9歩目「青VS弩のアッシュ」
爆煙が晴れるより早く、青髪の女性が何かを地面に叩きつける。こい群青色の煙が周囲を満たし視界を遮る、しかし弩の男アッシュはそれでも負ける気はしなかった。
アッシュは田舎の狩人の家の次男坊としてうまれ、何の疑いや迷いもなく飛び方を習うひな鳥と同じように親から狩人としての生き方を学んだ。彼は兄同様に優秀な狩人になったが不幸であったのは兄の方がより優秀な狩人だったことである。彼の技量が劣っていたのではない、彼自身も十二分に優秀な狩人であった、彼の世界では比較的新しい弩を両腕で使いこなし通常の狩人より数倍は上手く獲物をしとめた。
ただ彼の兄は更にその上、のちの伝説の狩人と尊敬されるほどの逸材であった。優秀なだけの彼が勝てるはずもなく、価値観の狂ってしまった周囲は彼の兄ばかりをほめ、彼を未熟な狩人と認識してしまった。それは同じ猟師であり彼らの師匠でもある両親も同じだった。少し考えればアッシュも十分優秀な狩人であることが分かったはずなのに、無駄に優秀な兄と比べてしまった結果両親は死ぬまでアッシュを半人前と扱ったのだ。
彼がこの世界に召喚されたのはちょうどそんな時であった。
彼の能力は弩弓の扱いが上手くなる物に、魔法の弩弓が二つのセット。あくまで扱いが上手くなるだけであり射程距離や威力が増す訳ではないが彼は持ち前の狩人の腕でそれを補っていた。故にこの煙の中でも動くものを探知して矢を撃つことなど容易い。
「そこだ!」
煙の中を動く気配に反応して、アッシュは弩を構え矢を放つ。矢は吸い込まれるように標的に当たり標的は音を立てて倒れた。
「他愛ない」
そういいつつも、彼は弩の狙いを外さない。手負いの獣ほど恐ろしいこと仕留めたと思っていても油断してはいけないことを彼は良く知っていた。
問題は一つだけ、彼がそう動くであろうということがすべて読まれていたということだが。
「ぐっ」
突然アッシュの足に痛みが走る、彼の足をがっしりとここにあるはずの無い物、トラバサミが挟んでいる。同時に天井から捕り餅のような物が彼の両腕に伸し掛かった。矢を無尽蔵に補給できるとしても、それは機構が正常に動けばの話、狙い通りに腕に絡みついた餅は弩を正常に動けなくしてしまう。同時に矢を打ち込まれた物、囮の袋からほのかに甘い香りが香った瞬間。アッシュの意識は深い闇に飲み込まれていった。
「勝負は一手目を打った瞬間もう決まっているようなものですよ.そして、得手不得手も理解しているつもりです。魔法は緑ちゃんに任せましょう」
煙幕が腫れていくのと同時に世界は三度ブレた。
残る魔法使いの男の前で、青髪の女性は消えて代わりに緑の髪の小さな少女が現れた。
「おじさん、魔法使いなんでしょ?もっと魔法見せてよ」
ツインテールを揺らしながら少女は笑う。敵を目の前に臆することなく妖精のような笑顔で。
あんまり頭脳プレイに見えない。
次は魔法戦です。