73歩目「一方潜入チーム」
『Side マルス』
時間はラドリオが攻撃を仕掛ける前までさかのぼる。
ラドリオ達が敵の注意を引いている間、マルスと木乃美がどこにいたかと言うと彼らは空の上に居た。
「……まだかな?」
「まだだろう……それにしてもあんまりくっつくな」
マルスたちが乗っているのはアルトのドラゴンホースだ。
本来ドラゴンホースは気難しい生き物で、主と決めた存在以外は背に乗せることはないのだが。
アルト曰く
「こいつはちゃんと訓練させているから、状況次第じゃ他人を乗せることもできるぜ。こいつを持っていけそれで言うことを聞くはずだ」
と小さな袋を一つ手渡された。
今はアルトがきちんと命令を出してさらにその袋を持っているおかげで言うことを聞いている状態らしい。
アルトから渡された袋にはアルトの髪とドラゴンホースの鱗が一枚が入っており、この匂いでドラゴンホースに
「背中に乗っているのはご主人に連なるものだ」
と認識させることができるらしい。
「怖いのか?」
「少しね」
乗馬経験のあるマルスが手綱をとり、木乃美が後ろからしがみつくようにつかまっている状態だ。
マルスには分からないのだが、木乃美にとってはシートベルトもなく蔵もなしで生き物の背に乗って空を飛んでいる。
安全バーもなしにジェットコースターに乗っているような感覚なのだ。
さらにそのジェットコースターはコースが見えないうえにいつどのように動くか予測不可能。
木乃美がマルスにしっかりと抱き着いてしまうことも仕方のない事であった。
何とも言えない沈黙が続く中、突然眼下で巨大な光が生まれ一テンポ遅れて爆音と爆風がドラゴンホースを揺らした。
「ひゃあああああああ!」
「ぐっ! おい! その無駄なぜい肉を押し付けるな!この!」
木乃美がさらに力を込めてマルスに抱き着く。
恐怖のあまり、抱き着くというよりは頭を胸元で締め付ける様になってしまっていた。
マルスはマルスで、ドラゴンホースを操るのに必死だ。
しばらくして如何にかドラゴンホースを安定させると、木乃美が慌てて腕に力を緩める。
「あ、マルス君ごめんね?」
「……気にするな……それより覚悟は良いな?」
一瞬『離れてしまって口惜しい』などと思ったことは欠片も出さずに、マルスはドラゴンホースの頭を目的地に向ける。
首都の誰もが煙と共に吹き飛んだ門の方に注目する中、空の暗闇からマルスたちは滑るように音もなく敵の本拠地へと近づいていく。
マルスたちにとっては幸運なことに、そして敵にとっては不幸なことに空から落ちてくる彼らに気付く者は誰も居なかった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
年内完結は難しそうです。




