28歩目「少女進軍ス」
周囲の人間そして不死者たちが唖然として立ち尽くす中、少女は静かに前へと進みだした。
フラフラとした頼りない足取り、軽く体を左右に揺らしながら歩く姿は幻のごとく儚く見えた。
その足元から無数の白い腕が湧き出してこなければの話だが。
「ひっ!」
「……うわぁ」
「……」
周囲から恐怖の小さな悲鳴や吐息が響く中、少女は敵陣に向かって歩き続ける。
「白い草原を歩いているように見えなくもない」
「……あの光景を見てそういう感想が出てくるのは肝がすわっているとかじゃないと思うんだが」
無数に湧き出す白い腕の中を進む姿が、俺にはそう見えたために思わずつぶやいたんだが、分隊の少年に嫌そうに突っ込まれた。
何故か俺を嫌っている節があるマルスという名の少年だ。
今この光景を平然と見ている者の一人でもある。
「じゃあどうみえるんだ?」
「もし極寒の悪夢があるとするならこんな光景だろうな」
「随分と詩的じゃないか」
頭を撫でようと手を伸ばしたら、かなり強めに手を払われた。
先ほどのやり取りの間僅かに目を離していたのだが、気づけば彼女は敵陣のすぐ前まで移動していた。
その移動速度に違和感を感じた。
足跡もついている、俺は目を離したがこれだけ人がいればずっと見ていた人間もいるだろう。
少なくとも全員が同時に目を離すことはありえない筈。
それなのに彼女は、先ほどの歩調では辻褄が合わないほどに速く敵陣に到達している。
途中で加速したり、跳躍したりしたならば誰かしら反応しただろうし。
「ますます不気味だな」
「……娯楽が発達しているのも考え物だな」
マルス少年の呟きを無視して俺は少女を見つめ続ける。
彼女が戦う光景は背筋を震わせると同時にどこかワクワクするんだ。
流石に正面まで近づかれて動く死体達も反応して動き出す。
予想外に後ろへ。
「ゾンビが逃げるところなんて初めて見た」
「奇遇だな、俺もだ」
不死者は、特殊な個体を除いて高位なほど知能が高く、低位になればなるほど本能で、特に食欲で動く傾向にある。
中には血狂いの吸血鬼や喋って考えるスケルトンなんかもいるらしいが、それは例外だ。
動く死体ともなれば、使役者がどんなに優秀であっても、とまれ、進め、襲えくらいの命令しかできない筈だし、相手がどんな脅威であっても自損をものともせず向かっていくはずだ。
それが逃げ出すとは、彼女はさばみにゅ
「あいつ等にはあの子がどんな風に見えているんだろうな」
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