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リルムのお勉強

2月14日 更新1回目

今日も何度か更新予定です。

 全ての創造者であり、創造神と言われるアーリアラは無から世界を創造した。


 それが始まりの天地――エルファード。


 エルファードにアーリアラは生命を創造した。

 それが天使や人間――今の時代の礎となる生命だ。

 この頃の生命には死という概念はなく、神と共に永遠を生きる存在として生み出されたらしい。

 そして、生み出された生命には自我があった。

 自我を持った生命は意志を持ち、独自に行動を始めた。

 時にそれは争いの種になる事もあったが、アーリアラは生命を見守った。

 自分の子供たちとも言える生命を信じたのだ。

 神と共に永遠の時を生きた生命は、次第に大きな力を身に付けていった

 我々は神を超えることが出来たのではないか?

 傲慢な生命たちは神に戦争を挑んだのだ。

 暴力で神の支配すらも企んだ人の傲慢は、アーリアラの怒りに触れ――創造神は新たな生命を、もう自身の対となる神を生み出した。


 神の名は――破壊神ケルティア。


 ケルティアの力が繋がっていた天地を乖離し世界は崩壊。

 神と人との共存は終わった。

 それと同時に生命に寿命と死が与えられることとなった。

 だが、地に堕ちた愚かな生命たちを神は見捨てはせず。

 さらに7柱の神を創造し地に堕ちた人々を見守らせている。

 天地が乖離した後に地上に残された大陸の一つが、おっさんたちの住むこのクルクアッド大陸と言われている。




        ※




「要するに、神様ってのはめっちゃすごい力を持ってる存在ってことだ」

「……かみさまって、すごいです……!」


 リルムは心の底から関心していた。


「……ししょう……。

 どうしたら、かみさまに会えますか?」

「なんだ?

 リルムは神様に会いたいのか?」

「……かみさまはすっごい力をもってるんですよね……?

 ならあたし……おねがいしたいことがあるんです……!」


 いったい、何を願うつもりなのだろうか?

 軽い願いではない。

 そうリルムの重々しい表情が語っていた。


「……う~ん。

 神様に会うのは難しいな」

「……そらの上に……いるんですもんね」」

「リルム、人はね。

 そう簡単に神様に頼っちゃいけないのさ。

 なんでも神様が解決してくれたら、誰も努力しなくなっちまうだろ?」

「……そう、なんですか……?」


 ミランダの言う通りだ。

 おっさんはそう思った。

 だが、悲しそうに俯くリルムを見ていたら、


「でも、神様には祈ることが許されてるんだ」


 自然と、こんな言葉を口にしていた。


「祈る……?」

「そうだ。

 神様ってのは天の上からでも人を見守ってる。

 だから、一生懸命祈っていれば願いを叶えてくれるかもしれない」

「いっしょうけんめい……。

 そうすれば、あたしのおねがいはかみさまにとどきますか?」

「届くかもしれない」


 絶対に届く。

 本当は、そう言ってやりたかった。

 だが、おっさんは嘘は吐けなかった。


「……」


 そんな二人のやり取りを、ミランダはなんとも言えない表情で眺めている。


「……ししょう、教えてくれてありがとうございます!

 あたし、かみさまにおねがいしてみます!」

「そうか。

 願いが、叶うといいな」

「はい!」


 それがどんな願いなのかを、おっさんは知らない。

 でも、リルムがこんな必死で叶えたいことがあるのなら、叶ってほしいと。

 おっさんは思っていた。

 娘のこと以外はどうでもいい。

 基本的にはおっさんはそんな人間だ。

 だが、関わりを持ってしまった者をなんの理由もなく見捨てられるほど、非情でもないようだ。


「あの~……神様に祈るという話をしているところ大変恐縮なのですが、

 その話は人が勝手に作ったお話なので、全然正しくありませんよ」


 遠慮がちに話を切り出してきたのは妖精カティ。


 ――え? そうなの!?


 おっさんが思わず驚愕してしまう発言。

 思わずカティに目を向けてしまった。

 祈れば届くと言ってしまったばかりのため、なんだかリルムに申し訳ない。


「おい、アンクル。

 そんなびっくりした顔してどうしたんだい?」

「あ、いや……む、虫がいた気がしたんだ」

「ああん!?

 うちは食料扱ってんだよ!

 虫なんていてたまるかいっ!!」

「あ~いや、いなかった。

 気のせいだった」


 おっさん、女主人に凄まれ発言を訂正した。

 ちなみにミランダは怒らせるとすごく怖い。

 それこそドラゴンが泣いて逃げ出すレベルだ。


「勇者様、気になってますね?

