48歩目「ドラゴン、落ちる」
『Side ピア』
まるで矢のように飛んで行った少女から無数の手が花のように伸びる。
はっきり言って悍ましい。
木乃美ちゃんの説明であれが英雄の一種であることは理解しているけれど、それでも本能的な悪寒を止めることができない。
端的に言うとみているだけで背筋がぞくぞくしてきて恐怖感がわいてくる。
私だけなんだろうか?
フォルテちゃんもアルト君も平気そうな顔で見ている。
魔法系の素養が関係しているのかもしれない。
「よっし、捕まえたぞ!」
「上手くいったわね」
「……いやドラゴンは羽で飛んでいる訳じゃないからな。生前からドラゴンは魔力で空を飛んでいるんだ、そうじゃなきゃあの巨体で空を飛べないからな。極端な話、あの鱗が突破できないなら腕を縛ろうが足を縛ろうが体中をぐるぐる巻きにしようが意味はない」
みんなは腕が巻き付いた光景をみて一喜一憂している。
みんなにはあの恐ろしい光景が見えないのだろうか?
ドラゴンゾンビの不浄な魔力をあの腕が吸い込んでいる。
不死者の魔力は人間には淀んだ泥のような物。
彼女はそれを平然と飲み込んでいる、こういえば恐ろしさが分かるかもしれない。
ドラゴンゾンビの羽の部分から魔力が抜けていく……このままだと。
「みんな逃げて!」
「え? ピアどうした?」
「落ちてくるよ!」
こちらの上空を低空飛行で飛びぬけようとしたドラゴンゾンビが空を飛ぶ力を失ったら……
「全員横に走れぇ! 押しつぶされるぞ!」
アルトが大声を上げて走りだす。
私もフォルテちゃんに手を引かれるように走り出した。
「良いから走れ! あんな腐ったトカゲに潰されたくないだろうが!」
マルス君たちは反対方向に叫びながら走っていく。
周囲の他の傭兵さん達も慌てて逃げ出し始めた。
何人か既に諦めきっていた人たちは反応しなかったけど、そこまで構ってはいられない。
大きな音を立てて、ドラゴンゾンビたちが一塊になって落ちてきた。
幸いなことに巻き込まれた人はいないようだ、余波の雪を被ってしまった人たちはいたみたいだけど。
「木乃美ちゃんは?」
「あそこだ!」
ドラゴンゾンビたちの前、まるで羽のようにふわりと木乃美ちゃんが着地する。
あんなに高い所から落ちて来たのに怪我をしているようには見えない。
英雄の力と言われてしまえばそれまでかもしれないけれど、あれも得体の知れない力のように感じてしまう。
「よっし、敵が地上に落ちてくればこっちのものだ!」
そんなことを気にせずにアルト君は剣を抜き放った。
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