなんでも出来るあなたを見たからよ。最初は憎たらしかった。途中では見下してた。今は、自由なあなたがうらやましい
……」
そう言いながら影使いは落ちた。必殺こっそり無味無臭の眠り薬を飲ませるの術。エーテルを飲んで寝るのが一番の治療だからね。
彼女の寝袋を戻しつつアプリコットはテントをでた。影使いさん……まだ何か重いもの抱えてそうだわ。頭が痛くなってきたがそれでも可愛い女性を助けるためだしがんばろう。全部うまくいったらスタイルよくする方法聞こうそうしよう。
テントを出てアプリコットは二人に軽く事情を説明した。影使いの名誉を守るために怪我のことは言わずに高熱で倒れたこと。今解熱剤を飲んで寝かせたこと。そして変わりに私が夜の見回りを変わると。
「体調不良すら気づかなかったなんて……」
キイチは悔しそうにしていた。
「勇者様。おきになさらず、そういう時もあります。次に気をつけましょう」
アプリコットは助走をつけて全力でぶん殴りたくなったが必死に我慢した。
「というわけで昨日寝てた私が一番体力あるからチミ達は寝ていてくれたまえよ」
といってアプリコットは見張りを始めた。
といっても焚き火の前で座るだけだが。
焚き火の前でアプリコットは大切なことを思い出した。
「はっ。ご飯食べ損ねている」
アプリコットはこっそり弁当を食べだした。悪いことをしてるわけではないが、夜中に弁当を食べるのを見つかるのは女性としてマズい気がしたからだ。
「食事中邪魔してごめん」
そういって一番来て欲しくないタイミングでキイチは来た。
「おなかすいたのです。文句ありますか!」
アプリコットは真っ赤になりながら逆ギレした。
「いや影使いさんの世話してて食べてなかったんでしょ。わかってるよ」
そういってキイチは少し離れた位置に座る。
「一応見張りは二人でするから僕も来たんだ。アプリコットさんを信用してないわけじゃないよ。むしろ誰より君を信用してるよ」
「魔法の使えなさなら信用していいですよ」
ケラケラとアプリコットは笑った。
「いや。真面目にスカウトとして君をPTに入れたい。アルにはもう話して許可もらってるし影使いさんもたぶん反対しない。うちに来て欲しい」
キイチは真面目な顔をしてお願いしだした。
「君がいるだけでとても心強いのがわかったよ。そうでなくても料理関係だけでも君をいれたいと思ってる。駄目だろうか」
「真面目に言ってくれてるから真面目に返すけどごめんね。私の夢は勇者のPTに入っても叶わないから入れないの。誘ってくれたのは嬉しいけど」
「そっか。ごめんね。無理に誘ってしまって」
そういいながらキイチはしょんぼりしていた。なんでこの子年上のくせにちょくちょく子犬みたいになるのだろうか。構い(からかいたく)なってします。
「ところでお母さんの弁当で何が美味しかった?私はアスパラの油揚げだけど」
「うーん。やっぱりメインのハンバーグかな。冷たくてもおいしいって凄いね本当」
アプリコットはニヤリとした。そのまま箸でハンバーグを小さく切って箸にもって、キイチの傍によって
「じゃああげよう。はい。あーん」
箸をキイチに向けた。
「えっええ。えっ」
オロオロとした後こっちを上目遣いで見て、言いの?とキイチは小さく聞いた。
それを見てアプリコットも頬が赤面するのを感じながらコクンと頷いた。
ぱくっ。とキイチが食べる。黒い髪で下を向いて顔をそらすが目に見えて真っ赤になっていた。もちろんもう1人も真っ赤になっていたが。
「えっと。おいしかった?」
「あの・・・正直に言うと味わからなかった」
「そっか。仕方ないね」
心臓がドキドキと言う。ああ。なんて無駄な時間なのだろう。こんなくだらない。頬が熱い。アプリコットは自分で自分が制御できなくなる感覚を覚える。
「でも幸せだったよ。いつかまたしてほしいなって思った」
