49歩目『軍神』
「数年ほど前だったかの。王国に強大な英雄の兄弟が現れたと聞く。その能力は二人合わせて至高天に届くほどとすら言われた」
こう話している間にも、フランシスの脳内で数手いや数十手は相手に攻撃を打ち込んでいるがそのどれもが致命傷は愚か掠り傷にすら届かない。当然だろう、もし彼が推測通りの人物であるのならば、フランシスのみならず『近接戦』で誰も彼に勝てるはずはないのだ。
「兄は巨漢の男、弟は小柄彼らは王国の自分たちへの待遇に不満を訴え、王国の誇る英雄魔法使い達と決闘しその半数を壊滅させながらも最後には命を落としたという」
「この国、いやこの世界では同課は知らぬが、英雄と言われる存在はそう呼ばれるだけの待遇が必要なのだ。この国の連中はそれを何もわかっていない」
王国で魔法使いと近距離戦の英雄が決闘した場合の勝率は8:2だと言われている。ただしこれは人数が同数で且つ距離が近距離武器が十歩以内で届く距離での話だ。勝率は距離が離れれば離れるほど、人数差が多くなればなるほど、絶望的に近接英雄に不利に働く。その不利を押し通して10人の魔法使いのうち5人を倒したとなれば、それは魔法使いがよほど未熟だったのか近距離英雄が並外れて強いかどちらかだろう。中には強力な加護で飛び道具や魔法の類を一切無効化してしまう英雄もいるが、それは例外としてだ。
「弟の能力は『雷神』その名の通り雷のごとき速さを手に入れた速さの最高位の英雄。そして兄の能力は……軍神」
「その通り、力が最も上昇する能力で同時に高い戦術眼も身につく。まさに近距離戦でほぼ無敵と言っていい能力……英雄とはこういう力の持ち主だとは思わぬかフランシス翁」
地龍の顔に初めて強い怒りがうつる。
「英雄とは断じて、塔に籠って日夜怪しげな実験を行う連中や、可笑しな妖術をばらまく輩のことではない!不要だとは言わん。だが日々王侯貴族紛いの暮らしをする奴らとに比べて我らの扱いのこの不当さはどうだ!前線で戦う我らと彼らになぜここまで差がつく!!」
軍神とて万能の能力ではない。王国が証明したように遠距離からの飽和攻撃で対抗できる、あるいは特等星級の特定武器の特化能力ならば互角の戦いができるかもしれない。そこまでいって初めて五分なのだ。
「翁よ貴方ならばわかるであろう?そこまでの力を持つ翁ならば!自身の評価が不当に扱われる無念を!能力が無意味に低くみられる屈辱を!でなければ」
軍神など特等星級の能力には前提条件がある。それは元々その才覚があることだ、天賦の才であるか努力の賜物であるかは関係ない。自身のその一芸に絶対の自信を持って初めて得られる能力なのだ。
「技術のみで我の剣を12合も受けきれるものか!」
「……やはりそこまで読まれたかのう」
周囲の掃除屋たちからオウともううとも付かぬうめき声が漏れる。彼らの前提としてフランシスも英雄の能力を使って旗を操っているのだろうと思っていたのだ。いや英雄ならば考えるまでもなく大前提として、英雄と戦うときは相手が能力を使ってくるものなのだ。まさか技量のみで地龍の絶技を受けきっていたとは夢にも思っていなかったのだ。
「翁の能力は最盛期の復元でしょう。貴方は老人の肉体ながらその肉体能力は最盛期のそれだ」
「……さすがは軍神、ご明察じゃな」
地龍の読み通り、フランシスの本来の能力は『最盛期の復元』筋力や速度やスタミナなどが自身の最盛期の物に戻ると言う能力だ。当然過去に最盛期が無ければ意味のない能力であり、また見た目が最盛期に戻る訳でもない。
フランシスは内心、歯噛みをする。せめて自分の能力だけは知られるわけにはいかなかった。相手がこちらにまだ未知の能力があると思わせていればこそ、未だ勝機も見えたのだから。
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