29歩目「腕からは逃げられない」
突然だが、動く死体の足は遅い。
どの程度遅いかと言うと、子供の足でも容易に逃げ切れるほどに遅いんだ。
ただし大抵の場合は逃げきれない。
まず子供は動く死体を見て足がすくんでしまう。
腰を抜かしてしまえば絶対に逃げきれない。
動じなかったとしても動く死体は複数で出現、使役されることが殆どだ。
気づけば囲まれている状況が多く、足の速さは無意味になる。
そして彼らは執念深い。
体力が尽きることがないから、全力で見えなくなるまで逃げて大丈夫だと思って休んでいると後ろから。
なんてことがよくあるのだ。
話が逸れたが用は、動く死体が逃げる速度も高が知れているってことだ。
彼らなりに必死に逃げていたのだろうがあっという間に白い腕に脚を掴まれる。
こちらからは、掴まれた後どうなっているのかはよく見えない。
「見えない方がいいぞありゃ……うっ」
目を凝らしていると、同じ分隊の青年に止められた。
たしか彼はラドリオだったか、どうやら目が良いせいで『見てはいけない光景』を見てしまったらしい。
青白い顔をしている。
「ううっ」
弓使いであるフォルテも口を手で押さえて蹲っている。
どうやら本当に見るに堪えない状況らしい、気になるじゃないか
「どうなっているんだ? 説明してくれ」
「この状況を見て気を遣おうって思わないのかい」
「だから気を使って男のラドリオに聞いているんじゃないか」
流石に気が強いとはいえ、同じように青い顔をしている女性のフォルテに聞くわけにはね。
「簡単に言うと、腕に捕まれたら最後動く死体どもはバラバラに引き裂かれているな。どうやらあの腕は『掴んで引っ張る』ことしかできないみたいだ。まるで地獄の亡者だな、あいつ等の腕だろうが足だろうが首だろうが何だろうが、掴めるところは掴んで引っ張っているみたいだ。見てみろ? 腕っぽい物が飛んでいることくらいはお前でも見えるだろ?」
ラドリオが指さす方向を見れば、確かに棒状の何かが偶に飛び交っているのが見える。
動く死体に初めて同情した。
そりゃ生きながらバラバラに引き裂かれるとか、逃げたくなるよな。
あれ? あいつ等死んでいるんだっけか?
時間にしたら30ミニ(分)もかからなかった。
俺たちが自陣で呆然としている間に、少女は敵陣の低位不死者をほとんど片付けてしまった。
気づけば知恵のまわる連中はとっくの昔に逃げていったらしく、雪原に残っているのは、腐臭と腐肉と骨……残骸のみだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
減るものではないのでネット小説大賞に応募することにいたしました。
残虐描写の部分で選考から除外されるかもしれませんが。