キイチが言う。頬がにやけるのを必死に我慢する。
「そか。そのうちまた機会があったらね」
そういって私は弁当を黙々と食べる。キイチも下を向いてもう話しかけてこないだろう。
でも沈黙が別に苦痛ではなかった。
「よっし元気出していくぞー!」
アプリコットは朝から無駄に大きな声を出して自分に気合を入れた。
「妙に元気ね。何かあったのかしら?」
影使いがにやにやしてこっちにきた。馬鹿め。カウンターを返してやる。
「おや影使い殿。体調はもうよろしいのかしら?」
「おかげさまで。まったくよく聞く【解熱剤】ですことね」
「ええ我が家秘伝のものですので」
「はいはい。全くどこから知ったのかしらねその秘伝とやらは」
アプリコットは影使いの耳元で小さくしゃべった。
「宿屋に泊まりにきたはぐれ錬金術師の人酒に飲んで気が大きくなった。あとは言わなくてもわかるよね?」
もちろんそれだけでは出来ず何回か試行錯誤を繰り返したがそれでもそれが一番大きい理由だった。
「宿屋って怖いのね。私今度から気をつけるわ」
「内緒話するほど仲良くなったんだね。よかったよかった」
キイチがこっちに話しかけてきた。軽い口調だけど顔はちょっと面白くなさそうな顔が本当に可愛くて自分の気合が抜けそうになるのを必死に堪えた。
「お友達だからねー」
とアプリコットが言うが
「そうだっけ?」
と冷たく影使いが返す。それにしゅーんとした顔をしたアプリコットを影使いが頭を撫でて慰めた。
キイチはこのままPTに入ってくれたらいいのにと思ったが。もうそれを言うことは出来なかった。
これか……
森の最奥。そこに石碑が置かれていた。石碑の付近は今までのうっとおしい森の様子と違って清潔な空気に光が入って明るい状態。それに魔力が纏っていないリスや鳥などの小動物が安らいでいる。ここが聖域なのだろう。
「ここで何があるの?」
「さぁ?神託の結果なんで来たらわかるらしいけど。何もおきないね」
キイチが答える。
「待って下さい。たぶん神託の続きがあるはずです」
そういってアルが両手を握り、膝を落として祈りを捧げる格好を取った。
しかし何も起きない。
「違うんじゃないのかな?」
キイチが言うがアルはそんなはずありません!と他の二人も祈りを捧げる格好を取らせるが何も起きなかった。
「ほらアプリコットさんも。神の前ですよ」
はいはいち答えて適当に答えてそれっぽいポーズを取る。
「違う違う。もっと背筋伸ばして」
どこからか声が聞こえた。聞いたことない声だった。アプリコットは周囲をキョロキョロと向いた。
誰かいるわけでないということはつまりそういうことだろう。
「アプリコットっさんどうしました?」
キイチが尋ねた。
「いや神託聞こえたぽい」
勇者が神の声を聞けないで臨時冒険者だけが声を聞けるというのはよくあることなのだろうか。
アルが慌てて自分と勇者をのけてアプリコットだけを祈りを捧げる格好をさせた。
「聞こえますか。冒険者よ」
はいきこえますよー。と頭の中で考えながらなんて返そうか考えていたら。
「大丈夫ですよ。頭の中に考えたらわかりますので」
と帰ってきた。うわぁ隠し事できないのはつらいな。
「神たる私からの言葉です。すいませんが聞いてください」
「伝えたい言葉は一つです。まずはごめんなさい。あなたにおしつけて」
アプリコットはわけがわからなかった。そして神は続いて言葉を残した。
「今あなたがすべきことをここで行いなさい。それが神託です」
非常に申し訳なさそうに神が呟いた。少し考えて私は自分がすべきことに気づく。
「神様。尋ねたいことがございます」
ためしに話しかけてみた。神託さずけてはい終わりじゃないと思いたい。
「なんでしょうか?」
神は答えた。威厳のある声だが優しみもある声だったただなんとなく情けないような雰囲気も感じる
