65歩目「上官の耳に説得」
「肉に毒が入っている? 何言ってんだお前」
「お嬢ちゃん、俺たちをからかっているのか? 薪に薬?」
「……下らねえ嘘ついてるんじゃねえ、気分がいいから一回は見逃してやる。失せろ」
青に無駄だと言われてしまったマルスたちではあったが、
「警告しなかったらそれはそれで問題になるかもしれませんが」
という青の意見に従って周囲の他の分隊にも声をかけたのだが、そこで帰ってきた答えがこれだった。
誰一人こちらの言うことなど信じようとはしない。
最近の食糧事情がここに来て響いてきた。
日程が延びたことにより、配給される食糧は減ったため傭兵たちは各自の備蓄を削ることになっていた。
かさばる燻製肉や足の速い果物や野菜などはとっくの昔に消費され、固形スープと乾燥野菜、そして噛み切るのに時間がかかる干し肉の類が残るばかりであった。
そこに来て自然の冷蔵庫とかしている納屋から見つかった新鮮な果物や穀物、そして久しぶりの柔らかいお肉(スープなどで煮込むと柔らかくなる)舞い上がらない訳はない。
普段であれば
「周囲の反応を確かめてから自分達も食べる」
頭のまわる傭兵も一定数いるはずなのだが、今回は殆どの人間が手に入ったお肉を直ぐに消費しようとしている。
下手に手元に残しておくと、何かと難癖をつけて上官に取り上げられると思ったのかもしれない。
そういう上官への不信感も相まってマルスたちの忠告を聞こうとする傭兵たちはいなかった。
上官たちは言うまでもない。
アルトがマルスを伴って小屋の中へ報告に行ったのだが
「ん? そうか分かった分かった」
「……」
「話が終わったな……ひっ……さっさとかえりぇ」
ノックして出てきたのは顔を赤くして陽気に出来上がった上官であったため、話が上へと伝わったのかすらよくわからなかった。
「どうでしたか? きくまでもなさそうですが」
「予想通りだ、他の連中は効く耳を持たない。逆に絡まれたり殴られなかったのが奇跡なくらいだ。上の連中は酔っていて話にならない、俺の報告が伝わるどころか明日の朝覚えているかどうかすら怪しいな」
報告を聞きながらビーカーの中身をかき混ぜる青にアルトがため息混じりに結果を伝える。
備蓄の薪はとうに無くなってしまったらしく灰の山になっている。
使う予定のない支給品の薪が積みあがっているがこれを使うわけには行かない。
「一先ず今夜一晩ならば私の手持ちで如何にかしましょう。明日の様子を見てから今後の方針を決めましょう。決してほかのたき火やテントに近づかないように注意してください」
またしても日にちが開いてしまいました。
明日は二日分更新いたします。
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