おっさん、全力で振る。
20180425 更新1回目
おっさんは黒い男を見据える。
「おっ、話は終わったか?」
「ああ、お前と遊んでる暇はない。
ソニアを探さないといけないからな」
「……ははっ!
簡単に言ってくれるね~」
挑発するような物言いで男は笑い、裂けるほど大きく口を開いた。
「だが、それは無理な話だぜ。
なぜならここで……オレが全員殺すからさ」
「それこそ無理だ。
全く負ける気はしない」
「ひゃははっ!
言うじゃんよ~……なら、試してやるよ!」
咆哮と共に男は闇に呑まれて姿を消えた。
『勇者様! 男の気配が消えました!?』
慌てながら声を上げ、カティはおっさんの髪を引っ張る。
姿も見えなければ気配も感じない。
「……へぇ、面倒な魔法を使うじゃないか」
そんなことを言ったのはミランダだ。
彼女は好戦的な微笑を浮かべている。
当然、それは強がりではない。
ドラゴンスレイヤーと言われた冒険者――ミランダ・カスティリャにとっては、この程度はピンチのうちには入らないようだ。
『ここは私の防御魔法で凌ぎましょう!』
カティがそんな提案をした。
だが、
「……さて」
彼女は目を瞑る。
そして持っていた白銀の剣を構えた。
「――そこだね」
「っ――!?」
ミランダは左から右に剣を薙いだ。
瞬間――赤い血筋が宙を舞う。
それは、ミランダの剣閃が消えた男を切り裂いた確かな証だった。
「……浅かったみたいだね。
中々いい動きするじゃないか」
剣に付いた血を払いながら、ミランダはそんなことを言った。
すると闇の中から再び男が姿を現した。
「テメェ、オレの動きが見えていやがったのか?」
言って不気味な男がミランダを睨み、頬から伝う血を手で拭う。
「見えちゃいないさ。
だが姿を消そうが、気配を消そうが……咽返るような血の匂いは消えないよ」
「ひゃははっ!
そりゃ消しようがねえわなっ!
今までぶっ殺してきた人数は一人や二人じゃねえんだから」
「……自慢気に言ってんじゃないよ」
「自慢なんて思っちゃいなさい。
オレはただ当然のことをしてるだけなんだからな」
人を殺すのが当然……この男は本当にそう思っているのだろう。
『こ、こいつ、信じられないほどの大悪党です。
これまで多くの人間を見てきましたが……その中でも最悪と言っていいかもしれません』
眉根を顰め不快感を示すカティ。
だが、それは俺も同じだ。
やはりこいつを野放しにはしておけない。
「テメェらも光栄に思えよ。
この場で死ねば、邪神様の貢物になれるんだ。
本当は子供の命がいいんだが……大人でもないよりはマシだろうからな」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃないよ!」
ミランダは男に接近して剣を振る。
だが、その閃光のような一撃は、黒い刃に受け止められていた。
「……闇よ……切り裂け」」
男は再び闇の魔法を使った。
闇よりも黒い刃がミランダを襲う。
彼女は持っていた白銀の剣で、刃を全て切り裂いた。
しかし、
「無駄だ。
闇は無限に存在する。
どれだけ切り裂こうと……完全に消えることはない」
ミランダが切り裂いた闇の刃は、完全に消え去ることはなく直ぐに元の形に戻ってしまう。
「……こりゃ切りがないね」
ミランダの声にはまだまだ余裕がある。
彼女自身、本気で戦っているわけではないのだろう。
『持久戦になればこちらが不利です!
勇者様、ここは一気に倒してしまいましょう!
って……勇者様!?』
カティは素っ頓狂な声を上げた。
それが何故かというと、ミランダと邪神を崇拝する男が戦っている間に、おっさんはある場所に移動していたのだ。
「……邪神……ってのがいるから、お前は人を殺すんだろ?」
「あ?」
おっさんの声に反応して、男は顔を向けた。
おっさんは今、黒い大樹の下に立っていた。
そしておっさんは、聖剣を両手で構える。
普段、木を伐採するときと同じように……だが、そのときよりも強い力を込めて、
「なっ、て、テメェなにを!?」
これが邪悪な気配の発信源であるのなら……。
「やっぱり、伐採するべきだろ」
おっさんは樵なのだ。
戦いが本職でない樵にできること、それはもちろん伐採だ。
だからおっさんは、この邪悪な大樹に剣を振る。
「ふんっ!」
パンッ!
障壁のような物に、聖剣は弾かれた。
「は、ははっ!
驚かせやがって!
そうだ。
たかが人間の、ただのおっさんの攻撃が、邪神様に当たるはずがない」
男は人間らしい焦燥感と安堵感を見せた。
対しておっさんは冷静だった。
「ああ、確かに俺はただのおっさんだがな……」
そしてもう一度、剣を振る。
「――樵に切れねぇ木はないんだよ!!」
パアアアアアアン!
その一撃に、邪悪な大樹を包んでいた障壁が消え去った。
「なっ!?
じゃ、邪神様を守る守護壁が!?」
「……障壁だか守護壁だかわからねえが……」
そしておっさんは、さらにもう一度、剣を振り上げる。
「や、やめろおおおおっ!」
男は大慌てで疾駆する。
「余所見してんじゃないよ。
あんたの相手はあたしだ!」
だが、ミランダに行く手を阻まれた。
そして、
「おらっ!!」
眩い光に包まれた聖剣が黒い大樹に、深い傷跡を付けた。
だがそれでもまだ倒れる気配はない。
おっさんは思った。
剣ではダメだ。
斧があれば……樵として最大限の力を発揮できるのにと……。
「うん?」
すると、おっさんの心に反応するように聖剣が強い輝きを放った。
そして……次第に形状を変えていく。
『え、え!?
せ、聖剣の形が!?』
その光景を見て、聖剣の妖精であるカティすらも戸惑った。
何せ聖剣だったものが、
「斧になったな」
『なんでそんな冷静なんですか!?
聖剣が聖斧になっちゃったんですよ!』
そう。
剣が斧へと形状を変えたのだ。
「理由はわからないが、これはありがたい。
樵にとっての商売道具はやっぱりこうじゃないとな!」
おっさんは確信した。
これでもう伐採できないものは何もない。
おっさんは……正真正銘、樵として最強の聖斧を手に入れたのだ。
「いくぜええええええええええええええええええええっ!!」
そしておっさんは、今までの樵人生の中で最高の一撃を邪悪な大樹に叩き込んだ。