「神様。今回のこと了承しました。ただし、とてもじゃないですが巻き込まれた私としてはなんともいえない気持ちでいっぱいです」
「ですよね。本当にごめんなさい」
「だから一発神様をどつきたいのですがどうしたらそちらにいけますか?」
アルはその言葉にぎょっとしていた。神の声は聞こえないが少なくても不敬であるのは間違いなかった。
「……いつか君が全てを終えたとき私の元に寄れるようにしておこう。そのときはどんなことでも甘んじて受けます」
「そのときまで健やかに。また会いましょう」
アプリコットの言葉を聴いて神の気配が消えたのを感じた。
「最後に私にアプリコットさんを攻めるなと
彼女のこれから言うことを重く受け止めろと神から言われたのですが何かあるのですか?」
アルは不満そうな顔をしながらこちらを見ていた。
さあ最後の仕上げだ。神様お墨付きの仕事なんて始めてだなははは
そして説教の時間が始まった。
「まずは軽い順番にいこうか。アルさん」
「なんでしょうか?神の神託はどのようなものだったのですか?」
その言葉を聞いた後。アプリコットは思いっきりアルの頬をはたいた。
パーンといった小気味良い音が聞こえその音に驚いて鳥が逃げていった。
何が起こったかわからないと頬を押さえてアルが呆然としていた。
「自分い酔ってるんじゃないよ。なんでもっと視野を広げて見ない!」
アプリコットは喉から絶叫した。ずっと我慢していた何かが溶けていくのを感じる
「何の話でしょうか?」
アプリコットを睨みつけながらアルは平然を装い尋ねた。
神に重く受け止めろと言われても自分が間違ってないと信じているからよくわからないのだろう。
「あんたはキイチ君を理想の勇者と言った。私にはそうは見えない。いつも自分を出せない怯える少年にしか見えなかった」
「あんたは影使いさんを仲間と言った。だったら何故回復魔法をかけない」
「なんでかけないって怪我してないのになんで回復魔法をかける必要があるのですか?」
「怪我してることすら気づけてないって言ってるんだよ!昨日大怪我をかばって歩いていたのに何故アンタもキイチ君も気づかない!」
キイチは悲しそうに下を向き、アルはなおもアプリコットを睨みつけるが何も言ってこない。
「しかも怪我してなかったら回復魔法かけるのは変って。あんたいつも勇者様勇者様と戦闘後に回復魔法かけるじゃないか。怪我もしてなくてキイチ君困った顔してたのにも気づかず『勇者様に仕える自分として当然ですわ』って後ろに大怪我した仲間がいるのにな」
パーンと大きな音を立てた。アルがアプリコットの頬をたたき返したのだ。あまりの速度に誰も反応できなかった。
「あなたに何がわかるんですの!私がどれだけ大変か。どうして私ばっかり!自由に生きてるあなたにそんなこと言われたくないの!」
アルは涙を流しだした。正直アプリコットは胃が痛くなるので止めたいが信託でまでしろといわれたのだ。止めることはできない。
「だから仲間に相談しろよ。仲間はお前のおもちゃでも愛玩動物でもないぞ。必ず答えてくれる」
そのままアルは膝から崩れて泣き出した。さっきみたいな涙を流すのでなく慟哭するように。大きな声で。
この流れでもっと重いのにいかないといけないのか。そう重いながらアプリコットは影使いのほうに向いた。
「私にもあるの?でも私この前言ったけどあなたのおかげで大分楽になったんだけど」
アプリコットは知っていた。たぶんこれこそ自分だけしかわからないことなんだと思う。金銭に強く魔の知識に詳しい自分に神託の矢が当たったのが。
「キイチさん」
アプリコットはキイチに質問した
「このPTで金銭を握っていたのはいつも影使いさんですよね」
影使いの顔が青くなった。
「そうですね。いつもその辺りでお世話になってますが、どうかしましたか?」
