56歩目「視線のいく先」
28時更新
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勲章をもらった日の夜、何かに耐えかねたかのようにラドリオが奇声を発した。
「うっひょうひい!」
「叫ぶな、びっくりしてスープをこぼす所だっただろうが」
奇声と同時に雪の積もった地面に背中からダイブするという奇行を見せたラドリオをマルスは冷めた目で見つめる。
ドラゴンゾンビの後詰がいるかと思いきやそんなこともなく、そもそもドラゴンの飛行速度についてこられる軍隊はドラゴンぐらいのものなのだ。
午後は平穏に一アワほど歩いただけで野営の準備となった。
今は一応戦時中なので平穏と言っていいのかどうかは微妙だが。
「そんなこといってもなぁ……マルスの坊やは平気なのか?」
「生家の関係上、人から見られるのは慣れている。清濁混ざり合った視線もな」
「木乃美の嬢ちゃんは?」
「えっと……あまり得意ではないですけど。気にしないようにしています、気にしても仕方がないので」
「全く逆の対処法って訳だな……って言っても俺は耐えられないんだ!」
ラドリオが喚いているのは彼らを見る周囲の視線のせいだ。
ドラゴンゾンビを二頭も打ち取った分隊に対する尊敬や畏怖の視線等比較的好意的な視線が半数程度ある。
この視線についてはラドリオもそこまで気にはならないようだ、気にならないと言えば嘘になるようだが。
得体の知れない力に対する恐怖や疑惑の視線が4分の一ほど、そして勲章を得たことに対する妬みや僻みの視線がさらに四分の一ほどだ。
中には殺気に近いレベルの強烈な視線や、明らかに『監視』をしているような視線も混じっている。
この手の視線に敏感なラドリオは
「まるで始終背中にナイフを押し当てられているみたいだ、何時刺されるかひやひやする」
と緊張の連続だったそうだ。
その緊張の糸がとうとうはじけ飛んでしまったようなのである。
「二人は感じないのか?」
「……まあ殺気っぽいのはなんどかな?」
「私は特に……闇も出てきていませんし」
「……ああー嫉妬はそっちの方面か」
ラドリオが天を仰いて、マルスも苦笑いを浮かべる。
どうやらこちらに対する嫉妬の視線の……強力な物のいくつかは『分隊の半数がタイプの違う少女であること』に関係するらしい。
傭兵連中を見ればむさくるしい男か、神経質そうな男か、軽薄そうな男しか見当たらない。
と言うのはいささか言い過ぎかもしれないが女性の比率はかなり少ない。
そこに来て分隊の半分が女性とくれば、色々と持て余した連中がそういう視線を送ってきても仕方のない事なのかもしれない。
「木乃美、あんまりテントから離れるなよ」
「分かっているよ、周りが危なそうだものね」
危ないのはお前じゃなくて襲撃者の方じゃないか? と言う言葉をマルスはまだ熱いスープで流し込んだ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
とうとう借金が七日に。




