36歩目「数歩の距離」
本日二回目、みんな(たぶん)大好き戦闘回
仕切り直しとばかりに堂々と歩み寄ってくる赤。
アルトも詰め寄っていた女性陣に元の位置に戻る様に身振りで促す。
二人は慌てて観戦していた位置まで戻って行ったが、慌てる必要はなかったようだ。
赤は、最初に立っていた位置を過ぎても悠然と歩いてくるのを止めない。
「どうした? 一撃きついのを食らったからもう降参か?」
「まさか、そうじゃないよ。それにそんな分かりやすい挑発に乗るほど僕は馬鹿じゃないよ」
「あーそれもそうか」
にこやかに会話する二人を見ていると、今が摸擬戦の最中であることを忘れそうだ。
会話しながら赤は距離を詰め、背丈三つ分くらい手前で止まる。
赤にして数歩、アルトならば一歩で相手を射程に収められる位置だ。
「初手はもらったから、次はそっちからどうぞ?」
「いやいや、ここは女性に花を持たせるべきだろ」
「そうかな? ふふふ」
「そうだな、ははは」
赤は先程の一撃を警戒して踏み込まず、アルトは先程の一撃を再現するために動かない。
近距離でのにらみ合いが続く。
先にしびれを切らしたのはアルトの方だった。
彼からすれば、待ちに徹して能力を使った迎撃をした方が確実に有利なのだが。
あまりそれに固執し過ぎると、自分の能力が推測されると判断したのだろう。
元より間合いでは彼の方が有利だ。
一歩踏み込んだ横薙ぎの攻撃を赤がしゃがんで躱す。
大剣というものは重い一撃を放てる反面、小回りは効かない。
その隙をついて赤がしゃがんだ状態から踏み込もうとすると、さらにそれを予測していたアルトの下がりながらの薙ぎが襲う。
剣を振り抜いた後一回転して勢いを殺さぬまま放たれた一撃。
赤はそれを両手の盾で剣の上をすべるようにして躱す。
ギリギリと耳障りな金属通しの擦れる音と火花、体を横回転させることで勢いを殺した赤が、再びアルトに迫る。
殆ど至近距離、さらに勢いのまま振り下ろされようとした大剣の根元を盾で押さえる様に赤が組みついた。
「なるほどなるほど、やっぱりそういうことだね」
「……降参する気になったのか?」
「まさか、そうじゃなくてね。何となくだけど君のさっきのパワーの秘密がわかった」
会話しつつも大剣がぐいぐいと赤の方に押し込まれていく。
一見すると赤の方が力負けをしているようにも見えた。
少なくとも周囲からはそう見えたようで。
「アルトそのまま一気にイケ!」
「それだと流石に危ないから早く降参して!」
フォルテは高揚したのか跳ねる様に応援をし、ピアは逆に木乃美を心配して声援を送る。
ぎゃくにアルトの表情はすぐれない。
「……まじかよ」
ひきつった笑いを漏らすアルトの大剣を赤はそのままいなした。
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