アプリコットはどうすべきか悩んだが、彼女には自分で気づいてるので自分で話してもらうことにした。
「魔術を行使するためには触媒が必要になります。簡易なものなら簡易な触媒。高度なものなら高度な触媒が。ある程度は魔力で代用できますが、どうしてもそれだけではまかないきれません。つまり魔術とはとてもお金がかかります」
「影使いさんの体を私は拭きましたが、すぐにわかりました。彼女ガリガリなんですよね。マトモな食事って今回くらいなんじゃないかな。お願いします。自分から言って下さい」
影使いは泣きながら話し出した。
「ごめんなさい。どうしてもお金が足りなくて盗んでました」
彼女のがんばりは誰が見てもわかるものだ。足りないので最初は自分の物を売って、それでも足りないから自分の食費を抜いて、それで足りなくて次はPTの金銭を。
「ごめんなさい……どうやっても返せないの。ご飯を全く食べなくてお金返してるのに、それでも……」
おいつめられて拒食症も併用してるほんとうに限界の状態だった。本来ならここまでいかないがそれでも大きな要因があった。
「言ってくれればよかったのに」
タイチがそう言うのを聞いてアプリコットは本日2度目の説教攻撃を次の標的にかけた。
思いっきり脳天に衝撃を受けてタイチは驚いた。
「流石に可愛そうだからビンタは止めといた」
そういってアプリコットは手にもったブーツでタイチの頭をどついていた。
「なんで言い出せなかったかを知るのがPTリーダーの務めなの。甘ったれない」
アプリコットは冷たく言った。
「そうですね。僕は勇者なのに仲間に気づくことすら出来てなかった。これからはもっと仲間を見ないと」
アプリコットは症状が軽いものから順番に説教をしていった。
役割にこだわり過ぎて回りに見えなくなったアルはおお泣きしてすっきりしたら戻るだろう。
影使いはまだ何か抱えてそうだがたぶんこれも大丈夫。勇者が彼女をなんとかすると言ったから。
ただし一番重いのが1人いた。
正直どう説教したらいいかわからなかった。何を言っても勇者として受け入れ成長をするだろう。勇者として。
「キイチ君は今いくつになる?」
アプリコットは尋ねた。
「今22ですね」
思った以上に年上で正直驚いたが今は気にしてる場合ではなかった。
「勇者の神託受けたのはいつくらいのこと?」
「7年くらい前かな」
つまり7年もキイチ君は成長が止まり勇者として成長を続けなくてはいけなくなっていたのだ。
アプリコットはもうどうしたらいいかわからずに。心の思うがまま行動することにした。
アプリコットはキイチを思いっきりだきしめた。
腕の中でキイチはオロオロするがアプリコットは泣きながらキイチに話しかけた。
「しんどいならもう止めてもいいよ?」
キイチはぴたっと止まった。
「さっきまでの説教も全部忘れていいよ。キイチ君が止めたいなら私が助けてあげる。勇者なんて他の大人に押し付けてしまっていいよ」
「駄目だよ。僕は勇者だから」
キイチは震えながら答えた。勇者として生きて勇者としてみんな接してくれた。だから僕は勇者でないといけないと
「違うよ。キイチ君はキイチ君だよ。照れ屋で優しくて子犬みたいな可愛いキイチ君だよ」
アプリコットがキイチの頭を撫でながら尋ねた。
「君はがんばった。だから好きなように生きていいんだよ」
キイチは我慢の限界だったようで滝が決壊したかのように泣き出した。
そこにいたのは勇者でなく。自分より年下にしか見えない泣き虫の男の子だった。
まさか全員泣くとは
アプリコットは自分のしでかしたことに正直驚いていた。これで神託が別の内容で説教が関係なかったら私消されるな。アプリコットは口の中が乾いていく錯覚に囚われた。
「まさか私まで泣いてしまうとは」
影使いが呟いた。
「一体影使いさんはなんで泣いていたんですか?」
