42歩目「避けられた視線の先」
昨日更新できなかったため、今日は二話更新です。
木乃美の言葉を聞いてマルスがまず思い出したのは故郷のいた奇術師だ。
持っている金属の話を次々とつなげて見せたり、どこからともなく鳩を出して見せたり、凄いときは体を切断したり、猛獣を召喚したこともあった。
幼いころのマルスはその光景を楽しみつつもどうしても心から信じることができず、何時も彼を観察していたのだが一度として彼の奇術を見破ることができなかった。
「くそ……どうしてなんだ? まさか本当に魔法なのか?」
「さて? 唯一つ言わせていただければ我々は人の視線を、意識を操る達人でございますから」
悔しそうに奇術師を見つめるマルスに対して、奇術師はおどけて恭しく礼をして見せた。
そして顔を上げるとその腕には何故か花が握られている、先ほどまでは手ぶらで会ったにもかかわらずだ。
「降参だ……何か手がかりをくれ」
「そうですねえ……」
すっかりしょげてしまったマルスの前で奇術師は花をヒラヒラと動かす。
次の瞬間、花は杖へと姿を変えた。
「例えば、何か派手な動きをした時、特徴的な動きをした時、意味ありげな行動をした時、唐突な動きを見せた時……マルス様は視線を向けられますね?」
「そうだな、意識的か無意識にかは置いておいて」
「我々がその様な動きをした時は……視線を引き付けておいて別の方向で何かを用意しているのですよ」
「マルス君?」
「……」
木乃美の一言で、マルスは我に返った。
そして地面を見てからそのまま空を見つめる。
相変わらず薄灰色の雲が立ち込めて雪がちらついているだけの空だ。
「……地面に目を向けさせておいて……か」
「え?」
「ラドリオ……何か見えたり聞こえたりするか?」
「は? どうしたんだいきなり」
マルスにいきなり声をかけられ、足元を睨みつけるように歩いていたラドリオが気の抜けた声を出す。
いつもの調子で、何かを軽く言い返そうとした様子のラドリオだったが、マルスの真剣な表情に肩をすくめると、空をじっと見つめ始めた。
「……いや、何もないぜ」
じっくりと周囲を確認して、ラドリオが軽く首を横に振る。
マルスも小さくため息をついて乾いた笑いを漏らす。
「……ははは、そうだな。気にし過ぎた、俺も木乃美―――」
「―――待った」
唐突にラドリオがマルスの言葉を遮った。
そこに先ほどまでの軽い様子はない。
「……俺の耳が錆び付いてなければ、前方にはばたきの音、数は三……デカい」
手を雪避けにしつつ、ラドリオはもう一度前方に目を凝らす。
いつもおお読みいただきありがとうございます。




