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ナインライフス~不幸な少女と最弱魔王~  作者: 狐狗猫
第四章「アンデット戦争」編
298/327

77歩目「トゥルーブラッド」

(昨日も書きましたが)書き初めです。


 両開きの巨大な扉に、マルスが手をかけようとする。

「扉に触れることは不要だ、招かれざるとはいえ客人は客人。家人(ホスト)としてはドアを開けるくらいはさせていただこう」

 マルスの手がドアノブに触れようとした瞬間、威厳のある声がそれを拒んだ。

 同時に扉が軋んだ音をたてながらゆっくりと開いていく。

 開け放たれたドアの先は一段と暗い空間だった。

 夜間だというのに窓にカーテンがかかっているらしく、月明かりで微かに窓が分かる程度で声の主の姿はマルスには見えない。

「入りたまえ、それとも何もせずに帰るつもりかね? それはそれで私は対処に困ってしまうのだが」

「お邪魔する」

 いつのまにやら髪の毛を引っ込めた灰が堂々と部屋の中に入り、マルスも一歩遅れて後に続く。

 二人が歩いていくのに合わせて青白い明かりが前触れもなく二人と部屋を照らしていく。

 そこは長い広間、いや謁見の間とでも言えばいいのだろうか?

 二人はややかび臭いふかふかした赤い絨毯の上を歩いてまっすぐ部屋の奥へ、王座ともいうべき場所へと向かっていく。

 段々と距離が縮まるにつれて、玉座に座る人物と部屋がゆっくりとマルスにも見えるようになってきた。

 長い部屋の壁沿いには等間隔に巨大な鎧が並べられている。

 青白い光に照らされた鎧はピカピカに磨かれており、その手には様々な武器が握られている。

 マルスには中に誰かがいるようには見えなかったが、同時にそれらから視線を感じたような気がした。

 行きつく玉座には壮年の男性が座っている。

 黒いマントに黒い燕尾服そして青白い顔、憂い顔で頬杖をついている姿は随分と絵になっていた。

 距離にしてマルスの足で十数歩ほどの距離で灰が足を止めた。

「貴方が……ここの親玉?」

「いかにも……ようこそ招かれざる客人方。我がはロード・シルバニア、偉大なる不死の王よりこの街の代官を任されし者にして真なる吸血鬼(トゥルーブラッド)が一人、将軍と三長老も兼任しておる」

「随分と多忙だな……死体不足か?」

 シルバニアを眼にしても臆さない二人……マルスの方は半ば虚勢なのだが……その様子にシルバニアは少し機嫌を良くしたようで姿勢を正す。

「雑兵用の死体ならば数え切れぬほどある……だが有用な死体や長老(エルダー)と呼べるほど長い時を過ごした存在はそうは居らん……真なる吸血鬼(トゥルーブラッド)となれば尚更だ」

「さっきから言っている真なる吸血鬼(トゥルーブラッド)とは?」

「……人の世にはそのような知識すら失われてしまったのか。吸血鬼(ヴァンパイア)は血を媒介にして人間から転化させることができる。それは知っているな?」

「ああ、噛まれただけでなるという話もあれば、特殊な儀式が必要と言う話も聞く」

 正直このようなことを話している場合ではないのだが、人の世界で失われた情報と言うのは貴重だ。

 情報を知っておくことで何かしら有利になることが有るかもしれない。

真なる吸血鬼(トゥルーブラッド)は初めから吸血鬼として生まれた存在だ。純粋種(オリジン)と呼ばれる存在から生み出される……いやいや失礼、このような講釈を垂れている場合ではなかった」

「俺も不思議に思っていた、なぜそのような情報を俺たちにぺらぺら話すんだ? 精々帰ったら有用に使わせてもらうが―――」

「―――はっはっはっはっは」

 マルスの言葉を遮る様にシルバニアが笑いだす。

「何が可笑しい?」

「いや、気を悪くしたのならば失礼……この場から帰れると思っているとは思わなくてな」

 シルバニアが静かに腕を上げる。

 途端に一糸乱れぬ動きで周囲の鎧が一歩マルスたちの方に踏み出した。

「……やっぱり動くのか」

「引き裂く者……いや多椀の姫君を警戒して用意した動く鎧(リビングアーマー)だったのだが……不要だったかな?」

「たわんのひめぇ?」

 何処か残念そうなシルバニアの視線をマルスは辿る、案の定それは灰を捕らえていた。

「どうして……そうおもうの?」

 ここに来てようやく、部屋に入ってから一言も発していた無かった灰が言葉を発する。

 マルスにはその言葉がどこか楽しそうに感じた。

「君は我が配下をあれだけ蹴散らしておきながら、この部屋には一切手を出せなかった。つまりこの部屋に対して干渉できなかったということに相違ない」

 灰は黙って話を聞いている、沈黙を肯定と受け取ったのかシルバニアは更に上機嫌になる。

「つまり! 君は私よりも不死者(アンデット)として格下だということだ。さらにここに居る我が護衛兵たちの武器は不死殺し(アンデットキラー)だ、本来裏切者や不届き者を処刑するために武器だが君にはうってつけだろう? ああそちらの少年も安心してくれたまえ、あの武具類は不死殺し(アンデットキラー)である前に十二分に手入れされた名品だ。痛みを感じる間もなく首を落とすことも造作もない」

 ついには立ち上がり身振り手振りを交えて説明をするシルバニア。

「さあ、どうする? 投降するというのならば処遇を考えない訳でもない。先ほども言ったが優秀な人材はあるにこしたことはないからね」

 すでに勝利したかのような勢いで話すシルバニアに対して灰は小さく笑って答えた。

「くすっ……この部屋に手を出さなかったのはね?」

 灰が小さく手を振ると同時に鎧の一つが髪の毛に拘束されながら壁へと叩きつけられた。

 ガラガラと屋敷が揺れて埃が天井から舞い降りてくる。

「……貴方が逃げない様に……希望を与えるためだよ」

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 書き初めとして今年から最低1500文字以上(目標2000文字)で更新を目指します。

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