アプリコットが尋ねた。
「わからん。勇者が……いやキイチが泣いているのを見たらなぜか私もな」
ほおをかいて照れくさそうにする影使いがいた。なにこれ可愛いな全く。
そしてあちらを見るとアルとキイチが仲良く土下座していた。
「痛いところを疲れて逆ギレしたあげくビンタまでしてごめんなさい」
とアルは頭を床にこすりつけていた。
「胸の中に大泣きして服ぐちゃぐちゃにしてごめんなさい」
「君の謝るポイントがちょっとよくわからないよ。気にしないでいいよ」
「凄いいいにおいがしてドキドキしてごめんなさい。胸柔らかいなとか思ってごめんなさい」
アプリコットは真っ赤になりながらキイチを蹴飛ばした。
「やっぱりもう少し反省してろ」
そういってアプリコットはそっぽを向いた。
「せっかくの機会だしもう1個反省したいことあるので言っていいか?」
影使いが何かを告白すると言い出した。やっぱり地雷がまだあったか。
「是非言って下さいまし。みんなで苦痛を共有しましょう」
「お願いします。僕達もっと学んでみんなと仲良くしたいのです」
アルとキイチは土下座したまま答えた。
「実は私男嫌いなんだ。理由は言いたくないが。すまない男避け代わりに勇者にすりよって好意のあるふりをして本当にすまない」
そういって影使いは土下座した。
「あーやっぱり。なんとなくそうじゃないと思ってました。僕を見る目が時々病原菌を見る目だったのに。今は大丈夫なんですか?」
土下座したまま器用に二人が話している。そろそろ頭あげてくれないかな。
「すまないつらい思いをさせてしまって。ちなみに今は大丈夫だ。アプリコットの腕の中で泣き崩れるタイチはどう見ても男には見えず少年にしか見えなくなった。
「悲しい事実ですが安心しました。これからも男避けに使って下さい。あとかかるお金も余分に言って下さい。影使いさんの魔術にはいつも助けられていますから。
アプリコットはちょっとムッしてキイチの頬を引っ張りながら起した。
「ほらそろそろみんな起きて帰りましょう。帰り道もあるんですから」
「ふむ。どうやら私は新しい男避けを用意しないといけないな。取られてしまいそうだ」
影使いはくすくすと笑いそれにアルもつられて笑っていた。
「ちなみに帰り道は問題ないぞ」
影使いは杖を持ち呪文を詠唱しだした。
「あとで触媒代もらうけどいいよね。安全に帰れるし」
「ああ。お金で全員の安全が買えるなら問題ない。また稼げばいいんだから」
「我は世界の理に逆らう。大地よ我がマナにより招かれし物よ。我に従いたまえ。我が問いは世界の原初の暗黒。我が呪いは世界を蝕む悪意」
大量の魔力が地面を揺らす。そして準備の終わり、影使いが魔術の最後を唱える。
「リターンポータル!」
その言葉と共に地面がゆれ、視界が暗転し、気づいたら森の入り口についていた。
「凄い!なにこれ瞬間転移?!大魔法じゃないの!?」
アプリコットが驚いて尋ねる。
「いや種わかったら悲しいんだけどただの高速移動。しかも条件が厳しいから帰り道限定の」
「それでも凄いよ。最後にいい経験できたわー」
アプリコットが楽しそうに町に戻るのを3人は悲しそうに見た。
あっという間に三人がきてから一週間がたった。新しい神託も降り、彼らはこの町を離れなければならなくなった。
「お別れだね。さびしくなるよ」
アプリコットが呟く。アルは既に大泣きしている。あの日以来泣き癖がついてしまったようだ。
さーみーしーいー。という声を発し続けるアルを影使いがつれて離れていく。キイチを残すということはそういうことなのだろう。
「アプリコットさんありがとうございます。おかげで色々助かりました」
「例えばどんなこと?」
アプリコットは尋ねた。もし彼が勇者を止めるのであれば。アプリコットは彼とずっと一緒にいるという選択肢が出てくる。
