35歩目「嵐の前の静けさ」
『Side ラドリオ』
波乱の夜が明けた。
波乱と言っていいのかどうかは知らないがラドリオとしては凄く冷や汗をかいたので波乱の夜だ。
木乃美の説明で女性陣は納得したらしい。
そもそも英雄の能力なんているのは説明するのが難しい。
明らかに常識なんかを無視する能力が多いからだ。
一夜明けてまだ薄暗い早朝、ちらちら降る粉雪を背景に、男と女が向き合っていた。
片や身の丈ほどの大剣を正面に構えて、獣のような笑みを浮かべる分隊長アルト。
片や顔より一回り大きい盾を二つか前、前傾姿勢をとる『赤』だ。
昨日の話し合いに出ていた摸擬戦をやるために、わざわざ全員で早起きした。
ラドリオとマルスは、木乃美が何かやらかさないか心配で。
フォルテとピアは彼女の実力を確かめる為である。
朝早くを選んだのは、昨晩大騒ぎをしていた傭兵たちの殆どが寝静まっているからと、夜に比べて一面の雪のお蔭で早朝のか細い朝日でも周囲は十分に明るいからである。
剣を抜き放つアルトに対して、木乃美が選んだのは赤の人格。
まさしく大鬼の英雄、オグリアスから『竜を倒せる』と太鼓判をもらった人格だ。
パワータイプの近接戦士に対して実力を見せるにはうってつけだろう。
大人しい人格候補では、青と緑、近接系では他に闇や白があげられるが。
青は罠を仕掛けたり策を弄するのに長けているため近接戦では不向き。
緑は同じ魔法使いのピアに、魔法使いとして知識不足なことを隠すために不採用。
殺人狂の闇は論外として、白は謹慎中とかで、赤しか候補がいなかったともいえる。
ラドリオの目の前で、二人はかれこれ数ミニ(分)は睨み合っている。
どちらも隙を窺っているのか、あるいはすでに見えない攻防は始まっているのかもしれない。
ラドリオの喉がごくりとなった。
「なあ」
フォルテとピアも、初めは姿が変わったことに驚いていた。
今はその実力のほどを見逃さぬように、じっと二人を見つめている。
「なあ……ふぁ~」
「どうした? 眠いなら帰っていてもいいぞ?」
「一人で帰れるか、このクソ寒いのに。そうじゃなくてだな」
マルスが二人をじっと見つめる。
その表情はうきうきとした物から、段々困惑というべきか、こちらを窺うような表情に変わってきていた。
「二人とも喜々として向かい合い始めたのはいいんだが……誰か始まりの合図とか決めてたか?」
「「「「「あ」」」」」
五人分の声が重なった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
説明の意味が某英霊のような物。
であって、木乃美の能力が本当にそれと言う訳ではありません。
紛らわしい言い方をしてしまったので念のため。




