59歩目「罠だらけの雪中行軍」
『Side マルス』
「……寒い」
「……そうだな」
「……こんなゆっくり進んでいたら体が温まらないんだが」
「……我慢しろ」
ドラゴンゾンビ襲撃から数日が経過した。
あれから敵軍の襲撃は一切ない、正しくは襲撃は一切ない。
中にゾンビの詰まった落とし穴、棒を立ててその上にボロボロの鎧やらをきせて不死者の軍勢に見せかける罠、ゾンビによる投擲ならぬ雪玉攻撃、今までもあった足元に隠れての掴みかかる攻撃などなど嫌がらせの数々がマルスたちの部隊を襲っていた。
損害自体は微々たるもので、数人が怪我をしたり、半日ほど無意味に睨み合ったりといった被害しか出ていない。
しかし何かあるたびに軍の進軍は止まり周囲を警戒したり斥候を放ったりして逐一足が止まる。
そのたびに北風吹きすさぶ雪原で待機を命じられるのでマルスの機嫌がどんどん悪くなってきていた。
木乃美も口には出さないがかなり寒さが堪える様で口数が少なくなり手をこすり合わせるしぐさが多くなってきた。
「これは明らかな足止めだな……どうやら敵さんは俺たちに来てほしくないみたいだ」
「……そんなことは分かり切っているだろ……上の連中が分かっているのかは知らないが」
不幸中の幸いとして、周囲の警戒に意識を持っていかれたことにより木乃美たちに集中していた視線は大分霧散していた。
少なくともラドリオが奇声を上げない程度には緩和されたが、いくつかの視線はこちらを捕らえたままだ。
特に背後からの視線は明らかにこちらを監視している視線だろう。
背後から見られている以上可笑しな行動をとる訳にもいかず、マルスたちはせっせと先頭集団として一歩一歩慎重に足元を確かめながら歩いている真っ最中だった。
マルスたちにしても雪の中から動く死体にいきなり足を掴まれたり、動く死体が三匹くらい詰まった落とし穴に落ちたりしたくない。
どちらにしろ真剣に足元を探りながら進まざる負えない状況だった。
「……しかしこのままだとまずいな」
「……確かに、このままのペースじゃ相手の街やら村につくのに何日かかることやら」
「それもだが、一番の問題は」
「問題は?」
「燃料が無くなることだ」
「……それは不味いよね」
木乃美が思わず話に混ざってきた。
燃料と言うのは各分隊ごとに配布されている焚き火用の薪のことだ。
これが無くなることは寒さに弱いマルスにとっては死活問題だった。
「そんなに悲観することもないさ、確かそろそろ村が近いはずだからな」
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