リルム、心配する。
活動報告に1巻発売記念のSSを掲載しています!
本編とは直接関係な物語になっていますが、
よろしければ合わせてお楽しみください。
「ししょう……」
リルムは不安そうな声でおっさんを呼んだ。
「どうしたんだ?」
「……おかあさんは、だいじょうぶでしょうか?」
貧民街に冒険者が向かったことで。
ミーアが荒事に巻き込まれないかを心配しているようだ。
「リルム。
ミーアは家にいるのか?」
「いえ。
きょうからしごとをするからって。
あたしといっしょにいえをでました」
「そうか……」
もう身体に問題はないはずだが。
病み上がりである以上、心配なのは当然だ。
「リルム、安心しな。
冒険者なんてやってる奴は、確かに荒くれ者が多いけどね。
ギルドから正式に依頼を受けている以上。
無関係な者達に危害を加えたりはしないさ。
もし故意に問題を起こせば、冒険者ライセンスを剥奪されちまうんだからね」
表情を曇らせるリルムを気遣ってか。
ミランダが冒険者について説明してくれた。
「そうだと……いいんですけど……」
しかし、母を想う少女の憂いが晴れることはない。
『勇者様。
一度、貧民街の様子を見に行きませんか?』
『う~ん……そうだな……』
カティに言われて、おっさんは逡巡する。
まだ仕事が途中ではあるが。
魔法を使えば、貧民街まで一瞬で移動できる。
ミーアの顔を見ることで、リルムが安心できるなら……。
「なぁ、リルム。
一度、貧民街に戻るか?」
「でも……ししょう……。
まだ、しごとが……」
「今のままじゃ、ミーアのことが気になって仕事どころじゃないだろ?」
「……すみません」
狼耳をペタンとさせて、申し訳なさそうに謝るリルム。
同時にそれは、少女がおっさんの提案を素直に受け入れた証でもあった。
「いいってことだ。
じゃあ早速行くか!」
「はい――あ、でも!
ししょう、ごはんはたべてください。
おなか、すいてますよね?」
師匠を気遣う弟子。
いい子だ。と素直におっさんは思う。
本当は直ぐにでもミーアの無事を確認したいだろうに。
「リルムちゃん、お待たせ~!」
丁度、サラリナの料理も完成したようだ。
「お、料理が来たな。
ならリルム、貧民街へは食べてから――」
今回の料理もまた酷い。
赤紫色の固形物が皿にポンとのっている。
何をどう調理したら、こんな不条理な料理が生まれるのだろうか?
正直、おっさんは見ただけで食欲が減退していた。
「わ~、とってもおいしそうです!」
「でしょ~!
リルムちゃん、遠慮せず食べてね!」
おっさんの弟子と、酒場の看板娘が、おかしな会話をしている。
ミランダは頭を抱えていた。
酒場の冒険者たちは、未知の料理に挑む少女の姿に釘付けになっていた。
その愚行とも思える蛮勇を見届けようということのようだ。
「それじゃあ、いただきます!」
あ~ん、もぐもぐ。
躊躇なく、ご馳走でも味わうように、堪能するように噛み締め。
ごっくん。
しっかりと咀嚼された。
その食べっぷりは最早伝説。
この直後、竜撃亭には驚愕と喝采が犇めいたのは言うまでもない。
そして食事の後、おっさんたちは、ムーブで貧民街に移動した。
※
一方その頃。
リルムの心配を他所に、ミーアは仕事に励んでいた。
彼女は決まった仕事を持っているわけではない。
だが一つ――確実に収入源になる特技があった。
彼女の技能――心読。
相手の心を読む、ミーアだけが持つ特別な技能だ。
この力を使うことで、彼女は貧民街においてもなんとか生計を立て、生き抜くことが出来た。
この希少な力に頼ってくる者は、貧民街にも少なくはなかった。
たとば今も。
「どうだいミーア?
こいつらは嘘を吐いているかい?」
「いえ、大丈夫そうです」
彼女は商談の場に立っていた。
雇い主は貧民街の骨董屋だ。
こういった店では紛い物を本物だと偽る客が多い。
だからこそ、相手の心を読むことが出来るミーアの力はあてにされていた。
商談が終わると、ミーアに金が渡された。
「体調はもういいのかい?」
「ええ、すっかり。
また力がいるようなら声をかけてください」
「ああ、その時は頼むよ」
仕事を一つ終わらせたミーアは娘のことに思いを馳せる。
リルムにはずっと苦労ばかりかけてしまった。
だからこそ、今日は娘の好きな食べ物をいっぱい買ってあげよう。
今日は町までリルムを迎えに行くのもいいかもしれない。
そんなことを考えていると。
「……?」
見慣れぬ顔の男たちが、周囲を窺いながらコソコソと貧民街を歩いてる姿が目に入った。
一般市街から来た者たち――いや、格好からするに冒険者だろうか?
不審に思いミーアがその場から立ち去ろうとすると。
「おい、お前!」
タイミングが悪いことに、男たちに呼び止められてしまった。




