92歩目「女神A尋問記録」
木乃美とマルスについて話し合う者達は、他にもいた。ただし誰もが想像できない様な場所でだが。
白を基調とした荘厳な建物内で中央の高い場所、証言台に立たされた女性がいた。輝く黄金色の髪にシミやしわ一つない肌、完璧なバランスの取れた体、およそ彫刻のような彼女は一般にはこう呼ばれていた。
「これより女神Aに対する尋問を開始する。お前にはテステリアシステムに対してのハッキング及び実験条項への違反容疑がかけられている。何か申し開きはあるか?」
問いかけるのは正面、裁判官の位置に立つ男だ。彼もまた数多の芸術家がどれほどの年月をかけても作り上げられないほどの完璧さを持っている。彼だけではないこの場にいる誰もかれもが、いくらか差はあれど完璧なのだ。一般的に彼らは神々と呼ばれる存在なのだから。
「申し開きも何も偉大なる主神どのや、そちらの方にいる計算や実験の神様ならともかく、システム構成にかかわっただけの私が、誰にも気づかれず!ここに負わす全員の防御システムを掻い潜って!トンデモナイ異分子を投入し!さらにばれない様に元に戻すなんて所業、出来ると思いまして?」
ややヒステリーに言い返す女神Aに対して周りを取り囲む神々からも、確かにその通りというような声が漏れ聞こえる。
「……確かにそうだな、我々も本当にそのようなことができるとは思っておらぬ。では此度のことはどう見る?」
「システムのバグでしょ。大なり小なり英雄って人種は精神が不安定だから、その精神を補完するような能力配布になっていたでしょ?それが心の病という存在を補完しきれずあのような規格外の能力を生み出した。私でも推測できることをなぜ問いただすのです」
「理解しているかどうかを確かめただけだ。今回の事情はシステム側の問題として、かの二名の監視を強化、女神Aに対する処罰は保留とする。よろしいか?」
周囲の神々が頷き、やっと解放された女神Aは大きく息を吐いた。
彼女を選んだのは本当に気まぐれだ、特別な理由はない。自分の中での美貌レベルが玩具として見合っていて、多少不幸な女の子。それだけのはずだった。
「(確かに彼女を英雄にした時の手ごたえは変だったけど、まさかこんなことになるなんて思わないじゃない)」
例えるならば、彼女は重かった。一人の英雄の能力の重さは大体決まっているが、彼女は異様に重かったのだ。まるで数十人分の英雄を一度に作り出したような。
女神は今一度テステリアの中の彼女を見る。
「私はもしかして……取り返しのつかない毒を解き放ってしまったの?」
やっと題名回収です。