37歩目「至近距離戦」
再び強烈な一撃を放つかと思われた赤だったが、以外にも次の攻撃は地味なものだった。
「りゃ!」
「ぐっ」
いなした勢いを生かしたシールドバッシュ、だがその一撃はアルトの腕に当たり僅かによろめかせただけだ。
大鬼すら殴り飛ばす彼女にしては控えめ過ぎる一撃だ。
「くっ」
「ふっふー」
アルトが顔を歪めながら距離を取るために大きくバックステップをするが、それに追従するように赤は至近距離を維持する。
二人の間には人ひとり入る隙間すらない、アルトは勿論赤も近すぎて火力が出せない距離だ。
だがそれでいいと言わんばかりに赤はその位置から小さな一撃を入れ続ける。
無論あるともただ殴られてはいない。
巨大な剣は近距離では振り回せない分巨大な障害物にもなり、それを盾にして顔や首などを守りつつ反対手や足で反撃を加えてくる。
体術勝負では赤に分があるらしく攻撃はアルトを絶えず攻め続けるが、急所には至らないため地味ではある。
そもそもアルトは胴体に動きやすいような皮鎧を身に付けていて胴体には攻撃が当たらない。
きちんと男性の弱点までカバーしているらしくたまに蹴りが当たっても、ヒヤッとする表情を浮かべるばかりで痛みを感じている様子がないのが救いだ。
これは見ているラドリオやマルスにとってもだ、そういう攻撃は見ているだけで自分も肝が冷える。
膝当てや肘当てもあるため、赤がアルトに攻撃を与えることができるのは二の腕や太ももに限られていた。
「……なるほど、そういうことか」
「マルスの坊やにはもう分かったと、相変わらず賢いねぇ」
「あいつの能力は恐らく『相手の威力や速度を上乗せした反撃の一撃』って所だろう。さっき赤が吹き飛ばされたのは自分の火力と速度をそのまま相手の威力込みで跳ね返されたからだな」
フォルテの方がびくっと体を震わせてマルスの方を見る。
どうやら当たらずとも遠からずと言った様子だ。
「じゃあなんでさっきから、赤の嬢ちゃんの攻撃を跳ね返さない?」
「制約があるんだろうさ、ある程度の威力以上しか跳ね返せないとか、跳ね返すためには距離が必要とか。それを見越しての赤の動きだ]
「至近距離で、小さな攻撃の連打。なるほどようやく俺にもわかった」
「だったら口を閉じていろ」
赤が優性かつ、相手の能力を見抜いてもマルスの機嫌は悪い様だ。
何が原因なのかはなんとなくわかるがラドリオは突っ込まないことをする。
こういう場合彼の地元ではこういう、
「寝ている竜を突いて逆鱗に触れるのは愚か者の所業」
つまり藪を突いてなんとやらという意味だ。




