56歩目「ウンディとフレイア」
ウンディとフレイア、彼女たちは同じ世界の出身で彼女たちの世界では精霊族と呼ばれる種族であった。ウンディが水の精霊族でフレイアが火の精霊族である。彼らの世界の精霊族とは自然の要素を操る素養を持った人型の種族でありその世界の覇権種族ではなく世界の片隅でひっそりと暮らす忘れられた種族でもあった。お互いの種族のことすらこの世界で出会うまで伝説の存在だと思っていたくらいだ。
彼女たちが子供の頃、大きな戦争があった。彼らの中で伝説の頂点に立つ存在、星の精霊族の遺跡を巡った四ヵ国による世界大戦。覇権種族たちはお互いの支配地域にある精霊族たちやほかの種族を動員し自身の国の覇権を握るため戦った。
その結果それぞれの国民の数を半数以下に減らし、さらに精霊族たちは十分の一に減ってしまっていた。戦争が終わったのは一つの事実が判明したからだ、彼らの目指した星の精霊族とは覇権種族の先祖そのものだったのだ。彼らは同じ種族でありながらそうとは気づかず相手を侵略者と思い込み戦い続けていたのだ。
戦争の結果数を減らした精霊族は一つの結論に達した、外から血を呼び込むことを決意したのだ。戦いに駆り出された年頃の男たちが死んでしまい、村には若い娘と老人しか残っていない。種族を守るため、当人たちの望む望まないに関わらず婚姻をすることになったのだ。
彼女たちがこの世界に召喚されたのは、奇しくも二人とも婚姻の前日のことであった。
ウンディが痛みで集中力を乱すと、掃除屋の顔を覆っていた粘度の高い水があっさりと唯の水に戻る。フレイヤはウンディをかばう様に前に出て手の炎をより大きくするが掃除屋たちはもう怯んだ様子もない。
「なるほど、痛みでこうも簡単に力が解けるようでは戦いには向いていない」
「ち、近づくな!丸焦げになりたいの?」
フレイヤがさらに大きく炎を燃え上がらせ足元に叩きつけて炎の壁とする。これならばいくら相手が早くても突破することは出来ないはずだ。
「これなら……足止めくらい」
「ごめんね……フレイアちゃん」
「いいから早く手当てを!」
フレイアが一瞬目を離す、その瞬間雷虎は背後に高く飛ぶ。その下には盾を斜めに構えジャンプ台の様に構えた男。
「フレイアちゃんあぶな――」
ウンディが危険を知らせる隙も無く、盾を足場にしてジャンプしさらに天井を蹴って強襲をかけた雷虎が油断したフレイアに襲いかかる。悲鳴を上げる暇もなくフレイアは喉を切り裂かれた。
「この……この!!」
喉を押さえて声にならない声をあげて弱弱しく悶えるフレイアにウンディが痛みを押し殺し血液を使って雷虎に攻撃を仕掛ける。しかしウンディが操る血よりも圧倒的に雷虎の方が早い。
「がはっ」
「覚悟は良し、機転も悪くない。だがその程度では戦場では生き残れない。戦場で弱者は唯の罪だ」
深々と雷虎のナイフがウンディの胸に突き刺さる、完全に急所をとらえた一突き、ウンディの瞳からナイフを掴む腕から急速に力が抜けていく。
「案ずるな、お前の先にも何人も逝った、これから先にも何人も逝く。寂しくはないだろう」
ウンディとフレイアを含め、この場で六人の女性たちがその若い命を落とした。
二人の稼いだわずかな時間が勝敗を分ける……かも。