75歩目「優秀な化け物」
本日二回目、そして今年最後の更新です。
「だとしたらこちらの動きは向こうに筒抜けってことか?」
「そうじゃ……ない」
くすりと灰が笑う。
動作の一つ一つがマルスにどことなく恐怖を感じさせる。
「向こうがこっちの気配を感じる様に……こっちもあいつ等の気配を感じ取れる……こちらに有利」
「だがそれは向こうも同じってことじゃないのか?」
「ううん」
再びくすりと灰が笑う、マルスが焦っているのが楽しいのか。
あるいは現状を楽しんでいるのか。
「こっちの方が優秀……『化け物』としてね」
灰が三日月型に口を歪めて笑顔を作った。
灰の言ったことは事実だった。
巡回している敵は灰の気配を感じて警戒しているようではあるが、正確な位置までは把握できていないようだった。
灰の冷たい手で引かれるままにマルスは物陰から物陰へとかけていく。
まるで行動部や側頭部に目がついているかのような状況把握能力で灰はあっという間に中庭を横断しきってしまった。
「ここからは……少し怖くなるよ」
「どういう意味だ?」
「小さい気配が沢山……小動物のお化けかな?……それを見張りとして配置しているみたい」
確かにそれは恐怖だ。
周囲からは何者かの視線や気配を感じるのに誰もいない。
必死に周囲を見回しても誰も見つけることは出来ないが確実に複数から見られているのだ。
事実を知らなければ数日で発狂してもおかしくない。
「それでどうする? 恐怖演出は兎も角として見つかったら俺たちの計画も終わりだぞ?」
「分かってる……だから言ったでしょ?」
言葉と同時に肺の髪の毛が生き物のようにうねり出した。
「怖くなるって」
灰の髪の毛が扉の隙間からどんどん入り込んでいく。
一体どういう仕組みになっているのか分からないが髪の毛自体がどんどん伸びているようだ。
掴まれているマルスの腕にも時折絡みついたりするので、背筋がぞくぞくしてきてうっとおしい。
振り払っても振り払っても絡みついてくる、むしろ振り払った分だけ余計に絡みついてくるので今は絡みついても無視している状態だ。
その状態がしばらく……数ミニほど続いただろうか、灰がドアを突然開け放った。
「おい、見つかるんじゃかったのか?」
「大丈夫……全部仕留めたから」
か細い蝋燭の明かりだけが支配する館の中、ドアの先は恐らく厨房だったのだろう、巨大な包丁や鍋なんかが壁に飾られている。
今は壁中を髪の毛が縦横無尽に駆け巡り、その髪の毛に巻き込まれた虫や動物の遺体……いや不死者の残骸が飾られているためとても厨房には見えないが。
いつもお読みいただきありがとうございます。
一年間(何度か間は空きましたが)お付き合いありがとうございました。
来年も『ナインライフス』をよろしくお願いします、良いお年を。