「僕はやっぱり僕だけど。それでも勇者としてやるべきなんだと思いました。世界の人のため。そして大切な人を守るため」
キイチの目が真剣になった。これが最後なのだろう。
「勇者としてでなく僕としてあなたの言うとおりわがままになります。あなたとずっと一緒にいたいです。僕についてきてくれませんか?」
キイチは言う。アプリコットはその気持ちがとても嬉しかった。
「ごめんなさい。私の夢はね。両親の作ったミストワールの黒猫亭をもっと大きく繁盛させることなんだ。そのために冒険に出たいけど。それは勇者の旅についていっても。それは勇者の仲間ってことで終わってしまう」
「だから私は勇者の旅にはついていけないんだ」
タイチはしょんぼりした後何かがひらめいたような顔をして話を続ける。
「ところで仕事が終わってあたしい仕事を探してる男の人が将来出てきたら雇えますか?」
アプリコットはタイチの言いたいことがわかった。それにそのまま乗っかって話をする。
「そうですねー体力に自身のある方は大歓迎ですね。力仕事はいくらあっても困りませんし」
ぱぁーと笑顔になった。耳をぶんぶんとフル子犬が背後に見えるようだ。
「そんな新入りと1人娘の恋愛とかアリだと思いますか?」
「あー全然アリですねー宿の中の恋愛だと今後の仕事も捗るでしょうしうちの宿に嫌がらせをするような器の小さい人はいないですし」
「じゃあ。じゃあ」
何かを言おうとするキイチの口をアプリコットは人差し指で止める。
「要求ばっかりじゃ駄目だよ。お嬢様の要求もちゃんと聞かないと」
口をつむいだままキイチは大きくブンブンと頷いた。
「まず浮気は絶対に嫌。美人が周りに多いし嫉妬我慢するの大変なんだよ」
キイチはとても嬉しそうにぶんぶんと首を縦に振り続けた。
「それともう1つは私は宿を大きくするのが夢なの。だから定期的に勇者が止まりに来てくれたらきっといい宣伝にになると思うのよね」
当たり前だがこれはただの方便だ。でもなんか恥ずかしいから本当の理由は言いたくなかった。バレバレなのわかってるけどね。
「それと最後に……」
アプリコットはキイチの顔の傍までを顔を寄せて尋ねた。
「まだ一度も聞いてないよ。教えて。私のことどう思ってるのか」
そうして魔王が倒されましたとさ。
黒いフードを被った女性が沢山の少年達に御伽噺を話していた。
それは最新の御伽噺。本当につい最近生まれた。神の神託を受けて魔王を倒し、そして勇者の座を返上し消えていった英雄のお話。
「宿敵の魔王に会って勇者は何ていったのー?」
少女は尋ねた。
「勇者はね。この時とても必死だったのです。後ろに仲間がいることすら忘れるほど」
かっこいーと少年少女の声が聞こえる。
「だから仲間達が勇者の言葉を残していたのです」
わくわくと口でいう少年と目を輝かせる少女達。
「勇者はこうおっしゃいました『世界の為に、ああいや神の敵を我は……ああもうめんどくさい。俺とあの子の幸せのために可及的に速やかに消滅しろや!』でした」
えーなんかかっこわるーいと子供達のブーイングが聞こえる。
「これがかっこよく思えるようになると大人になったってことですよ」
フードを被った女性はくすくすと笑いながら本を閉じた。
「世界の奴隷になり苦痛の受け続ける運命を背負った勇者は、
そんなことどうでもいいと考え、1人の女性のために勇者としての生涯を勤めきり、そして彼女の元に帰っていったのでした」
お読みくださりありがとうございました。
途中で止めず最後まで読んでくださった方に感謝を。
どうしても昔のラノベやSSの時代の記憶が強く作品が古臭くならないか心配ですが
今回は割と今風にかけたと思います。書けた……よね?
貴重をお時間をいただいてしまって申し訳ありません。
その甲斐はあったのなら私はそれだけで無上の喜びでございます。