38歩目「傭兵らしい決着」
腕腕足腕腕足足。
細かいジャブのような攻撃がじわじわとアルトにダメージを与えていく。
対してアルトは赤の攻撃を防ぐのが精いっぱいで反撃すらままならない。
近すぎて大剣の火力を生かせない上に、剣を防御に使っているため大きく振ることすらできない。
完全に至近距離で赤に抑え込まれている状況だ。
「アルト頑張れ!」
「もう見てられないよ」
フォルテとピアの応援とも悲鳴とも付かない声援を受けながら、アルトは苦しそうに顔を歪ませている。
「妙だな」
不機嫌そうに試合を見ていたマルスが小さくつぶやいた。
「何が妙なんだ? 戦況は変わってない様に見えるけどな」
「だからだよ。対抗策が見いだせないならこの状況は積みだ、さっさと降参した方がいい。忘れているかもしれないが今は戦争中で今日も行軍があるんだ、余計な疲れやダメージは残さない方がいい。アイツも傭兵ならそれくらい分かっているだろうさ。だとすれば今の状況は、アイツがよほどの負けず嫌い且つ……」
「……逆転の策があるってことか!」
ラドリオの叫びとアルトが小さくよろめいて地面に手をついたのはほぼ同時だった。
よろめきつつ立ち上がるアルトに対して赤は油断せず拳を構える。
「もう降参?」
楽しそうな表情以外は油断ない構えの赤にアルトはにやりと笑みを返した。
「まだだよ!」
「うぷっ!?」
突然視界を塞がれて赤が驚きの声を上げる。
倒れた先に握りこんでいた雪玉を顔面にモロにくらったのだ。
「あ、ちょっと持っていてくれ」
「え? うわちょっと!?」
さらに大剣を投げ渡される。
人間こういわれて投げ渡されると反射的に受け取ってしまうことが多い。
抱える様に受け取ってしまった赤は、大剣で視界が塞がれてしまう。
その隙を逃すようなへまをアルトはしない。
「うわっ」
その隙をついて両足を刈られる赤は大剣に潰される形で後ろに倒れ込む。
倒れ込む瞬間に、予備の剣を足首から引き抜いたアルトがその首に短剣を突きつけた。
「……油断大敵ってな」
「……こーさん」
先ほどと同じにやりとした笑みを浮かべるアルトに、赤は苦笑いを浮かべながら両手を上げて雪の上に倒れ込んだ。
「……まじか、あそこから逆転されるとは思わなかった」
「傭兵らしい手だな。目つぶしと搦め手……ありがたいことにな」
どことなく嬉しそうなマルスにラドリオはため息をつく。
「……負けたって言うのに嬉しそうだな」
「死にもしない戦いでいい経験をできたんだ。赤もあの通り喜んでいるしな」
マルスの視線の先では、赤が笑顔でアルトに引き起こされていた。
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