30歩目「荒れる中隊」
『Side マルス』
「おい、あんまり出歩くなよ」
「うん、マルス君」
激闘からしばし時が過ぎて二日目の夜。
中隊内部の空気は昨日に増してギスギスしていた。
あちこちから怒声が飛び交い小競り合いが絶えない。
「……怒りが俺たちだけに向いていないのが幸いだな」
「そうだね」
「いやいや、俺たちも十分苦労させられたからな?」
たき火の傍でまったりとしている二人にラドリオが苦笑いを浮かべつつ飲み物を差し出した。
どうして中隊内が荒れているか?
それは中隊の指揮官に原因があった。
「第一中隊の諸君、結局戦闘が無くて暇を持て余しているだろう? 前方の処理をしたまえ」
帝国貴族だというその男は、戦闘後中隊に対して、前方の死がいの山を片付けるように命じた。
この命令自体は理に適っている。
腐敗した肉などを放置しておくと病気などの要因になるし、不死者の死がいを放置していると、その場に新しい不死者が発生する恐れもある。
問題はその仕事を僅かながら死傷者のでた第一中隊に、無能に命令するかのように言ったことだ。
あとは死体が広範囲に散らばっていることも反発を生んだ要因の一つだ。
では死体を散らかした当人にも反発が集まるかと思いきや、ここにも中隊長殿はやらかしてくれた。
「それで……お前たちだな? 突撃命令を出す前に独断専行した馬鹿どもは……お前たちのせいで敵の多くに逃亡を許してしまった。本来ならば分隊全員連帯責任で軍法会議にかけるところだが、今は時間が惜しい。今回は功績に免じて不問とする」
どうやら突撃命令を出す前に木乃美が、正確には灰が敵陣に進んでしまったことが気に食わないらしい。
本来ならば敵の半分近くを排除したマルスたちは十分な報奨を与えられてしかるべきなのだが、わずかな報奨すらなし。
この待遇に周囲から同情された結果、あまり灰に反発が集まることはなかったのだ。
その代り、万に近い死体の残骸を半日近くかけて片づけさせられねぎらいの言葉すらない中隊長殿に対して、中隊はかなり苛立っている。
十分な活躍をした人間を評価せず、苦労に対して形だけの礼すらない。
ろくでもない戦場に来てしまったと荒れてしまうのも無理はない。
「しかしこれは困ったことになったな、損傷を押さえて敵を追い返したとなれば多少は評価されるもんなんだが……一切の評価なしとは。帝都に入るためには評価がいるっているのにな」
「最悪、首魁の首でも狙うしかないかもな」
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