 この世界の正しい歴史を、私が教えて差し上げましょうか?」


 ここぞとばかりにドヤ顔をするカティ。

 おっさんは思った。

 こいつ、うぜぇと。


「では教えて差し上げましょう!

 まずこの大陸が生まれ――」

「さて、腹も膨れた。

 そろそろ行くとするか」


 カティが語り出す前に、おっさんは席を立った

 するとドヤ顔の妖精が、おっさんの肩からズルッと転がり落ちる。


「あうっ……ゆ、勇者様!

 聞いてくださらないんですか!

 ただしい歴史が気にならないんですかっ!」


 正直、少し気になる。

 だがこの妖精にドヤ顔されるのは腹立たしい。

 だから聞かない。

 どうせ正しい歴史を知ったところで意味はない。

 人々の間で、すでに共通の認識が出来上がっているのだから。

 仮にそれは違うなどと声を大にして言ったら、教団の人間に目を付けられる。

 この町にだって、アーリアラ教団の司祭はいるのだから。

 ぐぬぬと涙目になる妖精を無視して、おっさんは代金を払った。


「ご馳走さん。

 また近いうち来るよ」

「とっても、とっても美味しかったです!」

「おう、またいつでも来な!」


 ニッっと気持ちよく笑うミランダ。

 リルムは照れたみたいに、不器用に笑いを返した。


「あ、もう行っちゃうの!?」

「サラリナ、また来るよ」

「約束だよ!

 今日は全然話せなかったから!

 わたしの料理も食べてもらいたいし!」

「あんたの料理なんて、まだ客に食わせられるもんじゃないよ」

「だから、アンクルさんに食べてもらうんじゃん!」


 なんだそれは。

 この酒場の看板娘であるサラリナだが、料理の腕前は絶望的。

 つまり、おっさんは人柱にされるようだ。


「……あの、あたしも食べさせてもらってもいいですか?」

「え……?」


 おっさんが焦っていると、リルムがそんなことを言った。

 あまりにも命知らずの発言だ。

 おっさんは大慌てでその場で膝を突き、


「リルム、やめておけ。

 はっきり言って、サラリナの料理はクッソマズいんだぞ?」


 小声で伝えた。

 だが、リルムはそんなことは気にした様子もなく。


「だけど、おなかはふくれますよね?

 あたし……おなかがすいているよりは、いっぱいでいたいから」

「……リルム」

「それに、あたしがおなかいっぱいなら、その分、おかあさんにもおいしいものを食べさせてあげられるから……」


 おっさんの家も決して豊かではなかった。

 だから食べる物がなくて苦しんだこともある。

 だが……想像出来てしまった。

 まだ10歳とはいえ、リルムの身体は小さく痩せ細っている。

 この少女の味わったことがある飢えの苦しみは、きっと自分とは比にならないほどのものなのだと。


「はっ……うちの娘の死ぬほどマズい料理を食べたいだなんて。

 ま、残飯を出さずに済むならうちとしてもありがたい。

 でもね、ただで食っていいのは娘のマッズい料理だけだよ!」

「母さん、マズいマズい言い過ぎ!

 でも、食べてくれるなら大歓迎だよ!

 味だってなるべく美味しく作るから!」

「あ、ありがとうございます!

 あの……本当に、いいんですか?」


 狼人の少女はペタンと耳を垂らして、おっかなびっくりと確認する。


「腹壊しても自業自得だよ。

 それでもいいなら、好きにしな」


 ミランダが冷たくいい放つ。

 これはワザとだ。

 豪快な女主人だが、決して冷たいわけではない。

 ただ、貧しい子供全ての面倒を見ることなどできない。

 そんな責任を持てるはずがない。

 だからこそせめて、娘の料理だけでいいならと。

 そう伝えたのだ。


「ミランダさん、サラリナさん!

 ありがとうございます!

 どんなごはんでも、あたしうれしいです!」


 尻尾をふりふりするリルム。

 だが、おっさんは心配だった。

 サラリナの料理は本当にマズい。

 食べたらドラゴンすら気絶するのではないかと思うくらいだ。

 マズい料理を美味しくする魔法とか、覚えられないかな?

 笑顔の花を咲かせるリルムを見ながら、おっさんはそんなことを考えていたのだった。

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『フライパン無双~とある呪いを解く為に、冒険者になりました~』
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